「家で悪態をつく子」に疲れ果てた親に伝えたい事
反抗的な態度をとったあとで、泣いて抱き着いてくる息子の変わりようが恐ろしいという親からの質問について回答します(写真: imtmphoto/getty)
【質問】
小2の男子の母です。現在大手中学受験塾に通っており、成績は2000人中10番以内にいます。子どもに何時間も勉強させているわけではありませんが、成績は取れています。日々の簡単なドリル学習とソロバンとピアノもやっていますが、とても練習を嫌がります。 注意すると「わかってんだよ。もう嫌だやる気なくした。やめればいいんだろ!」など悪態をついてきます。でも最後は、「母ちゃん好きだよ」と泣いて抱きついてきます。そのような変わりように疲れてしまいました。小2でこれでは先が恐ろしいです。私の両親は毒親で、私がそのように感じるのも、そのような影響があるのでしょうか。
(仮名:岩井さん)
はじめに回答のポイントについてお話します。
(1) この子はお母さんが大好きであることを知る
(2) 頭脳のスペックがかなり高いため対応法を変える
(3) 親が毒親に育てられた影響の解釈を変える
以上3つについて説明していきます。
(1)この子はお母さんが大好きであることを知る
「学校や塾では優秀、でも家では親の言うことを聞かない、反発する、ダラダラする」ということは珍しいことではありません。というよりも、一般的ではないかとさえ感じます。外では子どもは気を張って頑張っています。そのため家は子どもにとって憩いの場であり、癒やしの場であり、自由な場であり、安心できる場であり、このような場があるからまた元気に外へ出ていくことができます。
学校や塾で勉強をさせられ、家に帰ってきても、また宿題や練習をさせられることに子どもは違和感を持っています。ただ、言葉で正確に表現できないことが少なくありません。
しかし一方で、「親の立場として習い事の練習を家でさせることは当然の義務であり、子どもはそれをすることが当たり前」と考えることも理解できますし、間違っているとも思いません。ただ、やらせるためのアプローチが適切でないと子どもは悪態をつくことがあります。ここから子どもは親に反抗することを覚えていきます。すると、そのうち親は子どものことを信頼できなくなり、場合によっては憎しみが出る親もいます。
しかし、ここで冷静に考えてみると、子どもは親の愛情を欲しがっていることがわかります。親は学校の先生ではなく、あくまでも自分のことをよく知ってくれる人、自分のことを認めてくれる人、安全安心で包み込んでくれる人だと思ってるのです。ですから子育て本などでもよく語られるように、「親の愛情が必要」になります。今、岩井さんに必要なことは、子どもがお母さんのことが大好きだということを認識することだと思います。それを不安ではなく笑顔で受け取ってあげてください。
(2)頭脳のスペックがかなり高いため対応法を変える
お子さんは頭脳のスペックがかなり高いです。そのため、これまでの対応とは変えていく必要があります。
人間の頭脳の状態をパソコンのOSとソフトの関係で説明しています。パソコンという機械にはOSとソフトがインストールされています。OSとソフトにはそれぞれバージョンがあります。例えばWindowsは初期の頃、世界に広がったWindows95というのがありました。これはOSの名前です。OSは年を経るごとに次々とバージョンを上げ、現在はWindows11となっています。そのOSに、ワード、エクセル、パワーポイントという「ソフト」がインストールされているわけです。このソフトにもバージョンがあります。
では、ここで2023年に使われている最新バージョンのワードのソフトは、初期の頃のOS、Windows95にインストールしてみます。どのようなことが起こるでしょうか?
インストールはできないかフリーズを起こしてしまうことでしょう。あまりにもOSとソフトのバージョンが異なっているからです。
人間の頭脳も同じで、OSとソフトがあります。OSが地頭(考える力)に相当し、ソフトが国算理社といった教科と考えるとわかりやすいです。例えば、頭脳のOSのバージョンが1〜10段階あったとします。そしてソフトもバージョンがあります。小1、小2、小3というのはソフトのバージョンと考えてください。するとOSのバージョンが高いとソフトはアップデート(学年が上がる)しても次々とインストールができます。これがあまり勉強をしていなくても勉強ができる子の実態です。OSのバージョンを上げる方法はありますが、岩井さんのお子さんはすでにこのOSのスペックが高いため、学校や塾、さらには日常生活の中のさまざまな活動から学び、“インストール”ができています。
そのような子どもにとっては、学校から指示されるような練習や宿題がかなり退屈です。特にできていること、わかっていることはなおさらです。これは筆者の考えですが、結果が出ているのであれば、練習や家での学習をどのようにするのかは、子どもの意見を取り入れて進めてみてはいかがでしょうか。
このような子は、自分のことを「メタ認知」できる傾向にあり、学力が下がってきたり、習い事のパフォーマンスが落ちてきたりしら、自分で修正をかけてきます。もし自分でそれができないときは、親がサポートをしてあげますが、指示・命令・脅迫・説得という手段では行いません。あくまでも子どもの意見を聞きながら、親のアドバイスをしていく感じでされてみてください。すると、この子は、今よりさらに力を発揮していくと思います。
(3)親が毒親に育てられた影響の解釈を変える
毒親という言葉は1989年にアメリカの専門家が使用したtoxic parents(有毒な親)の訳語として当てはめられた言葉のようで、実態としては「過干渉」「暴言・暴力」「親優先のネグレクト」とされています。この毒親は連鎖していくのかどうかは、さまざまなケースや解釈があると思われますが、少なくとも岩井さんは、ご自身の両親が毒親であったと認識されているので、次のように考えてみるのはいかがでしょうか。
「岩井さんの親も、そのまた親も毒親的なあり方で続いてきたけども、皆自分が毒親をやっていたとは思っていませんでした。そのため、連鎖していき、現在に至りました。でも岩井さんはそれを認識しました。認識したため、ここで先祖代々続いてきた連鎖はストップします。これまで代々無意識に続いてきたことが、岩井さんの認識によって中断することができます」
遺伝的に継承しているとか、自分が育った環境の影響とか、学問的にはさまざまな知見があります。しかし、それらは可能性の問題であって、必ずそうなるとは言い切れません。これまで1万人を超える親御さんとの相談の中でも、変わる人と変わらない人がいました。その違いは何かと言いますと、「自分のことを客観的に見ることができるかどうか」です。つまり自己認識です。岩井さんは、すでにそれができているため、これまで毒親に育てられたことが影響しているのではと考えることは一旦終了させ、自分の代から新しい親のスタイルが始まると考えてみてください。
以上3つのポイントについてお話しました。子育ては親の思うとおりにいくほうが少ないです。その子に適した対応をすることを心がけると、子どもはぐんぐん伸びていきます。筆者の音声配信「Voicy」でも1000回以上にわたり、毎日、子育て・教育相談を配信しています。
何か1つでもヒントになれば幸いです。
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(石田 勝紀 : 教育デザインラボ代表理事、教育評論家)