なぜ東京都マッチングアプリをはじめるのでしょうか(写真:buritora/PIXTA)

昨年末、東京都マッチングアプリの提供を始めるというニュースが話題になりました。正式名称は『TOKYOふたりSTORY AIマッチングシステム』で、限定的に先行利用が始まっており本格スタートは4月以降を予定しているそうです。なぜ東京都マッチングアプリをはじめるのか、東京都に取材しました。

出会い探しをしているのは4人に1人だけ

東京都が2021年に行った調査によると、結婚に関心があるパートナーがいない独身者のうち、婚活していない人が7割だそうです。これは、2019年の調査から変わっていません。

リクルートブライダル総研の調査でもマッチングサービス利用経験者は2021年をピークに25%ぐらいで頭打ちです。


リクルートブライダル総研「婚活実態調査2020」「婚活実態調査2023」を基に筆者作成

マッチングアプリなど便利なサービスは増えても、活動するのはパートナーがいない未婚者のうち4人に1人程度なのです。

東京都は、関心があるけれど活動しない人向けに踏み込んだ支援が必要なのではないかということで、婚活を始めるきっかけづくりの一環としてマッチングアプリを始めることになったそうです。

東京都の担当者によると「民業圧迫ではなく、あくまでいつか結婚したいけれども婚活に踏み出していない人が対象で、都のアプリをきっかけに婚活に踏み出した後は、民間(マッチング)サービスなど自分に合った婚活をして希望をかなえていただきたい」とのこと。

結婚したいけれども相手探しをしない人

昨年から、マッチングアプリのテレビCMも始まり、もう生活に定着した出会い方といえるでしょう。しかし、いかに民間サービスがPRしようとも、相手探しに踏み出さない層がいることは私も同感です。

リクルートブライダル総研の『恋愛・結婚調査2023』によると、未婚20〜49歳のうち男性39.0%、女性28.0%がこれまで交際経験がありません。これは過去最高で年々上昇傾向にあります。20〜49歳の未婚者のうち恋人がいる割合は男女とも3割以下です。


リクルートブライダル総研「恋愛・結婚調査2023」「恋愛観調査2014」を基に筆者作成

オーネットが毎年成人の日に発表している『【第29回】2024年 「新成人の恋愛・結婚に関する意識調査」』によると、1996年に20歳になった新成人は50.0%に交際相手がいました。28年で新成人の恋人がいる割合が約半減しているのです。


すもも氏「20〜34歳未婚男女の恋愛・結婚に関するインターネット調査(2022年8月実施)」を基に筆者作成

男性に関する調査結果を発信するすもも氏が2000人対象に行った『20〜34歳未婚男女の恋愛・結婚に関するインターネット調査(2022年8月実施)』によると、交際相手が多いほど出会い探しに積極的で、マッチングアプリ利用率が高いのです。

交際相手4人以上の男性のマッチングアプリ利用率16.2%ですが、交際相手0人の男性は2.7%です。女性も交際相手4人以上では28.2%の利用経験があるのに対し、交際相手0人では利用率3.2%です。

街コンなど他の出会い方も交際経験がない人は利用経験が低い傾向がみられます。民間マッチングサービスは恋愛経験がある程度ある人に最適化され、モテる人がさらにモテるようになる仕組みと言えるでしょう。

民間マッチングサービスと違いは?


東京都マッチングアプリと民間マッチングサービスを比較(筆者作成)

東京都が民間のマッチングサービスを利用しない理由をユーザーにヒアリングしたところ、「不安」「料金が高い」「どう活用したらよいかよくわからない」などの声があったそうです。

東京都マッチングアプリは、男女ともに独身証明書と収入を証明する書類の提出(源泉徴収票など)を義務付けています。

「独身証明書? 何それ?」と思う人がほとんどではないでしょうか。独身証明書とは、本籍地のある市区町村の役所・役場で取得できる公的書類で、郵送でも取得できます。取り寄せの場合、1週間ほど時間がかかるため、思い立った時に気軽に登録できるマッチングアプリとは大きく異なります。

都ではこれまでも独身証明書の提出が必須の未婚者の交流イベントを開催してきたそうですが、参加者からは独身証明書を提出するから安心という声があったそうです。

安全面に関しては結婚相談所に近いかもしれませんが、結婚相談所は年間利用額が数十万円もするため気軽に利用できるものではありません。東京都マッチングアプリの料金はまだ未定とのことですが、同様のAIマッチングサービスを導入している埼玉県は、登録料が1万6000円で利用期限が2年間です。

民間サービスと比較するとリーズナブルで安全で男女平等です。ただし、エリアが限られ、首都圏広域で相手探しができるわけではありません。試しに利用して物足りなさを感じたら他のサービスと並行したり乗り換えてもよいのかもしれません。


2023年7月2日に行われたトークイベント「TOKYO結婚おうえんフェスタ」の様子。左から菊地亜美さん、チャンカワイさん、小池百合子東京都知事(写真:東京都

東京都が今後行う婚活支援

東京都は昨年、有楽町駅前で結婚の気運醸成イベントを開催しました。私も見に行きましたが、都が白昼堂々と婚活セミナーやマッチングアプリの安全な使い方の啓蒙を行っていて、時代は変わったなと感じました。

東京都が今後行う婚活支援の柱はマッチングアプリを含め3つあるそうです。

2つ目は独身証明書の提出必須の交流イベントです。過去に開催したイベントでは30代の参加者が多かったそうです。


婚活について東京都が作成したチラシ(筆者撮影)

3つ目はウェブ相談です。担当者によるともし結婚に前向きになることができない理由に将来の子育てへの不安があった場合には、東京都の子育てに関する支援について相談員から説明できるようにしているそうです。

中には「結婚相談所に登録しているけれど、担当者に質問していいのかわからない」という相談もあるという。なお、これは私もよくいただく質問です。試しに担当者になんでも聞いてみればいいと思うのですが、変と思われそうで思ったことを気軽に質問できない、絶対に失敗したくない人が多くなっているなと感じます。

だからこそ、自治体が運営して独身証明書を提出している人だけが利用するような出会い方はニーズがあるのではないでしょうか。

東京都以外に婚活支援事業を行っている都道府県はあるので、気になった方はぜひ調べてみてください。

(菊乃 : 恋愛・婚活コンサルタント)