今年5月、ジェレミー・スコット氏がモスキーノ(Moschino)のクリエイティブディレクターを退任したが、同氏はモスキーノに10年在籍していたことになる。その年月で、スコット氏はモスキーノを独自の不遜なイメージに形成した。ユーモアやアイロニーをデザインに取り入れるなど、彼らしい興味がいまでは有名なモスキーノのスタイルとなっている。

だが、スコット氏のような存在はますます珍しくなっている。ファッションブランドがクリエイティブディレクターを交代させる周期は10年よりもはるかに短くなり、より頻繁に行われるようになっている。7月にはウォルター・キアッポーニ氏がわずか3年でトッズ(Tod’s)の職を退き、5月にはルイージ・ビラセノール氏がわずか1年余りでバリー(Bally)を去った。

私たちはいま、ラグジュアリーファッション全体のクリエイティブディレクター総入れ替えの真っただ中にいる。先月だけでも、トッズ、ロシャス(Rochas)、ジバンシィ(Givenchy)、アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)がクリエイティブディレクターを交代または失った。さらにここ数カ月に拡大してみると、シュプリーム(Supreme)、グッチ(Gucci)、クロエ(Chloé)、バリー、アン・ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)がそのリストに加わる。

ラグジュアリーは大きく減速している



ブランドがクリエイティブディレクターを交代させることはニュースではない。しかし、かなりの数のラグジュアリーブランドが新旧のクリエイティブリーダーの狭間に立たされていることは否定できない。6月からアン・ドゥムルメステールに在籍しているステファノ・ガリーチ氏のように、あまり知られていない人物を起用することも多い。ラグジュアリー投資家であり、ラグジュアリーETF投資ファンドのテマ(Tema)のマネージャーであるハビエル・ラストラ氏によれば、いまこうした変化が一度に起きていること、またラグジュアリーが大きく減速している最中であることは、偶然ではないという。

「現在、この業界は大きな減速を経験している」とラストラ氏。「Covidが流行していた年には信じられないような成長があったが、現在、そうしたブランドはその売上レベルを維持するプレッシャーにさらされている。2桁成長とはいわずとも、成長し続けたいと考えている。そのためにはみずからを改革し、何か新しいもの、新しいラインや新しいスタイルを見つけるしかないこともある。財政的な圧力がクリエイティブの方向性の変化をもたらしている」。

ブランドは、低迷している売上を活性化させるために、新しいクリエイティブディレクターにますます頼るようになっている。2015年にクリエイティブディレクターに就任したアレッサンドロ・ミケーレ氏のようなデザイナーがグッチに対して行ったように、斬新な視点は時にブランドに衝撃を与え、再びブランドを成長させることができるのだ。

新しいクリエイティブディレクターの起用は方向転換のチャンス



ケリング(Kering)では、前四半期の売上高がアナリストの予想の6%減を上回る9%の減少となった。ケリングの売上の半分以上を占めるグッチの売上は7%減少した。一方、バーバリー(Burberry)の成長率は同四半期に18%からわずか1%に鈍化している。グッチとバーバリーの両ブランドは今年、新しいクリエイティブディレクターのデビューコレクションを発表している。バーバリーはダニエル・リー氏が2月に、グッチはサバト・デ・サルノ氏が9月にそれぞれコレクションを披露した。

そして注目に値するのは、両ブランドの前クリエイティブディレクター(バーバリーはリカルド・ティッシ氏、グッチはアレッサンドロ・ミケーレ氏)が過剰主義のデザインで知られていたのに対し、新しいディレクターはどちらもより控えめな方向性を打ち出していることだ。

「景気が悪くなると、大きなロゴや派手な服は好まれなくなる」とラストラ氏は言う。「グッチがいい例だ。ミケーレはグッチにとって大成功であり、いまもグッチはその恩恵を受けているが、そのスタイルは時代遅れとなって変化を必要としていた。つまり経済的なプレッシャーだけでなく、トレンドの変化も、ブランドが新たなインスピレーションを求める理由になっている」。

そこで新しいクリエイティブディレクターは、ブランドにしてみれば新たな方向に進み、市場の変化にすばやく対応するチャンスとなる。クリエイティブディレクターにスタイルを変えてもらうよりも、適切なスタイルの新しいクリエイティブディレクターを見つける方がずっと簡単なのだ。

