「直腸がんの手術後の後遺症」はどんなことが考えられる?【医師監修】

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直腸がんの手術は近年、術後の生活の質(QOL)が重視されています。人工肛門(ストーマ)設置が一般的だった頃とは違い、肛門温存術が主流になっているためです。

術式が変化してきた現在においても後遺症や合併症のリスクは大きな関心で、特に排便障害は生活の質に大きくかかわってきます。

そこで、本記事では直腸がんの術後後遺症や手術に伴う合併症、改善の可能性、対処法などについて詳しく解説します。

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監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

直腸がんとは?

直腸がんの後遺症について知るためには、直腸がんについての知識を深める必要があります。まずは直腸がんとはどのようながんなのか簡単に説明していきます。

直腸に発生した悪性腫瘍

直腸とは肛門付近の15~20cmにあたる部分で、大腸の一部です。直腸がんは、この直腸を原発巣とする悪性腫瘍です。
症状としては下痢と便秘の繰り返し、残便感・便が細くなる・血便・腹部の不快感などがありますが、初期は無症状で検診によって発見されるケースが大半です。
直腸がんをはじめとする大腸がんに罹患しやすくなるとされている生活習慣には、運動不足・野菜の摂取不足・赤身肉や加工肉の摂取過剰・肥満・飲酒などがあるといわれています。
直腸がんは周辺への浸潤・他の臓器への転移などを繰り返すがんですが、早期に発見して適切な治療を受けられれば5年生存率は90%を超えています。

大腸がんのうち約40%を占める

大腸がんは増加傾向にあり、直腸がんは大腸がんのうち約40%を占めています。
特に日本人は直腸がんが多いとされていますが、決定的な原因は分かっていません。
ただし、動物性脂肪の摂取量増加など食生活の変化が、直腸がんをはじめとする大腸がんの増加に影響を及ぼしているのではないかといわれています。

直腸がん手術後の後遺症について

直腸がんの手術は骨盤内の狭い空間で行う必要があるうえ、周囲には他の臓器や血管、神経が密集しており、難易度は高めです。
なんらかの排便障害が起こったり、骨盤内の性機能に関する神経への影響で性機能障害を発症することもあります。

低位前方切除後症候群

低位前方切除術とは直腸がんの手術のひとつで、直腸の一部を切除したあと腹膜反転部より下で縫い合わせる術式です。
低位前方切除後症候群とは便を溜めておく機能のある直腸が短くなることなどが原因で起こる腸機能の障害で、頻便、便失禁、便意切迫、分割便などが主な症状です。
低位前方切除症候群は、軽いものを含めると術後の80~90%の患者さんに起こるとされ、術後11~15年経過した患者さんの約50%でも確認できます。
治療法としては食事療法、薬物治療、骨盤底筋訓練、仙骨神経刺激療法などがあります。
こうした排便障害は低位前方切除術・肛門括約筋切除直腸切除術で起きるもので、直腸から腫瘍のみを取り除く局所切除では起こりません。

性機能障害

骨盤内部には性機能に関する神経もあり、がんの進行状態による神経切断や、手術中に神経が傷つくことで起きる可能性があります。
自律神経をすべて温存しているケースでは性機能障害は起きにくいですが、下腹神経に損傷が生じたような場合には起きやすくなります。

直腸がん手術後の後遺症として排便障害が起こる原因は?

直腸がんの術後で生活の質に大きな影響を与えるのが、排便障害です。排便障害の原因としては、以下のようなものが挙げられます。

便を溜めるスペースが少なくなるため

肛門括約筋が傷つくため

神経が損傷したため

これらがなぜ排便障害の原因となるのか、簡単に説明していきましょう。

便を溜めるスペースが少なくなるため

ある程度進行した直腸がんの場合は腫瘍だけを取り除く局所切除では対応できず、直腸の一部を切除せざるを得なくなります。
直腸を一部切除すると便を溜めるスペースが狭くなり、頻便や便失禁が起こる可能性があるのです。

