シチズン(Citizen)は、ブローバ(Bulova)やフレデリック・コンスタント(Frederique Constant)などの他社と同じように自社ブランドを所有する世界的な時計会社だが、これまで自社小売店はほとんどなかった。

全ブランドを扱う米国初の旗艦店



シチズンウォッチ・アメリカ(Citizen Watch America)のプレジデント、ジェフリー・コーエン氏によると、シチズンは通常、時計専門店や、Amazonやウォルマート(Walmart)のような大手小売店とマーケットプレイス双方を含む数百のディーラーからなるネットワークを通じて実店舗の小売と関与することを好むという。しかし、先週、米国初の旗艦店をオープンし、この状況は変わりつつある。シチズンは主にアジアで少数の旗艦店を所有しているが、米国ではこの店舗が初となる。

マンハッタンの五番街に12月6日にオープンした650平方メートル(7000平方フィート)のマルチブランドストアでは、シチズンの販売店では入手できない限定商品を含む同社の全ブランドの時計を取り扱う。その範囲は、数百ドルの手頃な価格の製品から2000ドル(約29万円)を超える高級時計まで多岐におよぶ。1階と2階は商品展示フロアで、修理や顧客対応などのカスタマーサービスも提供する。最上階は同社の過去のユニークなモデルを展示するミュージアムとアーカイブを兼ねている。また、パネル展やパーティなどのイベントも開催されるという。

コーエン氏によると、シチズンは3年前から旗艦店のオープンを検討し始めたという。実際の出店には丸1年を要し、シチズンの顧客が購入している経路や地域などのデータを活用した。

「我々は店舗を購入ジャーニー全体の一環にしたいと考えている」とコーエン氏。「当社はこの店をマーケティング的で体験的なものと捉えている。当社の主な事業は引き続きディーラーネットワークだが、旗艦店はそれに華を添えるものだ」。

コーエン氏は、ソーシャルチャネル全体でこの店舗を宣伝することのほかに、客足を促すために新店舗でショッピングイベントをライブストリーミングする予定もあると述べている。

旗艦店でタッチポイントを増やすメリット



シチズンの店舗オープンは、時計ブランドの多くがディーラーネットワークを補完するために大規模な旗艦店を導入している時期に行われた。ドイツの高級時計ブランド、A.ランゲ&ゾーネ(A. Lange & Sohn)は、11月、ニューヨークとパリに2軒の旗艦店をオープンした。これらの旗艦店はA.ランゲ&ゾーネがオープンした初の完全自社所有の店舗であり、シチズンと同じように、自社店舗を少数の旗艦店に限定する計画がある。

小売業のリーダーらは、主にeコマースや卸売に注力しているブランドであっても、製品の物理的なタッチポイントをひとつでも所有することが賢明だという点で同意している。

「マーケティングとブランド構築にはマルチチャネルアプローチが不可欠だ」と述べているのは、小売管理会社、WSディベロプメント(WS Development)の小売エクスペリエンス・インキュベーション担当バイスプレジデント、カリーナ・ドノソ氏だ。「あらゆるeコマースプレゼンスを補完するものとして物理的な小売店を加えることにより、最終的に顧客が物理的な世界でブランドとの明白なつながりをしっかり築くことができる。実際に製品を見て直接体験できることは、顧客とブランドの間に重要なつながりを生み出す」。

日本に拠点を置くシチズンウォッチは、パンデミック以降、順調に成長を続けている。昨年は収益性が15%増加し、記録的な伸びを記録した。また、今年はパンデミック前の水準と比べて手元資金が40%増加しており、旗艦店などへのさらなる投資が可能となっている。

[原文:Citizen opens first U.S. store on Fifth Avenue]

DANNY PARISI(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)