レジャーを大胆リニューアル〜謎のIT企業の舞台裏!:読んで分かる「カンブリア宮殿」
安い!手軽!楽しい!〜客が殺到する新型レジャー
JR大阪駅の目の前にあるビルに仕事帰りの若者が続々と入ってきた。向かった先は屋上にある「THE BBQビーチinリンクス梅田」。脂のしたたる和牛カルビに大きなサーロインステーキが煙を上げている。こんな都会のど真ん中で楽しむバーベキューが大人気。居酒屋に行かなくなった若者たちがリアルなふれあいを楽しむ。このビルの飲食テナントでは売り上げナンバーワンになっている。
いろいろな種類の肉は、このビルの地下にあるスーパーで買ってきたと言う。バーベキュー場には食器類や基本的な調味料などが用意されているので、食材だけ買い込めばOK。フラッと立ち寄って本格的なバーベキューを楽しめる。
料金は4時間で大人1人1980円。追加1650円で4時間の飲み放題にもできる。これに食材費などを入れても1人5000〜6000円で豪華に過ごせる。
客を引き寄せているもうひとつの理由が開放的でちょっとリッチな空間。椅子は全席、柔らかなソファーだ。「河原では簡易的な椅子しかないけど、ここはふかふか」と好評だ。
こんなバーベキュー施設が全国の都市部で増えている。例えば東京・新宿駅の周辺にはこの夏、営業していたバーベキューの店が15軒もあった。
都市型バーベキューの中には週末、家族で行ってみたくなる店も。東京・江東区の「THE BBQビーチin豊洲」の前には開店前から家族連れが詰めかけていた。開場と同時に客がなだれ込み、800席近くある巨大施設があっという間に満席に。「週末のランチをバーベキューで」というファミリーが嬉しそうに火を囲んだ。
この施設では食材を買わず手ぶらで来てもOK。店のほうで定番の食材セットを大人1人前2178円で用意している。さらに豊洲の施設ならではの楽しみ方もある。プリプリのホタテに大きなエビ、サンマ……海鮮バーベキューを楽しんでいるグループが目立つ。実は施設の目の前が豊洲市場。だから鮮度抜群の魚介類を買って来場できる。「豊洲市場の方も『バーベキューですか?』と、案内してくれました」と言う。
都市型バーベキューのブームに火をつけたのは「デジキュー」というバーベキュー場の検索サイトだ。施設側は無料で載せてもらえるシステムで掲載数を増やし、国内最大の4800施設を網羅。利用者は年間で500万人にのぼる。「比較しながら探せる。それぞれのホームページに行かずに検索できるのが便利」と言う。
豊洲の施設は「デジキュー」を作った会社の直営店。スタッフが集まり、客目線で店舗の改善会議を主導していたのはデジサーフ社長・高橋佳伸(57)だ。高橋は「デジキュー」を運営しながら全国に12の直営店を展開。まさにブームの火付け役だ。
自分もバーベキュー好きで、遊ぶ人の視点がビジネスを支える。
「日本の住宅がマンションになり、戸建てでも庭がない。庭がある家を買えても、煙を出すバーベキューをするとケンカになる。多くの人が騒げる場所を探しているんです」(高橋)
赤字施設が劇的変貌!〜人気スポットの集客術
高橋はそんなニーズを嗅ぎ取りビジネスを拡大すべく、あの手この手を打ち出している。
大阪・枚方市の「ひらかたパーク」。年間100万人が訪れる関西の老舗遊園地に高橋の姿があった。園内のバーベキュー施設が集客に苦戦。そこでデジサーフの客を呼び込む支援サービスを検討することになり、この日、商談となったのだ。
去年9月にオープンしたバーベキュー場では食材はこだわって、和牛ステーキなど豪華なセットを用意した。また、園内のあちこちにポスターを貼るなどしてアピールしてきたのだが、来場者にもあまり知られていない。この日の予約も一組だけだった。
こうした施設に高橋が提案するのが「デジキュー」の「送客サービス」だ。
「会員として約500万人の利用者がおり、宣伝して送客させていただく」(高橋)
契約すると検索サイトの「デジキュー」で大きく取り上げられ、さらにインスタなどのSNSでも宣伝してもらえる。
「デジサーフさんの力で当初の予定まで稼働率を上げたい」(「ひらかたパーク」楠龍也さん)
