東武動物公園駅の西口。途切れた跨線橋は2014年まで使われていた(撮影:鼠入昌史)

昔ながらの遊園地や動物園には、なぜか決まってレトロな曲調のテーマソングがある。首都圏の人なら耳馴染みのある富士サファリパークや(もう閉園して久しいが)小山ゆうえんち。東北に目を向ければ、ヤンヤンヤヤーンの八木山ベニーランド。数え上げればキリがない。

で、我らが東武動物公園にも、テーマソングがある。テレビCMなどでも流れる「とーぶどーぶつこーえん♪」なんて感じの……といっても、文章で説明するのはいくらなんでも難しい。ならば、どうするか。手っ取り早くメロディを聴くことができるのは……そう、東武動物公園駅のホームである。

伊勢崎線と日光線が分かれる要衝

そんなわけで、はるばる東武動物公園駅にやってきた。その名の通り東武動物公園の最寄り駅だ。ホームの発車メロディは、もちろん東武動物公園のテーマ。ああ、これか、懐かしい……と思う人もいれば、初めて聴くけどなんだかレトロポップな懐かしさがあるなあと思う人もいるだろう。

あ、テーマソングを聴くなら駅でとどまらずに動物公園まで行けばいいじゃないかというご指摘は、とりあえず脇によけておく。そんなことを言ったら身もふたもないですからね。

そして東武動物公園駅は、東武鉄道のネットワークにおいて、極めて重要な位置づけでもある。いわゆる“東武スカイツリーライン”の愛称を持つ区間はここで終わり、ここから先は伊勢崎線と日光線に分かれることになる。

ところが、相互直通運転をする都心の地下鉄からやってくる電車はスカイツリーラインの終点たる東武動物公園駅を越えて、伊勢崎線方面は久喜駅まで、日光線方面は南栗橋駅まで走る。

正直言って、このあたりの鉄道を利用する機会が少ないから、ちょっとこんがらがってくる。こんがらがるくらい、東武動物公園駅は要衝のターミナルというわけだ。

「ですからね、都心方面に向かう列車も伊勢崎線の久喜駅、日光線の南栗橋駅それぞれからやってくるんです。何もなければいいんですが、平面交差なものですからダイヤが乱れるとひと苦労。都心方面の行き先も変わってくるので、もうつきっきりで案内放送をしないといけなくなるんです」

と、打ち明けてくれたのは、2023年の秋から同駅を預かる東武動物公園駅管区長の神崎和幸駅長だ。


東武動物公園駅の神崎和幸駅長。ホーム上には日光線のゼロキロポスト(撮影:鼠入昌史)

駅長が語る東武動物公園駅

「駅の周りは古い住宅地に加えて新しいマンションもできていて、通勤のお客さまはだいたい都心方面に向かわれますね。ただ、むしろ朝のラッシュ時は都心方面の上り列車よりも下り列車。通学の学生さんで、朝の下り列車はもうかなり混雑しますよ。とくに7時30分から8時くらいにかけての館林行き。新越谷駅あたりから学生さんで混み始めて、春日部駅でたくさん降りるけどまた乗ってきて、動物公園駅でまた乗って。久喜駅でもJRとの乗り換えがあるので、なかなか……」(神崎駅長)


「東武スカイツリーライン」は同駅まで。これより先は伊勢崎線と日光線に分かれる(撮影:鼠入昌史)

朝ラッシュ時には都心方面に向かう上り列車ばかりが混み合うというのは都会に暮らしている人の偏見なのだろう。電車を使うのは通勤だけではなく、むしろ少し都心から離れれば通学の学生が中心になる。

だから、上りも下りも関係なく、通学時間帯は大にぎわい。このあたり、東武動物公園駅は“都心と地方”の境目のような位置づけなのだろう。だから、上りの通勤ラッシュと下りの通学ラッシュという、ふたつの側面を持っている。


東武動物公園駅西口。かつては車両のメンテンナンス工場が広がっていた(撮影:鼠入昌史)

さて、そんな東武動物公園駅だが、実際にやってきてみて驚いた。改札口を抜けると、目の前にはタリーズコーヒーにロッテリア。東口に出たら駅前広場の脇にはドトールコーヒー。こんなところにカフェ街道。動物公園にやってくるお客が多い休日ならばともかく、平日にお客さん、いるんですかね……。

老若男女でにぎわうカフェ

と思ってちらりとのぞいてみたら、それがまた意外にたくさんのお客でにぎわっている。地元のご婦人が友人と連れだってお茶をしているかと思えば、パソコンを広げて作業をしているビジネスマンの姿もあった。都心からずいぶん電車に乗ってきたような気がしたが、やっぱりまだまだ“東京”の匂いが濃厚だ。

「この駅は、もともと杉戸駅という名前で開業しました。駅の北側には旧日光街道の杉戸宿があり、それに由来します。1981年に動物公園が開園して、駅名も東武動物公園駅になりました。その頃は駅の西口(南側)には東武鉄道の杉戸工場があったんです」(神崎駅長)

