「あまちゃん」の再放送が終了し、「ロス」の声が飛び交うと予想されます(画像:あまちゃん公式HPより)

10月2日の会見に向けて、まだまだジャニーズ事務所の問題が関心を集め続けています。

27日にはNHKの稲葉延雄会長が、「新規の出演依頼は補償や再発防止が着実に実施されるのを確認するまで当面行わない」と明言。さらに29日の「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)には、それまで「ジャニーズ側の圧力や局側の忖度で出演できなかった」と噂されてきた他事務所のボーイズグループ・BE:FIRSTが「3時間SP」の目玉として初出演し、計3曲を披露しました。

2013年の放送から10年経っての再放送

2日の会見ではジャニーズの社名・名称変更などが発表される見通しで、それでジャニーズをめぐる問題にひと区切りつきそうなムードが漂いはじめていますが、一方で、にわかに注目を集めそうなのは、のんさん。

9月30日朝、この半年間X(旧ツイッター)を賑わせてきた「あまちゃん」(NHK BSプレミアム)での再放送が終了し、2013年の放送から10年の時を経て再び「あまロス」の声が飛び交うことが予想されています。

同時に再び飛び交いそうなのが、「のんロス」の声。当時は「能年玲奈ロス」でしたが、この10年の間で改名を余儀なくされたほか、連ドラ出演は「LINE NEWS オリジナルドラマ」の「ミライさん」にとどまるなど、テレビでその姿を見られるのは「ほぼCMだけ」という状態が続いています。

しかし、のんさんは2016年のアニメ映画「この世界の片隅に」で主人公・すずの声を担い、「第38回ヨコハマ映画祭 審査員特別賞」などを受賞。さらに、2020年の映画「私をくいとめて」では「第30回日本映画批評家大賞 主演女優賞」、2022年の映画「さかなのこ」では「第46回日本アカデミー賞 優秀主演女優賞」などを受賞しました。

能年玲奈のころに数々の新人賞に輝いていたことも含め、演技力や俳優としての可能性に疑いの余地はなく、つねにCM出演していることから世間の需要や好感度があることは間違いないでしょう。しかし、所属事務所とのトラブルが報じられて独立したあとは、「たびたび待望論が沸き上がっても、テレビ出演は一向に増えていかない」という状態が続いています。

元SMAPをめぐる公取委の注意も不発

これはジャニーズ事務所とテレビ局の関係性と同じように、元所属事務所と業界商習慣としての圧力やテレビ局の忖度によるものではないのか、という疑問が湧き上がります。

もし当時、能年玲奈さんと所属事務所にトラブルがあったとしても、仮に能年玲奈さんに何らかの非があったとしても、これほどの長期にわたって出演がないのは異様に見えます。また、「CMには出演させるのに番組には出演させない」というテレビ局の対応には整合性がなく、不自然と言われても仕方がないでしょう。

2019年7月、公正取引委員会がジャニーズ事務所に対し、「テレビ局に元SMAPの3人を出演させないように働きかけた場合、独占禁止法違反になる恐れがあることを注意した」というニュースを覚えている人は多いのではないでしょうか。

その当時、のんさんのマネジメントに携わる株式会社スピーディの福田淳代表が、ドラマ出演のオファーは多数あるが、話が進む中でテレビ局の上層部に取り消されてしまうなどの苦境を明かしました。さらに、「のんが3年間テレビ局で1つのドラマにも出演がかなわないことは、あまりにも異常」「このような古い体質を変えていかなければなりません」などと訴えかけましたが、一部で報じられたのみで終了。テレビ局の対応はほとんど変わらないまま現在に至っています。

公正取引委員会によるジャニーズ事務所への注意があった後でも、「ドラマ出演のオファーが取り消される」という告白があっても、なぜのんさんを取り巻く状況は変わらなかったのか。「結局、テレビ局は大手芸能事務所に忖度しているからだろう」「元SMAPの3人は少しずつ出演するようになったのは公取委に注意されたからで、干されたほかの人は変わらない」と捉えるしかないような状況が続いているのです。

しかも多くのテレビ局がある中、どこか1つくらいは出演させる局があってもおかしくないのに、示し合わせたかのような横並びの対応に終始。どのテレビ局も「のんは使えない」「まだやめておこう」というスタンスのまま時間だけが過ぎていき、彼女は今年7月13日の誕生日で30歳になりました。