2年前、送客サービスを取り入れた東京・港区の「THE BBQビーチinアクアシティお台場」をのぞいてみた。以前は赤字続きだったと言うが、今は夜景を眺めながらバーベキューを楽しめるラグジュアリーなスポットに変身。週末の夜は毎週ほぼ満席となっていた。ビルのテナントを担当する「アクアシティお台場」の由井雅人さんは「売り上げが2〜3倍、客数も2〜3倍。予想外の反響です」と、驚きを隠せない。
高橋が今、力を注ぐのがレジャー施設のプロデュースだ。代表作のひとつが大阪・泉南市の海岸沿いにある「泉南りんくう公園」。近くの関空に観光客は降り立つのに素通りされていた泉南市が、「なんとか客を引き止めたい」と高橋に相談してきた。
そこで高橋が作ったのが、観光客が滞在し、お金を落としてくれるレジャー施設。カラフルでかわいい宿泊スペース「アーバンキャンプホテル」を用意し、テラスには「ガスグリルがついているので、食材を持ち込めばバーベキューができます」(高橋)。
さらに公園の中には高橋の提案で高さ15メートルの巨大な都市型アスレチック「ハートスロブ」を新設。家族もカップルもキャーキャー言いながらさまざまな仕掛けを楽しめる。たっぷり遊んだ後はバーベキュー。これなら一泊二日を大満足で過ごせる。これまで素通りされてきた海岸は、今や年間7万人が訪れる人気レジャースポットに変貌した。
泉南市が望んだ通り、その影響は周囲にも。公園の近くにある「カフェ空音」の来客数は以前の1.5倍になり嬉しい悲鳴をあげていた。また、隣にある道の駅「サザンぴあ」は、バーベキュー用の食材を買い出しに来る客で売り上げが30%アップ。「閉店間際の5時まで賑やかになった。ありがたいです」と言う。
こんなやり方で高橋は、最初は小さなIT企業だったデジサーフを年商23億円のレジャー企業に成長させた。
「日本人は裕福になったけれど、余暇の楽しみ方が少なかった。このレジャーという分野で一番の会社になりたいと思っています」(高橋)
「好き」を仕事にして儲ける〜商売を生み出す発想術
海でサーファー達が腕を競う湘南・藤沢市。デジサーフの本社の社員は16人。この人数で掲載数4800件の「デジキュー」の管理や12店舗ある直営店の運営にあたっている。
社員の多くは高橋自らヘッドハンティングしてきた。例えば、新規バーベキュー施設の開発を担当するプロデュース&セールス事業部の清水治喜は九州の「一風堂」で店舗開発を担当。管理部の小竹裕一郎は大企業で人事を担当していた管理部門のエキスパートだ。他にも即戦力の人材を集め少数精鋭で会社を成長させてきた。
「社長がやりたいことや思い描いているものを生み出す人だったので(入社した)」(小竹)
「夢を追いかけて夢に本気で取り組んでいる」(広報担当・大江愛弓)
「思い描いている夢を熱く語るところに共感してお世話になることに決めました」(清水)
人を惹きつけ、巻き込んでいく高橋の半生は波乱に満ちている。
高橋は1966年、静岡県の御殿場で二人兄弟の長男として生まれた。小学生の時に両親は離婚、料理人だった父親に引き取られた。父は子どもと一緒にいようとラーメン店を始めたが失敗。借金の取立て屋の怒鳴り声に、怯える日々を過ごした。
「それはやっぱり怖い。何者かは分からなかったけど、怖いものから逃げるために隠れないといけないと思っていました」(高橋)
その後、奨学金で高校を出てコンピュータの会社に就職した。80年代後半はファミコンの黄金期。「ドラゴンクエスト」などが大流行したが、家庭にパソコンは、まだ普及していない時代のことだ。高橋は入った会社で3カ月のプログラマー研修を受け、頭角を表す。30人いた同期の中でも一番と認められた。
ところが27歳である決断を下し、会社をやめる。マンションの一室でプログラマーなどの技術者を派遣する会社を起業したのだ。その経営が軌道にのると高橋は一転、趣味に生きる。サーフィンやスノーボードに没頭し、ついには30歳にしてセミリタイア。会社を仲間に任せ、スノボのプロを目指して海外まで遠征して回った。
遠征費用が必要になった高橋は自分の時間を使わずに稼ぐビジネスを思いつく。
「インターネットが広がったITバブルの後で、インターネットで自動的にお金を生む仕組みを作っていきたいと」(高橋)