杉戸工場は2004年に閉鎖され、いまは再開発エリア。オシャレな雰囲気の無印良品と東武ストアが西口駅前に誕生した。駅前広場には杉戸工場時代の記憶をとどめる転てつ機がオブジェとして鎮座する。鉄道の町から動物公園の町になり、再開発にともなってベッドタウンにもなりつつある、といったところだろうか。


西口には東武ストアと無印良品。杉戸工場跡地の再開発で誕生した(撮影:鼠入昌史)

そんな駅前広場に立って駅舎をみると、線路の上でブツリと途切れた跨線橋(の残骸)があった。いったい、これはなんなのか。

「2014年まで使われていた古い跨線橋で、西口の杉戸工場も跨いでいたんです。いまは駅の倉庫として使っています。この風景も貴重と言えば貴重かもしれませんね」(神崎駅長)


杉戸工場時代の転てつ機。神崎駅長の後ろには途切れた旧跨線橋(撮影:鼠入昌史)

旧跨線橋の内部は?

神崎駅長の案内で、特別に旧跨線橋の中に入らせてもらった。2014年まで使われていたので、旧跨線橋の中もまだまだキレイだ。東口にあるドトールコーヒーの看板もそのままに残っていた。こうして少しずつ、駅というものは姿を変えてゆくのだろう。


旧跨線橋の内部は、現役時代のままの雰囲気が残されていた。まるで時が止まったかのように……というほど昔のことではない(撮影:鼠入昌史)

神崎駅長が管理している駅は、東武動物公園駅だけではない。ほかに、スカイツリーラインの姫宮駅、そして伊勢崎線の和戸駅がある。いずれも埼玉県宮代町に属する駅だ。これらの駅にも足を運んでみることにしよう。

まずは、姫宮駅だ。駅を降りると、西口には2階建て長屋タイプの団地が並び、その中を抜けてゆけばすぐに田園地帯へ。さらにその北の茂みの中には駅名の由来にもなった姫宮神社がある。


姫宮駅東口のロータリー。2024年2月時点では外壁塗装の工事中(撮影:鼠入昌史)

東口は団地こそないものの、やっぱりこちらも住宅地が広がり、その向こうには田園地帯。まあ、その……何の変哲もない住宅地の駅である。

両隣の姫宮駅と和戸駅

そして和戸駅は……。

「近くにお住まいの方以外がご利用になることはほとんどない、そんな駅だと思います」(神崎駅長)

和戸駅の北側は住宅地、南側はまだまだ田園地帯。駅舎と出入り口があるのは北側だけだ。“スカイツリーライン”の名が外れ、いよいよ北関東の雰囲気が漂いだした、といったところだろうか。ただ、本当に何もない駅などひとつもない。


和戸駅は島式ホーム1面2線。駅舎からホームまでは地下通路で結ばれている(撮影:鼠入昌史)


和戸駅は古い駅舎がぽつんと東側だけにある(撮影:鼠入昌史)

「駅のすぐ脇を備前堀川という小さな川が流れているのですが、この川を渡る伊勢崎線の橋梁の橋脚が煉瓦造りでかなり古いものなんです。明治32年と刻印があるそうで、開業当時からのものだと思います。宮代町でも観光パンフレットなどで紹介していて、ウォーキングコースにもなっていますよ」(神崎駅長)


特急「リバティ」が和戸駅近くの備前堀川橋梁を渡る。開業当時の煉瓦造りの橋脚がいまも残る(撮影:鼠入昌史)

その橋梁は、和戸駅から線路沿いを歩いてものの3分。現役の橋梁だし、備前堀川も川縁に降りられるような大きな川ではないから、川沿いから眺めるのが精一杯。だが、それでもいかにも古めかしい煉瓦造りの橋脚が確認できる。小さな駅に、東武鉄道の長い歴史の痕跡が残っているのだ。

各駅周辺を歩いてみれば…

そして、再び東武動物公園駅に戻る。取材で訪れた日は、運悪く東武動物公園の休園日。だから、改札前のカフェや駅前にいるのはほとんど地元の人たちばかりなのだろう。


東武鉄道40号蒸気機関車が、動物公園駅近くの公園に静態保存されている(撮影:鼠入昌史)

「歩いても10分くらいなので、休日にはかなりたくさんのお客さまが動物公園に向かわれますよ。あと、鉄道の町という痕跡も残っているんです。西口の杉戸工場跡の転てつ機もそうですし、宮代町役場の脇の公園には東武鉄道で使われていたSLも保存されています。また、これは東武のではないのですが、近くの日本工業大学で昔のSLを動態保存して公開しているんです。もしこちらに遊びに来られる方がいたら、いろいろと足を運んでいただきたいですね」(神崎駅長)

東武動物公園駅といったら、やはり駅名にもなっている東武動物公園の最寄り駅。鉄道の視点からは伊勢崎線と日光線が分かれる要衝の地。が、それ以外にも歩いてみればみどころはある。それはお隣の小駅、姫宮駅や和戸駅も。筆者には見つけられなかった隠れたみどころを、ぜひ歩いて探していただければと思う。


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(鼠入 昌史 : ライター)