全米で23万部のベストセラー本を著したがん研究者ケリー・ターナー氏は、がんが劇的に寛解した1500以上の症例を分析。世界中の数百人ものがんサバイバーたちにインタビューした結果、奇跡的な回復を遂げた患者たちには、ある共通点があることがわかった。そのうちの一つが、「食事を根本的に変えること」だった。2400年前から人類が実践してきた「断食」の驚くべき健康効果とは――。

※本稿は、ケリー・ターナー『がんが自然に治る10の習慣』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■90〜95%のがんは不健康な生活習慣が原因

がんの代謝理論の第一人者であるナシャ・ウィンタース医師は自然療法による腫瘍学者で、『The Metabolic Approach to Cancer』の共著者です。私がウィンタース医師のことを知ったのは、彼女自身のがんの劇的寛解の体験談がきっかけでした。

ウィンタース医師は、わずか19歳のときに緊急治療室でステージ4の卵巣がんと診断され、医師から余命数カ月と宣告されました。激しい痛み、腹水、吐き気、食べられないこと、そしてがんによる深刻な悪液質によって身体が不自由になったナシャは、保険に加入しておらず選択肢がありませんでした。彼女は代替となる統合医療を求めて地元の図書館で探し回り、最終的に自分自身で治癒の道を切り開き、それが今日まで続く28年間の旅へと発展しました。

ナシャは末期がんの診断を受けてから5年後に、自然療法医学校に入学しました。当時はまだ自分の健康問題と向き合っていたため、学んだことをまず自分の身体に適用して、その後患者に勧めることができました。現在、ウィンタース医師は、がん治療における代謝的アプローチについて、医師を指導する専門家として高く評価されています。

彼女は言います。

「研究によって、DNAの損傷が原因のがんは、5〜10%に過ぎないことがわかっています。これらの遺伝的変異ががんを引き起こすのは、その変異がミトコンドリア機能をも変化させた場合にのみです。

残りの90〜95%のがんは、ミトコンドリア機能をも損傷させる偏った食生活や不健康な生活習慣によって引き起こされます。驚くほど効果的ながんの治療を、スーパーで手に入れることができるのです。

私は数十年にわたり、低血糖(血糖値を下げる)、カロリー制限、断食、ケトン食などのアプローチを患者におこない、驚くべき成果を上げてきました」

今もまだウィンタース医師の体内には腫瘍が残っていますが、がんを代謝性疾患とみなして治療することで、腫瘍を小さく安定させることができています。

食事や生活習慣を変えることで、損傷したミトコンドリアを修復し、がんを治すことができるという考えは非常に力強いものがあり、研究者たちは熱心に研究しています。がんの代謝理論を支持する人たちが最もよく勧める食事法は、ケトン食です。

■病気のときに食べ物を強制的に摂るのは人間だけ

病気のときかどうかにかかわらず、最後に1時間以上、空腹を耐えたのはいつでしょうか?

先進国では、空腹はなじみのない感覚です。しかし、断食(一定期間、食べ物を自発的に摂らないこと)は、最も古くからおこなわれている治癒の伝統の一つです。事実上、地球上のほぼすべての文化や宗教が、何らかのかたちで断食を実践してきました。

たとえば、紀元前400年頃、ヒポクラテスは「病気のときに食べることは、病気に栄養を与えることだ」と言って、医学的治療として長期間の断食を記録しています(※1)。

犬や猫などの動物が病気になると、その多くは安全な場所で丸くなって眠り、気分がよくなるまで食べ物を摂りません(水は除く)。人間は病気のときに食べ物を強制的に摂る唯一の動物で、昼夜を問わず手早く加工された食事を食べられるようになったのは、ここ50年のことです。

断続的断食の支持者たちは、私たちの身体は絶え間なく続く高カロリー食品を処理できるほど早くは進化していないと考えています。一部の研究者は、食べ物がそれほど容易に手に入らなかった300年以上も前の人類の食事方法を模倣した、断続的断食の効果を研究しています。

断続的断食は、認められた期間だけ、食事の摂取を制限することで消化器官を休ませ、食べたものを処理して栄養を吸収し、身体を治癒、休息、修復など、ほかの機能に集中できるようにします。小腸での食物の消化には、身体のエネルギーの約40%が必要とされ、ほかのことに費やすためのエネルギーは限られてしまいます(※2)。