エンタメ界を停滞させる古い商慣習

個人活動を制限し、新規参入を阻むような芸能事務所からの圧力を疑われながらも、テレビ局はそれを受け入れてしまう。

このような長年にわたる商慣習によって正当な競争が行われないことで、日本のエンターテインメント業界の技術的なレベルアップが望みづらくなっていた感は否めません。今後も実力や全体のニーズより、一部の芸能事務所やファンを優先させるような状態が続けば、ネットの浸透で始まった世界での競争で生き残っていくことは難しいのではないでしょうか。

時代は昭和から平成、令和と変わり、これまで圧力と忖度を行ってきたと疑われているテレビ局のトップも、芸能事務所のトップも高齢になり、かつてほどの影響力を発揮しづらい状況に変わりつつあるようです。

それでもテレビ局と芸能事務所は、これまでと同じことを繰り返していくのか。また、公正取引委員会はほかの芸能事務所に対しても調査を進め、なかなか「排除措置命令」や「警告」までは至らなくても、ジャニーズ事務所と同レベルの「注意処分」くらいはできないのか。

長年、芸能界を取材していますが、以前より芸能事務所の移籍や独立がしやすくなったものの、他業界と比べたらいまだに「自由が少なく、制約や負担がある」と言われているのも事実。芸能事務所はその理由に「レッスンや育成などのコストをかけている」「事務所のノウハウや内情を知っている」ことなどを挙げますが、それは他業界も同じでしょう。

たとえば、社員に研修や福利厚生などでコストをかけているし、会社のノウハウや内情を知ったうえで転職するのではないでしょうか。職種などによっては秘密保持義務や競業避止義務などを負うケースもありますが、移籍や独立の際に多額の「移籍料」「育成料」などを求めがちな芸能界の商習慣は特異に見えます。

より質が高く、より多くの人々を楽しませられるエンターテインメントを作っていくためには、芸能人がこれまでよりも自由に移籍でき、テレビ局が自由にキャスティングできるほうがいいでしょう。

しかし、のんさんのほかにも、実力と人気がありながら、突然テレビ出演がなくなり、「干された」と言われる芸能人は少なくありません。令和の今も昭和から続く芸能界特有の商慣習を踏襲しなければいけないのであれば、やはり時代錯誤な感は否めないのです。

30歳の誕生日につづった決意の言葉

前述したように、のんさんは今年7月13日の誕生日で30歳になりました。その当日、毎日新聞の全面広告で、のんへの改名時から使っていた「女優・創作あーちすと」という肩書を「俳優・アーティスト」に変更することを明かしたのです。

そこに添えられていたのは、「ちょっとハードルを下げて、自分の好きなように自由にやりたかったから、『創作あーちすと』と平仮名でおとぼけていた。そして“のん”になって、色んな人と色んな場所で色んなものを作って、私はどうやったって作りたい人なんだってことが分かった。根拠のない自信が確固たる自信に変わった。だから肩書き変えます。 のん」という言葉。

つらいときを経て30歳になった今、「胸を張って“俳優・アーティスト”と言える」という自信や覚悟が感じられますし、「もはやテレビへの未練はないのかもしれない」というニュアンスを感じさせられます。

改名後の彼女は、映画、舞台、音楽活動、声の仕事、創作、動画配信などのファン層に作り込むようなコンテンツへの出演が多く、テレビ番組のようなライト層も含めて広く世間の目にふれるものはそれほどありませんでした。また、2022年公開の映画「Ribbon」では脚本・監督も務め、しかも新人映画監督を対象にした「新藤兼人賞」の最終選考10人にノミネート。作り手としても評価を高めています。

誕生日につづった「私はどうやったって作りたい人なんだってことが分かった」という言葉の真意はどこにあるのか。「あまちゃん」という国民的ドラマの主演を務めた俳優だけに、作り手としてだけではなく、地上波の連ドラでその演技が見られることを願っている人々は多いでしょう。

7月に30歳の誕生日を迎え、9月で「あまちゃん」10周年の再放送が終わる節目の今こそ、その期待感が最も高まるときに見えるのです。もし地上波の連ドラに復帰するのであれば、本名であり俳優としての原点でもある「能年玲奈」という名前も返してあげてほしい。少なくとも「あまちゃん」のファンたちはそう願っているのではないでしょうか。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)