高橋は、サーファー向けにリアルタイムで波の映像を見ることができるインターネットの有料サイトを立ち上げた。さらにスノボでも、大会への参加申し込みから支払いまで簡単にできるネットのシステムを開発。この二つの事業で、年間7000万円が入ってくるようになった。
「サーフィンも続けられ、スノボの大会にも出られる。ウハウハですよ」(高橋)
しかし、40代になると体力的な限界が訪れ、スノボのプロは、諦めざるをえなくなる。夢中になっていたものがなくなり生きる目標を見失ってしまった。
そんな時、その後の人生を大きく左右する転機が。若くして起業し、会社を上場させた経営者・嶋津良智さんとたまたま知人の紹介で出会ったのだ。付き合いを深める中で、嶋津さんから「会社を大きくすれば大勢の社員を成長させられる。人生の目標になるよ」という話を聞く。それまで自分の幸せだけを追い求めてきた高橋はハッとした。
「自分が子どもの頃は大変だったので、今の子どもたちには苦労してほしくない。会社が大きくなると、そういう子が増えていくので、それを実現できる会社を目指そうと思いました」(高橋)
そんな時、「バーベキュー施設のネット予約と決済ができるシステムを作ってほしい」という話が。高橋はスノボのシステムを応用し、半年で「デジキュー」を開発。これがキャンプ場などの関係者の間で便利だと反響を呼び、全国の施設から掲載の依頼が殺到した。都会のバーベキューに大きな可能性を感じた高橋は直営店を次々とオープン。「都市型バーベキューの仕掛け人」とまで呼ばれるようになった。
「『人生最悪だ』から始まって、次は『自分は最高』に。ところが会社を作って組織になると、みんなが幸せになって『私たちは最高』になると分かったんです」(高橋)
苦境の漁師を救え!〜バカ売れ漁協をつくる新戦略
デジサーフは今年、新たなパートナーと手を組んだ。
舞台は和歌山県に古くからある箕島漁港。近くに優良な漁場を抱え、太刀魚の漁獲量では日本一を誇る。しかし、現場では高齢化が進んでいる。燃料の高騰も激しく、漁師の数は最盛期の半分になってしまった。漁師からは「収入は全盛期の五分の一ぐらい。本当に真っ暗です」という声が上がる。
この苦境を打ち破ろうと漁協は3年前、水揚げしたばかりの魚を売る直売所「新鮮市場浜のうたせ」を作った。真鯛に負けないおいしさと言われるコロダイや、濃厚な旨味を持つ名産品のアシアカエビなど、とれたての魚介類200種類が並ぶ。しかし、売り上げは期待したほどは伸びなかった。
「平日や夏休みの家族連れが非常に少ない状況でした」(「箕島漁協組合」植野礼智さん)
そこで高橋の出番に。漁協とタッグを組んで今年オープンさせたのが、直売所で買った魚をその場で焼いて食べられるバーベキュー場「デジキュー浜のうたせ店」だ。
会場には漁師がいて、頼めば無料でさばいてくれる。「新鮮な魚が買えてすぐ食べられる」と、念願の家族連れも来てくれるようになった。直売所の売り上げは前年比で多い月は15%もプラスとなったのだ。
漁師たちも「見ていたら『自分も食べたい』という気持ちになります」「満席を何度も見て嬉しいですね」と、喜びを語る。
厳しさを増す漁業をバーベキューで手助けする。高橋はこの事業を全国に広げていくつもりだ。
※価格は放送時の金額です。
〜村上龍の編集後記〜
何を売っている会社なのか。バーベキューの食材か、バーベキューをやる場所か、その時間か。高橋さんは1986年にコンピュータを学んだ。まだWindows95もない。人材派遣会社で働くが、給料が安いと気づき、27歳のとき仲間と会社を立ち上げる。そのころ熱中していたのがサーフィンとスノーボード。仕事を仲間に任せ、プロを目指す。そんな中でも、サーフィンの波とスノーボードの大会情報で稼いだ。しかし8年経ってもプロになれず41歳で会社に戻る。そしてグランピングのトップ企業に。合理性の申し子のような人だ。
<出演者略歴>
高橋佳伸(たかはし・よしのぶ)1966年、静岡県生まれ。1986年、コンピュータ会社に就職。1993年、有限会社テス設立。2004年、デジサーフに社名変更。2009年、バーベキュー場予約サイトの運営開始。
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