YouTubeで若者の人気を集めるチャンネルにはどんな共通点があるのか。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「学生時代からの幼馴染グループやコンビが厚い支持を受けている。リアルな友人関係が希薄になっているZ世代は、彼らの動画を見ることで地元感や仲間感を疑似体験しているのだろう」という――。
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東京コミコン2022に登場した東海オンエア(2022年11月25日、千葉県千葉市の幕張メッセ) - 写真=時事通信フォト

■ただの夫婦喧嘩にZ世代が大騒ぎ

ことし10月、「崩壊オンエア」がトレンド入りした。愛知県に拠点を置く6人組のYouTuber「東海オンエア」とその妻「あやなん」が、SNS上で”公開口論”を披露していたことを指す言葉だ。Z世代は大騒ぎしていた一方で、「東海オンエアなんて見たことないし、あやなんってだれ?」と困惑した大人が多かったのではないか。

騒動の発端は、東海オンエアメンバー「しばゆー」の妻あやなんが、SNSで「YouTuberの妻は地獄の環境」として離婚の意志を宣言したこと。あやなんは、さらに夫しばゆーのパニック障害を公表。リーダー「てつや」も参加した公開口論の挙げ句、東海オンエアは一時活動を休止することとなったのだ。夫婦喧嘩の拡大版というべきもので、東海オンエアに興味がない人たちにはまったく関心がないニュースだった。

30代後半のある女性は「『なんでこんなのが記事になるのか。だれも興味がないのでは』と調べてみたら、チャンネル登録者数が数百万人いて驚いた。他の人は本当に興味があるの」と困惑した様子だ。

■「もう新しい動画が見られなくなる…」

ある40代男性は「くだらない。知らないYouTuberが何をしても興味がない。日本は平和ということだろうが、もっと取り上げるべきニュースはあるだろうに」とご立腹気味だ。

一方、東海オンエアファンという20代女性は「本当に心配。てつやとしばゆーの仲が悪くなったら、もう新しい動画が見られなくなるかも。ずっと見てきたから本当にきつい」と心配そうだ。

若者世代と大人世代では、この騒動に対する感覚が大きく違うようだ。なぜこんなことが起きているのか。

■「ひき肉です」動画は約6億回再生

東海オンエア、コムドット、ちょんまげ小僧など、YouTuberの名前がついたニュースを多く見かけるようになったが、大人世代はどのくらい知っているだろうか。

東海オンエアのチャンネル登録者数は執筆現在約701万人。同様にコムドットは約382万人、ちょんまげ小僧は約154万人。それだけの支持を得ているのだから、間違いなく著名人に違いない。

ちょんまげ小僧は、現役中学生6人組YouTuberだ。初投稿は22年12月と、登場からまだ1年しかたっていない。ところが、同メンバー「ひき肉」が両手を広げて独特のイントネーションでする挨拶「ひき肉です」がSNSで大人気に。真似しやすく誰でもできる点が人気となり、TikTokで「#ひき肉です」は5億9530万回再生となっている。

男子バレーボールの高橋藍選手が、10月6日に行われた男子W杯バレーのセルビア戦後のインタビューで「ひき肉でーす」と叫んでトレンド入りしたこともある人気ぶりだ。

■子どもが何を好きなのかわからない時代

「Simeji presents Z世代トレンドアワード2023」では、「ひき肉です」が年間トレンド大賞。「JC・JK流行語大賞2023」では「ひき肉」がヒト部門、コトバ部門で二冠になり、「ユーキャン新語・流行語大賞2023」でも「ひき肉です/ちょんまげ小僧」がノミネートされたほど今年を代表する人気YouTuberとなっているのだ。

大人世代で受賞前に知っていたという方は多くないかもしれない。しかし、ソフトバンクモバイルの「スマホデビュー1年生」CMにもちょんまげ小僧メンバー全員で出演しており、テレビ進出まで果たしている。

現代は、パーソナルな時代だ。世代を超えてだれもが知る人気の曲やアーティストがいるわけではなく、それぞれに好きな曲やアーティストがいる。

今の大人が子どもだったころは、映像は居間でテレビで見るもので、人気の曲やアーティストは誰もが知っており、流行の共有ができていた。しかし今は個別にスマホで楽しむため、好きな曲やアーティストも人によって違い、同居する家族でも何が好きかわからないという事態となっているのだ。

