ASDのお子さんにとって、学校は「辛い場所」となってしまうことは珍しくないといいます(写真:ocsa/PIXTA)

最近になり、「発達障害」という言葉が広く認知され、関連する書籍やテレビ番組など、各種コンテンツが数多く発信されています。

ただ、当事者や彼らを取り巻く家族、関係する人々の実感としては、「いまだに十分な理解が得られていない」もしくは「サポートをするうえで、よくわかっていない部分も実は多い……」という意見も耳にします。

「発達障害とはどのようなものなのか?」という実態が、一般の人に加え、しばしば医療関係者にも正しく認知されていない――この事実が大きな問題となっているのです。

今回は、精神科医・岩波明氏による最新刊『発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』より、発達障害の子どもたちのリアルをご紹介します。

今回は、ASD(自閉症スペクトラム障害)・LD(学習障害)・ADHD(注意欠如多動性障害)の当事者の知覚世界を「学校」のシーンから解説していきます。

ASDの子はみんなと一緒にやる行動は、苦手で嫌い

ASDのお子さんにとって、学校は「辛い場所」であることが珍しくありません。

学校は集団生活の場であり、ほとんどは「みんなで一緒に行動する」ということを前提にしています。ところが、多くのASDのお子さんは集団行動を好まない傾向にあるため、グループで何かを一緒にやる行動は苦手で、本当に嫌がります。

この点は個人差があり、集団行動の場にいることはできるものの特に何もしない子もいれば、他の子どもとのやり取りの中で注意されたことなどに腹を立てて、参加を拒否してしまう子もいます。

さらにグループ活動が嫌で、学校に行かなくなってしまうケースも見られます。

中には「自分はこうしたいんだ」と強く自己主張するASDの子もいますが、他の子どもの意見を聞くのは苦手であるため、集団の中で孤立してしまい、先生やクラスメイトとぶつかってしまうことになります。

ASDのお子さんは、どのような行動をとってもクラスでは「浮いた存在」となることが多く、無視されるか、いじめの対象となりやすいのです。

先生の側が「この子はこういう特性で……」という理解があり、常に何らかのサポートを行ったり、他のクラスメイトとの関係を上手にとりもつことができれば、「その子をクラスメイトの1人として迎えよう。違いとして尊重しよう」という空気が生まれるかもしれません。

ただ、先生方も忙しくて余裕がなく、発達障害に対する理解も十分とは言えないことが少なくないため、先生が「なんでできないの? どうしてみんなと一緒に行動しないの」と詰問するような姿勢になってしまうこともあるのです。

集団の中で自分の持ち分や役割を察知するのが苦手

ASDのお子さんは、全体の中で自分の持ち分や役割を察知するのが苦手な傾向があります。グループの中で役割分担して作業をすることができなかったり、1時間で10人が発表する場で、1人で何十分も発表してしまったり……といった具合です。

先生やクラスメイトが本人の特性を理解して、他のクラスメイトとの間の「仲介役」あるいは「調整役」の立場に立ってくれれば、もう少しよい結果になったと思います。

対処法:医療関係者やご家族から、その子の行動特性を教えてもらう

ASDのお子さんに接する学校関係者は、どのような方針で接すると良いのでしょうか?

まずは、ASDのお子さんの特性を知ることです。

キーパーソンとなるのが、そのお子さんと長く接している方々です。

1つは、ご両親や兄弟姉妹などのご家族。そしてもう1つは、ケアに関わってきた医療関係者です。

彼らからお子さんの情報、

つまり、

・どんなことが好きなのか? 
・どんなことが嫌いなのか?
・どんな状況で不安になるのか?
・どんな状況で快適に過ごせるか?
・サポートのコツ

といったことを担任の先生が、できるだけ早い機会に聞いておくのが望ましいと考えます。

その際、医療関係者には、

・なぜそのような行動をとるのか?(症状の原因)

もわかりやすく教えてもらい、また親御さんには、

・お聞きしたことを学校関係者やクラスメイトと共有して良いか?

と尋ねておく必要があります。

ご家族と医療関係者に聞き取りをして子どもに関する情報を集めてから、学校の責任者(校長、教頭、学年主任など)と情報を共有し、さらにクラスメイトに正式な場(校長に立ち会ってもらう、保護者にも来てもらうなど)で伝え、理解や協力を求めるということも選択肢として考えられるでしょう。

しかしながら、情報をオープンにすることは、不当な中傷を招いたり、いじめが悪化する原因になる可能性もあるため、説明のしかたなどについて慎重な配慮が必要です。

もっとも現状で学校の先生方にこのような対応を求めることは、かなり酷かもしれません。

さまざまな問題が多発している現在の小・中学校においては、先生方に余裕がなく、一人の子どもに十分な時間はかけられないのが現実でしょう。

子どもの不適応が顕著であったり、問題行動が治まらない状態が続く場合には、特別支援学級などの利用を検討することも必要となります。

日々の中で、LDの子どもたちが抱える問題

多くの場合、読み書き(それに関連して聞くことも)が苦手なLDのお子さんは、日常のコミュニケーションにおいても、他の発達障害と似た困りごとを抱えています。

これには、いくつかの理由があります。

まずLDにおいては、ASDやADHDなど他の発達障害が併存している頻度が高いのです。

さらにLDそのものの症状により、コミュニケーションの障害が起こりやすいこともその1つです。

たとえば、次のような問題があります。

・相手の話をうまく聞けない、特に集団の中だと難しい
・相手にうまく伝えられない
・相手の言うことが理解できない
・聞いたことを覚えていられない
・話題が飛ぶことが多い、一方的な話になりやすい
・反語やシャレがわからない
・場の雰囲気を読むことが難しく、友人関係をうまく作れない

診断が重複している場合もあるため、ASDやADHDのお子さんと類似した問題がしばしば見られるのです。

LDのお子さんの学習時、学校や家庭ではどのようなサポートができるのでしょうか?