クリエイティブディレクター自身がセールスポイントになることも



ウィメンズウェアブランド、エルヴェレジェ(Hervé Léger)の部門責任者であるメリッサ・レフェレ=コブ氏は、今年初めに同ブランドの新しいクリエイティブディレクターを探し始めるにあたり、前クリエイティブディレクターのクリスチャン・ユール・ニールセン氏と比較して新鮮なアプローチを求めていた。最終的にレフェレ=コブ氏は、ウィメンズウェアブランドのエ・オクス(Et Ochs)の創業者でデザイナーのミシェル・オックス氏を6月に起用した。オックス氏によるエルヴェレジェでの初コレクションは2月に発売される。

「エルヴェレジェを次のレベルに引き上げる時期が来ており、女性のクリエイティブディレクターがこのブランドにふさわしいと強く感じていた」とレフェレ=コブ氏は語る。「ファッション業界において女性のリーダーが不足していることに対処しつつ、ブランドのアイデンティティを進化させるには、フレッシュな視点とフェミニンなタッチが不可欠だった」。

また、クリエイティブディレクター自身がセールスポイントになることもある。ファレル・ウィリアムス氏が2月にルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)に起用されたのは、ファッション界における彼の血統にもかかわらず、そのデザインに対する鋭い洞察力と少なくとも同じくらい動機となっていたのが、彼がセレブリティであり、スター性があることだったと広く考えられている。

富裕層の顧客に再び焦点を当てるブランド



米国のラグジュアリーアウターウェアブランド、ウールリッチ(Woolrich)が11月にトッド・スナイダー氏を新しいクリエイティブディレクターに起用したのも、心機一転を図ることと大物ディレクターから恩恵を受けたいという、両方の要素が動機となっている。スナイダー氏はウールリッチ・ブラックレーベル(Woolrich Black Label)のクリエイティブディレクターとしてブランドに加わり、すぐにヘリテージと高級素材に焦点を当てた2つのコレクションをデビューさせた。同氏は12年前に創業したブランドであるトッドスナイダー(Todd Snyder)で現在もクリエイティブディレクターを務めており、そこではCFDAアワードのメンズウェアデザイナー・オブ・ザ・イヤーに2度ノミネートされている。

ウールリッチで長年クリエイティブディレクターを務めたアンドレア・カネ氏は、スナイダー氏が採用された際にクリエイティブアドバイザーの役割を引き受けており、スナイダー氏はプレミアム製品に新たな焦点を当てて同ブランドが再出発する機会を提供したと語っている。

インフレが、ラグジュアリーに憧れる意欲的な消費者にもっとも打撃を与えていることから、ここ数カ月、ブランドの間で人気の戦術のひとつとなっているのが、富裕層の顧客に再び焦点を当てることだ。ウールリッチも1年以上前からその道を歩んでおり、昨年はファーフェッチ(Farfetch)や24Sといったラグジュアリープラットフォームでの販売を開始した。カネ氏は、スナイダー氏がウールリッチを新たな方向へと押し上げることができると確信しているという。

「トッドとは何年も前から知り合いだが、彼はデザインマトリクス、素材、テイストにおけるオーセンティックの真の意味を理解している最高の米国人デザイナーのひとりだと確信している」と、カネ氏はeメールで述べた。

ディレクターを頻繁に交代することのマイナス面



スナイダー氏のような定評のあるクリエイティブディレクターの起用は、ブランドの活性化や再出発には有効かもしれないが、ディレクターを頻繁に交代させることにはマイナス面もある。ラストラ氏によれば、特にラグジュアリー業界では、投資家には物事を大きく変えようとするブランドに対する警戒心があるという。これが特に当てはまるのは、ラグジュアリーブランドのオーディエンスの大部分を占める意欲的な顧客が裁量支出を控えている場合だ。

「投資家はリスクを嫌う」とラストラ氏は指摘した。「それはリスクを取って新しいことに挑戦しようとする、もっとも才能あるクリエイティブディレクターたちとよく衝突する。ミケーレ氏のような人々は、いまにして思えば成功していた。だが、率直に言うと、私はたとえそれが1桁のパーセンテージであっても、着実で安全に成長しているものを見たいのだ。金は不確実な状況を嫌う。不安定な状況になれば、すぐに飛び去ってしまう」。

[原文:Luxury Briefing: Why are so many brands replacing their creative director?]

DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)