H3ロケット試験機2号機のペイロードとは? ロケット性能確認用ペイロードと小型副衛星2機を搭載
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「H3」ロケット試験機2号機が日本時間2024年2月17日9時22分に打ち上げられる予定です。試験機1号機によるH3の初飛行は2023年3月7日に実施されましたが、2段目の「LE-5B-3」エンジンに点火できず打ち上げは失敗し、搭載されていた先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」は軌道投入できませんでした。試験機1号機の打ち上げ失敗を受けて、試験機2号機では「ロケット性能確認用ペイロード(VEP-4)」が搭載されます。また小型副衛星としてキヤノン電子株式会社の「CE-SAT-IE」、セーレン株式会社が中心となって開発した「TIRSAT」が搭載されます。
<ロケット性能確認用ペイロード(VEP-4)>
三菱重工業が製造したロケット性能確認用ペイロード(VEP-4)は「だいち3号」と同じ約2.6トンの質量を持ち、全長は約3.5メートルあります。VEP-4は打ち上げから1時間48分後、第2段機体を軌道離脱させるための2回目のエンジン燃焼が停止(SECO2)した後に分離確認試験が行われます。
VEP-4は衛星分離部(PAF)にストッパボルトとクランプバンドを用いて結合されています。分離試験はクランプバンドが外されることにより実施されますが、VEP-4はストッパボルトでも衛星分離部と固定されているため、実際には完全に分離・放出されるのではなく第2段機体に保持されたままの状態になります。
<CE-SAT-IE>
キヤノン電子が開発した小型光学衛星「CE-SAT-IE」は50×50×80センチメートルの大きさで、質量は約70キログラムです。衛星は高度約675km・軌道傾斜角約98度の軌道に投入されます。衛星に搭載されているカメラは「主光学系」と「副光学系」に分かれています。主光学にはキヤノン電子が自社開発した口径40センチ反射望遠鏡とキヤノンの一眼カメラ「EOS R5」、副光学系にはキヤノンのコンパクトデジタルカメラ「PowerShot S110」が搭載されています。
キヤノン電子によると、CE-SAT-IEのミッションは主光学系機器を利用し、地上分解能0.8メートルで地表撮影や天体撮影を行うことと同社の開発した衛星バス技術の実証にあるということです。また衛星にはJAXAが開発したレーザー反射体「Mt.FUJI」が取り付けられています。地上局から反射体へレーザーを照射することで正確な距離を測定し、衛星軌道を決定する実証実験を行います。
<TIRSAT>
セーレン株式会社が中心となって開発した超小型衛星「TIRSAT」は12×12×38センチメートルの大きさで、質量は約5キログラムです。衛星は高度約675km・軌道傾斜角約98度の軌道に投入されます。セーレンによると、衛星には熱赤外カメラが搭載されており、軌道上から工場などの熱源を感知し、稼働状況を推定することが可能になるということです。
TIRSATは経済産業省からの委託事業として、一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構が開発取りまとめ、株式会社ビジョンセンシングが熱赤外カメラの開発と実証、セーレン株式会社が超小型衛星の開発と実証、株式会社アークエッジ・スペースが地上局の運用をそれぞれ行います。
<衛星の放出機構の特色>
2機の小型副衛星は放出機構を介して衛星分離部に取り付けられています。CE-SAT-IEは放出機構「Simple PAF15M」によって放出されます。この放出機構にある「ピンプラー」はJAXAと川崎重工業株式会社の共同開発による部品で、火工品を使用せずに低衝撃で衛星を分離できることが特徴です。
一方、TIRSATの放出機構はオービタルエンジニアリングにより開発された3Uサイズのポッド(Pod)です。衛星はこのポッドに収められ、前方にあるドアが開くことで放出されます。ポッドは素材に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が使用されており、軽量である点が特徴です。また放出時には、こちらも火工品を使用せずバネを使って衛星を押し出すため、低衝撃で衛星分離ができます。
Source
JAXA - H3TF2プレスキットJAXA - ロケット打ち上げ計画書JAXA - H3ロケット試験機2号機フェアリング及びペイロード プレス公開JAXA
- H3ロケット試験機2号機 フェアリング及びペイロードに関する説明(YouTube)
文/出口隼詩 編集/sorae編集部