発達障害の症状は、一人ひとりで異なります。

LDに関しても同じことが言えます。

そのため、「読む」「書く」「計算する」という行為を細かいプロセスに分解し、

・プロセスのどの段階でつまずいているのか?
・そのとき子どもにとって「世界」がどんなふうに見えているのか?

を当事者であるお子さんからできるだけ正確にヒアリングし、対処法を検討すべきです。

学校や家庭で行える具体的な対処法

ここでは、「読む」「書く」「計算する」に区分して、複数の対処法を挙げていきます。

具体的なものから抽象的なものまで幅広く、一部重複するものもありますが、より多くの選択肢を示すためですので、その点ご了承ください。

LD全般に当てはまる支援の原則としては、「指導内容を細分化する」「具体的な教材を使用する」「子どものペースに合わせて繰り返し指導する」などが挙げられます。

〈読むのが苦手な場合の対処法〉
・ 読みやすくする工夫(文字を拡大する、ルビを振る、行間をあける、背景の色を変える、書体を変える、間違いやすい文字にマーカーで色付けする)
・ 読み飛ばしをなくす工夫(指でなぞりながら読む、しおりや定規をあてながら読む、鉛筆や定規ですでに読んだ行を隠す、厚紙などを切って1行だけ見えるようなシートを使う)

〈書くのが苦手な場合の対処法〉
・大きなマス目や広い罫線のノート、紙を使う
・間隔をあけて書く

〈計算するのが苦手な場合の対処法〉
・ゆっくり落ち着いて計算させる
・数字や記号は大きく印字する

〈共通の対処法〉
・スマートフォンやタブレット(デジタル教科書、アプリなど)を積極的に取り入れる
・動画、漫画、図鑑などを有効活用する

ADHDのお子さんは、規則正しい集団生活が始まる小学校入学後に、ADHDの症状に悩まされることが多くなります。

多動の症状、「じっとしていられない」「落ち着きがない」といったものにはさまざまなレベルがあります。

静かに着席すべきときに、どこか落ち着かずに貧乏ゆすりをしてしまう程度のものから、イスや机をガタンガタンさせて音を出す、あるいはじっと座っていられず、クラスの中をうろうろ歩き回って授業に支障をきたす例までいろいろです。

教室の中にいられずに、出て行ってしまうお子さんもいます。

その他の多動の症状として、「しゃべり続ける」ことも挙げられます。

しゃべってはいけない場所やタイミングであっても、常に何かをしゃべっていなければ落ち着かなかったり、あるいはじっとこらえていられずに一方的に話し続けたりするのです。

授業中のおしゃべりで注意されることもしばしばです。

また、「待つことが苦手」も多動の1つと言えますし、「高いところに登ったり、そこから飛び降りたりする」といった行動も見られます。これには、危険な行動を好んでするといった特性も関連しています。

衝動的な言動、友だちに対する攻撃性が見られる

ADHDのお子さんには、衝動性を認めるケースもよくあります。

衝動性には、「内的な衝動性」と「行動面における衝動性」の2つが存在します。

内的な衝動性は、素早い判断や決定をもたらすこともあるのですが、どちらかと言えば「重要な事柄でも、思慮深く考えずに簡単に決めてしまう」というマイナスの傾向として現れることが多いようです。

あえて表現するならば「ADHDの人は頭の中も多動」なのです。

「ADHDの人たちの心の中では、多種多様なまとまらない衝動的な考えが常に起こっては消えている」というイメージです。

このため、「質問が終わる前に答えてしまう、かぶせて話す」「人の会話や遊びに割り込んでしまう」「順番が守れない」といった行動もたびたび起こります。

一方、行動面の衝動性は、他の児童や家族に対する攻撃性となって見られることが多いです。普段はおとなしいADHDのお子さんが、些細なやりとりをきっかけにプツンとキレてしまい、相手の子どもに暴力を振るってしまうことがあります。

ADHDの子の場合、特に小学校低学年時などはイライラしやすいことが多く、比較的小さな引き金で怒りを爆発させることがあります。

情緒不安定で、その気分や行動は変わりやすく予想しにくいものです。

また、衝動性と欲求に対する充足を引き延ばせないことが特徴であり、事故や怪我が多発することもよく見られます。

ADHDの子どもに対して周囲はどのように接するべきか?

ADHDのお子さんが学校生活の中で悩む症状、および抱える問題についてそれぞれ解説してきました。


症状や問題だけを読むと、「ADHDの人にとって学校生活はこんなに辛いのか?」という暗い気持ちになってしまいますよね。

でも安心してください。

大まかに、次のような対処法をご提案します。

行政レベルの対処法(もしくは提言)から、今日からできる具体的な工夫まで、さまざまな方策があります。

ADHDに対してパターン化されたマニュアルは存在していませんが、多くの場合、以下に示すポイントが必要な内容です。

1. 「子どもをほめること、自信をつけさせること」
失敗を指摘するよりも、できたこと、良かったところをほめてあげましょう。
長い説教や叱責は意味がありません。

2. 「強制しない」
力まかせによる強制や、威嚇して言うことを聞かせることは、本人が自身の誤認・ミスなどに気づくチャンスをつぶしてしまいます。

3. 「学習の環境を整える」
子どもがより良い条件で課題に取り組めるように、クラスなどの環境を変えていくことを試みましょう。

(岩波 明 : 精神科医)