「自転車に当て逃げされた」と表現も 「ひき逃げ」「当て逃げ」違いは? 弁護士に聞く
テレビのニュース番組や新聞記事などでは、「ひき逃げ」「当て逃げ」という言葉が登場します。ひき逃げは、車の運転手が歩行者をはねた後、そのまま現場から走り去る行為を指すのが一般的ですが、当て逃げについては、「自転車に当て逃げされた」と言う人もいるため、両者の違いがよく分からないことがあります。
ひき逃げと当て逃げは何が違うのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
人が死傷するケースは「ひき逃げ」に該当
Q.そもそも、「ひき逃げ」と「当て逃げ」は何が違うのでしょうか。
牧野さん「どちらも法律用語ではありませんが、一般的には、『ひき逃げ』は人身の死傷を伴う交通事故の際、『当て逃げ』は物損事故の際にそれぞれ使用されているようです。
例えば、歩行者と車両(車、バイクなど)の交通事故の際に、車両の運転者がそのまま走り去った場合のほか、『車同士の交通事故で、一方の運転手がそのまま走り去った場合』『車とバイク(自転車)の交通事故の際に車の運転手がそのまま走り去った場合』などは、いずれもひき逃げに該当するでしょう。
車両の運転時にガードレールや電柱などにぶつかって物を破損させたにもかかわらず、そのまま現場から走り去った場合は、当て逃げ事故として処理されるのが一般的です」
Q.車の運転手が歩行者をはねた後、近くの建物にぶつかったと仮定します。そのまま現場から走り去った場合、ひき逃げと当て逃げの両方に該当するのでしょうか。その場合、刑罰は重くなるのでしょうか。
牧野さん「人身の死傷と物損の両方を伴うため、『ひき逃げおよび当て逃げ』という言い方になるでしょう。また、自動車運転処罰法5条の過失運転致死傷罪などに該当する可能性があります。過失運転致死傷罪の法定刑は7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。
物損については、刑法261条の器物損壊罪(3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)が成立する可能性がありますが、成立には『故意に他人の物を損壊すること』が必要なため、過失により損壊した場合は該当しません」
Q.車やバイク、自転車に乗っている際に交通事故を起こしてしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。もし適切に対処しなかった場合はどうなりますか。
牧野さん「道路交通法72条では、車やバイク、自転車の運転者は、交通事故の際に死傷者の救護および事故の報告が義務付けられています。そのため、交通事故を引き起こした場合は負傷者を救護するとともに、警察に必ず連絡しなければなりません。
救護義務に違反すると、自転車などの軽車両を運転していた場合は『1年以下の懲役または10万円以下の罰金』(道路交通法117条の5第1項1号)が、自動車やバイクなどを運転していた場合は『5年以下の懲役または50万円以下の罰金』(同法117条1項)が、それぞれ科される可能性があります。また、報告義務違反の法定刑は『3月以下の懲役または5万円以下の罰金』(同法119条1項17号)です。
これに加えて、ひき逃げによる人の死傷が、運転に起因するものであるときは、道路交通法117条2項に基づき、『10年以下の懲役または100万円以下の罰金』を科される可能性があります」