■幼馴染の同級生グループの内輪受けが人気

Z世代を対象としたotalabの「YouTuberに関する実態調査」(2023年4月)によると、Z世代の好むYouTuberは、1位「平成フラミンゴ」、2位「コムドット」、3位「東海オンエア」などとなっている。

12月初めに動画投稿の一時休止を発表した「平成フラミンゴ」は、小学1年生からの親友という独身アラサー女性2人組YouTuberだ。「JKあるある」「高校生あるある」などのあるあるネタが学生にウケて大人気となった。

冒頭でも紹介した「東海オンエア」は、「虫眼鏡」以外5人はすべて同じ高校の同級生であり、地元岡崎ネタ、高校ネタなどが頻繁に出てくる。

しばゆー、りょう、虫眼鏡という理系チーム、てつや、としみつ、ゆめまるという文系チームが対決を繰り広げ、「【めちゃむずい】想像だけでコーラ作り対決‼」「【ゼロからの仕込み】ガチンコ‼ラーメン作り対決!!!!!」などが2000万〜3000万回再生されている「文理対決」。

「寝たら即帰宅」というルールでメンバーで旅行する「寝たら即帰宅の旅」シリーズでは、「【山奥のリゾート】2泊3日!寝たら“即帰宅”の旅!Part1」など、見ているとグループの仲の良さが伝わる動画ばかりとなっている。

「コムドット」は中学からの同級生5人組YouTuberであり、「地元ノリを全国へ」をスローガンに活動している。地元のコンビニや地元の友達が登場する地元ネタがウケて人気となった。

■「地元の仲間の集まり」を疑似体験

Z世代から支持を得るYouTuberには、ある共通点がある。学生時代からの幼馴染グループやコンビであり、とにかく仲がいいこと。東海オンエアやコムドットなど、プライベートネタや身内ネタ、内輪受けが多くて地元感が強く、学生時代のノリが感じられるものが多い。

この反対が、お笑いやアイドルグループなどにはよく見かけるビジネスのために組んだコンビやグループ集団だろう。しかしそのようなビジネスグループでは見られない、たとえYouTube配信がなくても、プライベートで会って仲良く遊んでいそうな印象を受けるグループが人気なのだ。

本来、そのような身内の輪に入れてもらうことは難しい。しかし、彼らのような動画を見ることで、自分たちも仲間に入れたような気持ちを味わえる。動画を見ることで、地元の仲間の集まりに入れてもらえたような、疑似体験ができるというわけだ。

■Z世代は自分にない「強い絆」に憧れている

なぜZ世代は地元の幼馴染グループの内輪ノリを好むのだろうか。それは、彼らができないこと、持っていない関係だからではないか。

Z世代は、SNSでも人間関係や興味関心などによって複数のアカウントで顔を使い分けている。誰かにすべてをさらけ出すことはなく、適度な距離感を持って付き合うことが一般的だ。

大学生など周囲に異性がたくさんいる状況でも、「身近な人と恋愛して居場所がなくなると怖いから」とマッチングアプリで出会いを求める。匿名のアカウントでしか本音が言えない、ネットの友達の方がリアルの友達より多いという若者もいる。

そんな若者たちにとって、彼らが持つ強い絆、地元感、仲の良さは憧れの対象となっているのではないか。自分たちにない絆やつながり、地元感や仲間感を見て、疑似体験を通して癒やされたり、楽しんだりしているのだろう。

写真=iStock.com/Rawpixel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

Z世代にとっては、仲の良さの象徴である東海オンエアがバラバラになってしまうのは避けたいことだったため、今回の公開討論から一時活動休止までの一連の動きを「自分事」のように大騒ぎしたのではないだろうか。

パーソナルな時代は自由だが、孤独でもある。「地元の幼馴染」という友人関係を実際に築ける人は少なく、だからこそZ世代は憧れの気持ちを抱いているようだ。気になった方は、YouTubeで確認してみてはいかがだろうか。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。
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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)