「糖尿病性腎症」の食事療法を医師が解説! 運動・生活のコツや注意点もご紹介
糖尿病の3大合併症の中に「糖尿病性腎症」があります。なぜ糖尿病で腎臓に障害が出てしまうのか、発症・進行しないためにはどうしたらいいのか、「まごめ内科・腎クリニック」の井上先生に解説していただきました。
監修医師:
井上 禎子(まごめ内科・腎クリニック)
東京女子医科大学医学部卒業。東京女子医科大学病院腎臓病総合医療センター入局、茅ヶ崎徳洲会病院、東京労災病院などで経験を積む。2016年、東京都大田区に「まごめ内科・腎クリニック」を開院。日本内科学会認定医・専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医・指導医、日本糖尿病学会会員。日本医師会認定産業医。
糖尿病が進行して腎臓が悪くなる、合併症で糖尿病性腎症を招く理由とは?
編集部
まず、糖尿病について教えてください。
井上先生
血糖値を下げる働きのある「インスリン」というホルモンの働きが不十分となることで、血糖値の上昇した状態が続くのが糖尿病です。令和元年に厚生労働省が実施した「国民健康・栄養調査(※)」によると、国内の糖尿病患者数(糖尿病が強く疑われる人を含む)は約1196万人と推定されています。これは成人の10人に1人以上に相当します。初期は無症状のため放置されがちですが、気がついた時には身体に深刻な合併症が広がっているというのが糖尿病の特徴であり、恐ろしい点です。※厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査報告」
https://www.mhlw.go.jp/content/001066903.pdf
編集部
どのような合併症があるのですか?
井上先生
「糖尿病神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病性腎症」が、糖尿病の3大合併症と言われています。また、血流や感覚が悪くなって足の潰瘍になる人や、動脈硬化などで心疾患や脳血管疾患を引き起こす人も多いですね。
編集部
そのなかで、糖尿病で腎臓が悪くなるのはなぜでしょうか?
井上先生
高血糖が長期間続くと、腎臓の微小血管などがダメージを受け、腎機能に影響を及ぼします。透析が必要となる慢性腎不全の原因も、以前は「慢性糸球体腎炎」という疾患が1位でしたが、1998年から糖尿病性腎症が1位となり、現在まで続いています。
糖尿病性腎症を悪化させないための食事療法・栄養管理のコツやおすすめ食材とは?
編集部
腎臓疾患が進行すると透析が必要になってしまうのですね。
井上先生
はい。腎臓は主に体内の老廃物や余分な水分を取り除き、尿を作ることで、体内の毒素や余分な物質を排出する機能を持っています。これらがうまく機能しなくなると、初期は「タンパク尿」となり、進行するにつれて徐々にむくみや倦怠感などが表れ、最終的には尿毒症を発症し、透析治療をおこなわないと死に至ります。
編集部
そうならないための治療のポイントを教えてください。
井上先生
血糖値や血圧をコントロールするのはもちろんですが、症状が初期の段階から定期的に検査を受け、専門医からの指導をコツコツと実践し、正しい治療を継続することが大切です。治療内容としては、糖尿病治療薬や降圧剤の服用に加えて、血糖値を下げる基本の治療である食事療法・栄養管理や運動療法も重要です。
編集部
食事療法では、どんなことをするのですか?
井上先生
主に血糖値と体重のコントロールをしていただきます。糖尿病性腎症が発症する前は、血糖値を上げる要因の1つである炭水化物を控え、タンパク質や食物繊維を摂取すること、過剰な脂肪や塩分の摂取に気をつけることなどを実践していきます。また、食事内容だけでなく、食事のタイミングや食べる順番なども大事です。糖尿病性腎症を発症した場合には、また別の指導となっていきます。
編集部
具体的には?
井上先生
糖尿病性腎症を発症すると、塩分やタンパク質、カリウム・リンを摂りすぎないことが大切になってきます。さらに、糖尿病性腎症のステージが進むと、カロリーは十分に摂取していただき、タンパク質の摂取を制限していきます。
食事療法と併せて運動も大切! 糖尿病性腎症の人が取り組むべき生活習慣改善とは?
編集部
運動についても教えてください。
井上先生
血糖値や体重のコントロールだけでなく、体力維持、インスリン感受性の増加、心肺機能の改善という意味でも、運動、とくに有酸素運動はとても大事です。ただし、自己流でおこなうと低血糖発作や極度の体重減少などを起こしてしまうリスクもあるので、専門家に指導を受けたうえでおこなうことをおすすめします。
編集部
ほかにも、気をつける生活習慣は何かありますか?
井上先生
体重・食事管理は大事ですが、気にしすぎもストレスになって良くないと考えます。そのため、私は3日に1日を目安に調整するよう指導しています。「昨日食べ過ぎてしまったら、今日と明日はいつも以上に気をつける」といった具合です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
井上先生
糖尿病の患者さんには、まずは処方されている薬をきちんと飲んでいただきたいと思います。また、当院では薬物療法だけでなく栄養指導にも重きを置いています。指導内容を繰り返し聞くことで最適な生活習慣を身につけられることに加え、わからないことは栄養士に質問することで知識が身につきます。糖尿病と診断されても、食事や運動などの生活習慣を意識することで、透析になるのを遅らせる、回避することが可能です。ぜひ、一緒に取り組んでいけたらと思います。
編集部まとめ
糖尿病性腎症の人の食事や運動など生活のコツ、注意点についてお話を伺いました。食事は病気のステージによって、制限するものが変わっていくとのことでした。また、運動も自己流でやるとリスクが伴うとのことで、専門のクリニックで指導を受け、一緒になって取り組むのが大切です。
参考:糖尿病腎症の食事療法
https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/leaf_dkd_st3.pdf
医院情報
まごめ内科・腎クリニック所在地〒143-0025 東京都大田区南馬込5-27-13
アクセス都営浅草線「西馬込駅」 徒歩2分
診療科目内科、腎臓内科
03-6429-8191
ホームページ