断続的断食は血中のケトン体の増加を促す可能性を誘発するため、ケトン食の重要な要素です。食事を断つことでグルコースを断ち、身体が脂肪をエネルギーとして燃焼し、それによってケトン体が生成されます。ケトン食の研究者たちは、ケトン体は遺伝子の損傷から身を守る進化的な生存メカニズムで(※3)、グルコース、インスリン、IGF-1(インスリン様成長因子1)のレベルを下げ(※4)、これらすべてが健康と免疫システムを改善する可能性があると考えています。

写真=iStock.com/filmstudio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/filmstudio

■最も簡単な断続的断食の3つの方法

断続的な断食の最も簡単な方法は、食事の間隔を1日12時間(または10時間や8時間)に制限する時間制限型の断食です。

たとえば、午後6時に夕食を食べ、翌朝6時まで食事を摂りません。食事をしていない12時間の間に、夕食を消化するのに必要な時間が寝る前にとれ、残りの時間は休息と修復に集中することができます。食事の時間が短い断続的断食を実践している人は、1日を遅い朝食ではじめたり、早い夕食で終わらせることもあります。

もう一つの方法は5:2の断続的な断食です。この方法では、週に2日は1日400〜600キロカロリーに制限し、残りの5日間は普通に食べます。また、週に1日だけ完全な水断食をする方法もあります。

基本的な12時間の時間制限を超えて継続的な断食を試してみたい場合は、まず医師や医療専門家に相談し、どの方法が自分の身体にとって安全かを確認する必要があります。

■断続的断食はDNAの修復能力を高める

断続的断食ががんに与える影響について研究者たちが研究をはじめたのは、ごく最近のことです。初期の研究では、断続的断食が化学療法中に非常に役立つことが示されています。そのような研究の一つで、断続的な断食が神経細胞のDNA修復能力を高め、化学療法によるダメージからDNAを保護し、多くのDNA修復遺伝子のスイッチをオンにすることがわかりました(※5)。

別の研究では、断食サイクルががん腫瘍の成長を遅らせ、さまざまな種類のがん細胞を化学治療に対してより脆弱(ぜいじゃく)にすることが判明(※6)。さらに別の研究では、断食は化学療法に対する患者の反応を高め、その副作用を軽減させることが示されました(※7)。

断食に関するある有望な研究の一つでは、早期乳がんの女性(ただし糖尿病を患っていない)約2500人を追跡し、4年間にわたって夕食と朝食の時間を分析しました(※8)。研究者らは、1晩に絶食時間が13時間より短いと、1晩に13時間以上絶食した場合に比べて乳がん再発の確率が36%高くなることを発見しました。さらに、インスリン、慢性炎症、睡眠時間のマーカーは、夜間の断食が長いほどいい影響をおよぼしたのです。

断食を模倣した食事、つまりカロリーの非常に低い食事の効果を理解しようとした研究者(※9)は、100人の健康な人を対象に研究をおこない、ランダムに二つのグループに分けました。一つは制限のない食事をするグループ(対照群)、もう一つは月に5日間連続で低カロリーの断食に似た食事をする以外は制限のない食事をするグループです。

3カ月後、断食を模倣した食事をしたグループでは、体重、総体脂肪、血圧、IGF-1(老化や病気に関する指標)が対照群に比べ大幅に減少し、副作用は報告されませんでした(※10)。

これまでの研究で、13時間以上の夜間断食は多くの人にとって安全で有益であり、5:2断食や月に5日間連続のカロリー制限食などの断食は、免疫システムを強化し、がんの成長を遅らせる健康効果をもたらす可能性があることが示されています。

■食べ物の選択で健康を変えられる

あまりにもわかりにくいので食生活を変えるのはやめようと思っている人は、基本的な食べ物の選択で健康を変えられることが、何百もの研究で示されていることを覚えておいてください。

40年以上にわたって医学界のリーダーとして知られ、『Undo It! How Simple Lifestyle Changes Can Reverse Most Chronic Diseases』など、ニューヨークタイムズ紙のベストセラー6冊の著者であるディーン・オーニッシュ医学博士は、健康のために食生活を根本的に変えることを、次のようにまとめています。

「毎日の生活の中で、何を食べ、ストレスにどう対処し、どれだけ運動し、どれだけ愛情と親密さを持っているかといったシンプルな選択が、私たちの健康や幸福に大きな違いをもたらすことは信じがたいものですが、実際にはそうなのです。

