2017年に発売され軽自動車ナンバーワンの座をキープし続けたN-BOX(写真:本田技研工業)

ホンダの新型「N-BOX」が、まもなく発売される。デザインなどの概要は8月に公開されており、SNSではディーラーからの得られた情報が散見されていたから、満を持しての発売だ。

N-BOXといえば、日本の自動車市場の一大カテゴリーとしてすっかり定着した軽スーパーハイトワゴンの代表格であり、今“日本で最も売れているクルマ”である。


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具体的にどれだけ売れてきたかを見てみると、軽4輪車新車販売台数では8年連続の1位。普通車(登録車)を含めたランキングでも、2017〜2020年、2022年にナンバーワンとなっている。

またその中身も他の追随を許さず、2022年4月〜2023年3月の新車販売台数を見てみると、1位のN-BOXが20.4万台なのに対し、2位のダイハツ「タント」は12.3万台、3位のスズキ「スペーシア」は11.0万台と、大差での1位なのだ。


スペーシアのカスタムモデル。スペーシアもモデルチェンジが近いと言われる(写真:スズキ)

では、なぜ“日本で最も売れているクルマ”になったのだろうか。2017年発売の2代目N-BOXと、軽スーパーハイトワゴンのタント、スペーシア、日産「ルークス」の購入者データを比較・分析してみた。

分析データは、市場調査会社のインテージが毎月約70万人から回答を集める、自動車に関する調査「Car-kit®」を使用。購入時の比較環境やトレンドの影響を揃えるため、以前紹介した「人気の『スーパーハイトワゴン』購入者の実態」に合わせて、分析対象はすべて2020年3月以降購入者とする。加えてインテージの自主調査データも活用し、別の角度からも分析した。

<分析対象数>
ホンダ「N-BOX」:4814名(標準車2239名/カスタム2575名)
■ダイハツ「タント」:2646名(標準車1121名/カスタム1395名/ファンクロス130名)
■スズキ「スペーシア」:2040名(標準車771名/カスタム749名/ギア479名/ベース41名)
■日産「ルークス」:1558名(標準698名/ハイウェイスター860名)
※いずれも分析対象は新車購入者のみとする。()内はモデル内訳。

他のクルマを比較したか?

はじめに、今回のクルマを購入した際に「他のクルマを比較検討したか」を見てみよう。「比較が少ない=指名買い」であり、そのクルマが欲しい気持ちが強かったことを表している。


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結果、「指名買い」が最も多かったのはN-BOX購入者で、その割合は60%を超えていた。次いでルークスとタントが50%強、スペーシアが45.2%と続く。絶対王者N-BOXは、そもそも他のクルマと比較されることが少ないようだ。

それでも、N-BOX購入者の4割弱は、他車を検討している。そこで、「最後まで比較検討した車種」の結果を紹介したい。

N-BOX購入者の比較検討車種は、タントが1位だった。販売台数ナンバーワンとナンバーツーは、やはり強いライバル関係になるのだろう。


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注目すべきは、N-BOXの競合である3車種すべてが、N-BOXを最も比較検討している点である。ここでもN-BOXの強さが表れている。

タントとスペーシア購入者はそれぞれお互いに比較しあっているものの、N-BOXが頭1つ抜け、そこにタントとスペーシアが加わる三すくみの状態であることがわかる。


カスタムのデザイン変更で販売のテコ入れを図ったタント(写真:ダイハツ工業)

タントの3位には、タントと同じくダイハツのスライドドア車である「ムーヴキャンバス」が、スペーシアの3位にはスズキの「ハスラー」がランクインしており、同メーカー内での検討も多いことがうかがえる。なお、いずれの車種でも最終検討車種のトップ3にルークスは、入っていなかった。

ファーストカーとして選ばれる軽自動車

続いて、そのクルマが日々の生活の中でどのように使用されているのかを見る指標の1つ、「保有台数」を確認する。


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注目すべきはN-BOXの「1台のみ(購入車のみ)」の多さである。つまり、セカンドカーとして軽自動車を購入しているのではなく、ファーストカーとして通勤や送迎、レジャーなどにフル活用しているわけだ。

車種間で比較すると10pt弱の差とはいえ、N-BOXは他の軽スーパーハイトワゴンよりも世帯内での役割が多いと考えられる。

ちなみに、世帯内で他に保有するクルマ(併有車)は、N-BOXとルークスでは同メーカーであるホンダ、日産である人が最も多い。一方でタントとスペーシアでは、トヨタ車が1位だ。


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ダイハツとスズキは、軽自動車とコンパクトカーが中心のメーカーであるため、おのずとファーストカーは他メーカーに。そして、豊富なラインナップと販売店網を誇るトヨタを併有する人が多くなるのだろう。ちなみに、N-BOXとルークスに目を戻すと、2位にはトヨタが入っており2割程度を占有している。

いったい、どのような人々が買っているのか?