肛門括約筋が傷つくため

直腸に便が溜まっていても余程のことがない限り便失禁に至らないのは、肛門括約筋が出口をしっかり塞いでいるからです。
直腸がんの発生部位が肛門に近い場合には、内肛門括約筋切除術を行います。括約筋の一部を切除すると出口を締める力はどうしても弱くなり、便失禁が起きる可能性があります。

神経が損傷したため

括約筋のうち外肛門括約筋は随意筋で、自分の意思で動かすことができます。この外肛門括約筋を動かす神経も骨盤内に存在しており、手術によってこの神経が損傷してしまうと排便障害が起こる可能性があります。
また、排便や排尿には自律神経も関係しているため、直腸がん手術に伴う自律神経の損傷も排便障害につながります。

直腸がん手術の合併症

では、直腸がんの手術で起きやすい合併症はどのようなものがあるのでしょうか。
合併症の種類と原因、症状について詳しく解説します。

縫合不全

直腸の一部を手術によって切除した場合、残りの部分をつなぎ合わせます。この縫合が不十分だと便やガスが腹腔内にあふれてしまうことがあり、肛門に近い部位の直腸がんは縫合不全が起きやすいとされています。
重篤な場合には腹膜炎の原因となり、改めて手術が必要になることがあります。

創感染

創感染とは手術創に細菌が付着し、傷口が化膿してしまうものです。
直腸がんの手術は排泄物に接する機会が多い部位で行うため、どうしても衛生面が課題となります。症状は傷口付近の腫れ、発熱、痛みなどです。創感染が起きた場合には抜糸や切開などを行います。

腸閉塞

腸閉塞は、食べ物が腸をスムーズに通過することができず内容物が停滞してしまうことで、腹部の張りや吐き気などを引き起こします。
直腸がん手術の合併症として起きる腸閉塞の多くは、癒着によって腸管が狭くなることが原因です。手術後に腸の働きが悪くなることで起きるケースもあります。まず食事を中止して点滴などの内科的治療を行い、効果が見られなければ外科手術を行うことになります。

直腸がんの手術後の後遺症についてよくある質問

ここまで、大腸がんの主な術後後遺症、排便障害の原因、術後合併症などについて説明してきました。ここからは直腸がんの術後後遺症についてよくある質問にMedical DOC監修医が回答します。

後遺症は完全に治りますか?

中路 幸之助(医師)

直腸がん手術の後遺症は患部を切除することにより、本来持っていた機能が失われることによって起きるものです。直腸の一部を切除することで、便を溜めておく機能が低下することはその代表的な例といえます。低位前方切除症候群は、術後10年以上経っても症状が残る場合があります。切除によって失われた臓器の機能が、完全に元通りになるとは限らないと考えるべきでしょう。いつまでに治ると考えるよりも、対処法を考えていくことが重要になってきます。

排便障害、排尿障害の対処法について教えてください。

中路 幸之助(医師)

排便障害については、まず内科的治療を行います。薬剤によって便を適度な硬さにしたり、骨盤体操を行って改善を試みます。改善が見られなければ仙骨神経刺激療法をはじめとする外科的治療に移行します。排尿障害の多くは、神経損傷が原因で起こる神経因性膀胱です。薬物治療や、清潔間欠的自己導尿法の指導によって対応します。

編集部まとめ

手術によって直腸の一部を切除することは、臓器が本来持っていた機能が失われることを意味しています。

直腸がんは、進んでいればいるほど後遺症のリスクは大きくなるので、定期的に検診を受けて早期発見に努めましょう。

直腸がんと関連する病気

直腸がんと関連する病気には、下記の2つがあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する病気

痔疾

ストレス性の便秘・下痢

いずれも直腸がんの症状に類似している点があります。普段の生活の中でも起こりやすい症状で見逃されやすいため、注意が必要です。

直腸がんと関連する症状

直腸がんと関連する症状には、下記の5つがあります。
各症状の原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

血便便秘

下痢

便が細くなる

残便感

直腸がんの初期は無症状が多いようです。こうした症状が出ている場合、ある程度進行している可能性もありますので注意が必要です。

参考文献

直腸癌術後の排便障害:低位前方切除後症候群

直腸癌術後の排便障害(日本大腸肛門病学会)

大腸がん(結腸がん・直腸がん)治療(国立がん研究センター)