整形外科と整骨院の違いは?

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 肩こりや腰痛などの際は整形外科を受診するか、整骨院に行くのが良いといわれています。どちらに行けばよいのか、迷った経験はありませんか。SNS上では「肩が痛いときは整形外科? 整骨院?」「整形外科、整骨院の違いが分からない」という内容の声が上がっています。

 そもそも、整形外科と整骨院は何が違うのでしょうか。それぞれ、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。整形外科クリニックや整骨院などを運営する、オルソグループ(大阪市西成区)会長で、医師の鞆浩康(とも・ひろやす)さんに聞きました。

整形外科はさまざまな治療に対応

Q.整形外科と整骨院の違いについて、教えてください。それぞれどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。

鞆さん「整形外科では、医師が診療を行っています。医師になるには、大学の医学部に入学後、6年間、医学に関するさまざまな知識を得た上で国家試験に合格する必要があります。医学部ではさまざまな分野を学ぶため、国家試験に合格すれば、整形外科医に限らず、他の診療科の医師に自由に転向が可能です。つまり、整形外科医は外科手術や薬物療法、リハビリテーションなどの治療全般を行うことが可能です。

ただし、医療を広範囲にわたって学んでいるため、肩こりや腰痛に関する手技療法を行うことは基本的に得意ではありません。そのような症状に関しては、理学療法士や柔道整復師に施術を指示して治療をするケースが多いです。

整骨院では柔道整復師が診療を行っています。専門学校で3〜4年学ぶか、4年制大学を卒業後、国家試験に合格すると、柔道整復師の資格を取得することができます。

骨折や脱臼の初期治療のほか、捻挫や打撲に対する手技療法、テーピングなどの非外科的な治療が可能です。柔道整復師は、腰痛や肩こりなどの症状を和らげる施術を行うことが比較的得意です。整骨院に勤務するだけでなく、医師の指示の下で病院やクリニックでリハビリテーションを行うことも可能です。

ただし、薬の処方や注射、出血を伴う傷の処置、外科手術などを含むその他の医療行為は行えません。また、慢性的な施術に関して、本来は保険治療で行うことは許可されていません。医師よりも治療理論や知識の統一化が行われていないため、柔道整復師によって技術にばらつきがあります。

このようなことから、湿布などの外用剤や内服薬を求める場合のほか、注射や手術などの治療が必要な場合は整形外科を受診することをお勧めします」

Q.整形外科クリニックと整骨院のどちらに行けばよいか分からない場合は、どうしたらよいのでしょうか。判断の目安はありますか。

鞆さん「まずは整形外科を受診することをお勧めします。先述のように、整形外科医は柔道整復師よりも幅広い医学知識を持っているからです。

例えば、肩こりと思っても、実際には頸椎(けいつい)症が原因だった場合のほか、腱板(けんばん)断裂などの器質的疾患、肺がんや心疾患などの内科疾患が隠れている場合があります。そのような疾患を見つけるためには幅広い知識とともにレントゲン検査やMRI(磁気共鳴画像法)検査などの画像診断、採血や心電図などの生理検査が必要となります。整形外科ではそのような検査をすることが可能ですが、整骨院では行うことができません。

検査の結果、医師が、明らかな器質的疾患や内科疾患がなく、機能的な障害による症状と判断した場合、その後の治療は受診する整形外科によってさまざまです。

例えば、痛み止めや湿布、低周波治療器などを使った物理療法のほか、ブロック注射などを行う整形外科が多いです。また、漢方薬を使う整形外科のほか、理学療法士や柔道整復師などによるリハビリテーションを行う整形外科もあります。このように行われる治療は幅広いため、患者さんの満足度もさまざまです。

この段階で初めて整骨院での治療が選択肢に入ってきます。整形外科における物理療法やリハビリテーションに該当する行為が整骨院で行われます。その方法はさまざまで鍼灸(はりきゅう)院を併設している場合は鍼灸による治療を行うことがあります。自分に合う整骨院を選ぶことをお勧めします。

1つ注意しなければいけない点は、整骨院の場合、慢性疾患に対して国民皆保険制度を利用する治療が認められていないため、治療はすべて自費となります。

次に、整骨院で国民皆保険制度による治療が認められている骨折や脱臼の初期治療、捻挫、打撲に関してですが、これらの症状についても、最初は整形外科を受診することをお勧めします。整形外科ではギプス固定やリハビリテーションによる治療のほか、手術を行うこともあります。また、手術に関する技術だけでなく、手術適応に関しても日々進歩しています。

最初に整形外科を受診し、治療方針を聞いた上で、納得できなかった場合には整骨院の前に他の整形外科を受診することをお勧めします。それでも納得できなかった場合は整骨院での治療も選択肢に入れても良いと考えます。しっかりと考えて納得した上で選択してください」

Q.本来、整形外科で治療を受けるべき症状なのに整骨院で治療を受けた場合、どのようなデメリットが生じる可能性がありますか。

鞆さん「例えば、整骨院で施術を受けていた患者さんが、後に整形外科を受診した際に、初期に手術する必要があった病例などが見つかるケースがあります。その場合、手術をする時期を逃したことで、骨折の変形治癒が起こり、恒久的な障害が残ったり、複雑な手術を追加で行ったりする可能性が生じます。また、内科疾患が隠れていた場合、整骨院では発見が遅れる可能性がより高くなるため、最悪の場合は命に関わる危険性も出てくると考えます。

整形外科医であり、手技療法も学んだ私が、整形外科においてデメリットだと感じる点は、治療のガイドラインが示されているものが多く、標準治療が重視されるため、個人的な考えに基づいた治療がしにくいことです。反対に、整骨院の場合、治療に対する考え方が多岐にわたり、比較的自由に手技療法の選択ができます。

いずれにしてもリハビリテーションを含む手技療法にはさまざまなものがあるため、整骨院、整形外科と2つに絞ることは難しいです。効果的な治療を受けるためには、どのような柔道整復師(整骨院)、整形外科医、理学療法士に出会うかが重要だと考えます」

Q.ちなみに、整形外科と整骨院を併用しても問題ないのでしょうか。

鞆さん「国民皆保険制度を利用する場合、整形外科と整骨院の併用は重複治療となるため、基本的に望ましくありませんが、整骨院を自費診療にすれば併用可能です。

ただし、整形外科と整骨院の併用は困難なことが多いです。なぜなら、整形外科での治療方針と整骨院での治療方針を完全に一致させる必要があるからです。体の状態は治療により少しずつ変化しますが、その状態を互いに把握し、連絡を密に取り合うことができる状況でなければ、併用は困難で、互いの意見に違いが出ると、患者さん自身もどちらの言うことを聞けば良いかが分からなくなります。実際に、整形外科医と柔道整復師の意見が対立するケースは珍しくありません。

整形外科と整骨院は得意とする分野が違うため、互いにリスペクトした上で、協力関係を結び、患者さんの治療に当たることが望ましいと考えます。私が会長を務めるオルソグループは、整形外科クリニックや整骨院を運営しており、施設間で互いに情報共有をしています。それにより、患者さんにより良い治療が提供できるのではないかと考えています。

日本には数多くの素晴らしい手技療法があります。繰り返しにはなりますが、整形外科と整骨院が互いに協力し合う関係性を築くことが、患者さんにとって一番良いことではないでしょうか」