ここまで、購入検討車種や世帯内での立ち位置を見てきた。では、それぞれの車種の購入者の属性は、どうであるか。

以前、「人気の『スーパーハイトワゴン』購入車の実態」で、性別・年齢といった基本的な属性情報を紹介している。そのため、今回はそこから一歩踏み込んで、インテージの自主調査データより「メーカー再購入意向」の指標を確認していこう。

具体的には「あなたが次回、車を購入するとしたら、次も同じメーカーから購入したいと思いますか」の質問に対し、「確実に同じメーカーから購入したい」と答える人の多さである。


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結果はN-BOXとルークスが高く、タントとスペーシアが低くなっている。しかし、N-BOXとルークスとも非常に高いわけではなく、2割弱にとどまるボリュームだ。

この結果の読み解き方の1つとしては、N-BOXを販売するホンダ、ルークスを販売する日産は「登録車のラインナップが比較的多い」ことが考えられる。


ルークスは2023年のマイナーチェンジでフロントのデザインが変わった(写真:日産自動車)

たとえば、ホンダなら「フィット」「ヴェゼル」「フリード」「ステップワゴン」など、日産なら「サクラ」「ノート」「キックス」「エクストレイル」「セレナ」などだ。

一方、軽自動車をラインナップの中心に据えるダイハツのタントとスズキのスペーシアは、そのぶん車種の選択肢が減るため、「確実に同じメーカーから購入したい」人が少なくなるのだろう。

次は、もう少し深掘りするために「顧客構成」の考えを用いて、「どのような人々が購入しているか」を、購入者を次の5つに分類して見ていく。

<購入者5分類>
■新規:初めて自動車を買った人
■2連続リピート:1つ前の車と同じメーカーから購入した人
■3連続リピート:1つ前だけでなく2つ前の車も同じメーカーの人
■スイッチ:1つ前の車と違うメーカーから購入した人
■出戻り:以前購入したメーカーに戻ってきた人

この5つのセグメントの構成を車種ごとにまとめたものが、次の「顧客構成」だ。


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車種同士で比較してみると、最も特徴的なのはルークスの「3連続リピート」の多さで、実に5割を超える。次いで3連続リピートが多いのは約3割のN-BOX、2割前後のタント、スペーシアと続く。

顧客構成の概念において、獲得すべき人々は「3連続リピート>2連続リピート>スイッチ」の順である。

なぜなら、「スイッチ」よりも「2連続リピート」を、「2連続リピート」よりも「3連続リピート」を多く確保することが、メーカーやディーラーが継続的に収益を確保していくうえで重要となるからだ。よって、この観点においては、ルークスはN-BOXを上回ると言える。

フルモデルチェンジを控えて

最後に、ここまでの情報を整理してみよう。

(1)販売台数ではN-BOXが頭1つ抜けており、2位集団をタントとスペーシアが争い、そのやや後方にルークスが続く。

(2)メーカー再購入意向ではN-BOXとルークスが高めのグループで、タントとスペーシアが低めのグループであった。

(3)顧客構成を見るとルークスの「3連続リピート」が断トツの多さであり、次いでN-BOX、タント、スペーシアの順となった。

N-BOXは、その販売台数が示すように大ベストセラーであり、ホンダファンだけでなく、他のメーカーから奪取する形で購買層も広く獲得できている(上記にて「スイッチ」が約4割となっている)。

ルークスは、「3連続リピート」の多さ、そして再購入意向の高さから、「次も日産で買いたい」という意向を持つ日産ファンに支えられている。ところが販売台数ではタント、スペーシアに水をあけられているので、日産ファン以外をあまり取り込めていない問題が見えてくる。

タントとスペーシアは、お互いに競り続けている印象だ。これはタントとスペーシアというよりは、ダイハツとスズキの長きにわたる戦いの1つであり、代表戦とも言えるかもしれない。


まもなく発売と目される新型N-BOX(写真:本田技研工業)

代替購入が大部分をしめる自動車市場において、強固な顧客基盤の維持拡大は非常に重要だ。ライフステージの変化にともなって求めるボディタイプやサイズが変わっても、同じメーカーから購入する可能性の高い顧客は、利益貢献の大きい優良顧客だからだ。

ホンダはN-BOXという大ヒット商品を通して、新規ホンダオーナーを多く獲得してきた(一方、ホンダオーナーのダウンサイジングによる収益減も課題となっているが……)。

まもなく発売される新型N-BOXでは、どれだけ既存顧客からスムーズな代替購入へと導けるか、そして新たな顧客を他社オーナーから獲得できるだろうか。物価高やガソリン価格の上昇などにより、ダウンサイジングを希望するユーザーは一段と増えるかもしれない。

N-BOXがこの先も王者であり続けるか。追われる立場としての新型N-BOXの動向が気になる。

(三浦 太郎 : インテージ シニア・リサーチャー)