33年以上にわたって私と同僚は、植物由来の食事や適度な運動、ヨガや瞑想(めいそう)などのストレス対処法、そして愛を与え、受け取ることを学んできました。それにより冠状動脈性心疾患や早期前立腺がん、2型糖尿病、高血圧、肥満、うつ病、そのほかの慢性疾患などの進行をしばしば抑制できることを発見してきました」

■加工されていない食品をそのまま食べる

がんと健康に関連する食事についての医学文献を精査した結果、私たちはいくつかの普遍的なアドバイスをすることができます。

ケリー・ターナー『がんが自然に治る10の習慣』(プレジデント社)

・植物由来の食事やケトン食、地中海食のどれが自分に合っているかにかかわらず、これらの食事法では、繊維が多く、野菜が豊富な、加工されていない食品をそのまま食べることを奨励しています(ケトン食では、特定の野菜のみが許可されています)。

・断続的に(夕食と朝食の間)、または月に数日、断食を試してみることを医療チームに相談してみてください。

食生活を変えることは、最初は大変だと思うかもしれませんが、私たちが最新の食生活のトレンドや研究結果を分析することで、このトピックに関する混乱が解消され、行動を起こすきっかけになれば幸いです。

食生活の変更は実際に実行可能で、あなたにもできることなのです。だからこそ、これががんの劇的寛解者たちにとって最初の一歩となっているのです。

※1.Wheless, J. W. “History and Origin of the Ketogenic Diet.” In: Epilepsy and the Ketogenic Diet, edited by C. E. Stafstrom and J. M. Rho, pp. 31-50. (Totowa, NJ: Humana Press, 2004).

※2.Bischoff, S. C., et al. “Intestinal permeability―a new target for disease prevention and therapy.” BMC Gastroenterology. 14, (November 18, 2014): 189. doi: 10.1186/s12876-014-0189-7.

※3.Winters, N., and J. H. Kelley. The Metabolic Approach to Cancer: Integrating Deep Nutrition, the Ketogenic Diet, and Nontoxic Bio-Individualized Therapies. (White River Junction, VT: Chelsea Green Publishing, 2017).

※4.Ibid.

※5.Tinkum, K. L., et al. “Fasting protects mice from lethal DNA damage by promoting small intestinal epithelial stem cell survival.” Proceedings of the National Academies of Sciences of the United States of America. 112, no. 51 (December 22, 2015): E7148- E7154. doi: 10.1073/pnas.1509249112.

※6.Lee, C., et al. “Fasting cycles retard growth of tumors and sensitize a range of cancer cell types to chemotherapy.” Science Translational Medicine. 4, no. 124 (March 7, 2012): 124ra27. doi: 10.1126/scitranslmed.3003293; Safdie, F. M., et al. “Fasting and cancer treatment in humans: a case series report.” Aging. 1, no. 12 (December 31, 2009): 988-1007. doi: 10.18632/aging.100114.

※7.Lee, C., et al. See note 42 above.

※8.Marinac, C. R., et al. “Prolonged Nightly Fasting and Breast Cancer Prognosis.” JAMA Oncology. 2, no. 8 (August 1, 2016): 1049-1055. doi: 10.1001/jamaoncol.2016.0164.

※9.Wei, M., et al. “Fasting-mimicking diet and markers/risk factors for aging, diabetes, cancer, and cardiovascular disease.” Science Translational Medicine. 9, no. 377 (February 15, 2017). doi: 10.1126/scitranslmed.aai8700.

※10.Ibid.

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ケリー・ターナー(けりー・たーなー)
がん研究者
腫瘍内科学領域の研究者。ハーバード大学で学士号、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得。過去15 年にわたり10 カ国で研究をおこない、1500以上の劇的寛解の症例を分析してきた。著書『Radical Remission』はニューヨーク・タイムズ紙でベストセラーとなり、現在22 カ国語に翻訳されている。RadicalRemission.com のRadical Remission Project の創設者であり、患者やその愛する人のために、コースやワークショップ、治癒の物語の無料データベースを提供している。また、劇的寛解に関する科学的研究を促進することを使命とする非営利団体、ラディカル・リミッション財団の創設者でもある。
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(がん研究者 ケリー・ターナー 翻訳=佐々木加奈子)