コロナ禍でテレワークやオンライン授業が普及し、新型コロナウイルスが5類に移行してからも、テレワークやオンライン授業を継続している企業や学校は多いようです。ただし、100%テレワークといった事例は少ないので、まったく通勤や通学をしないというわけにはいかないでしょう。通勤通学をするとなると、気になるのは電車の混雑です。

通勤通学時の混雑状況を把握するために、国土交通省が混雑率を調査

国土交通省では、毎年、通勤通学時間帯における鉄道の混雑状況を調査しています。令和4年度(2022年度)の「都市鉄道の混雑率調査」の結果が発表されましたので、この結果を見ていきましょう。

国土交通省の「混雑率」は、最混雑時間帯1時間の平均(主に2022年10月~11月の1日または複数日の乗車人員データを基に計算したもの)で、JRに加えて、私鉄や地下鉄、モノレール、新交通システムなども対象にしています。

混雑率の目安は、100%、150%、180%、200%、250%で、それぞれ以下のような状況になるとしています。

出典:国土交通省「資料1:三大都市圏の主要区間の平均混雑率推移(2022)」より転載

三大都市圏の主要区間の平均混雑率の推移を見ましょう。東京圏では、平均混雑率が180%を超えることが長く続いていました。これは「折りたたむなど無理をすれば新聞を読める」程度の混雑状況ということです。もっとも最近は電車内で新聞を読む姿を見ることも減ってきましたが、人と人との間にわずかな隙間しかない状況ということでしょう。

調査結果を見ると、三大都市圏ともにしばらく混雑率が横ばいという状況が続いていましたが、コロナ禍で一気に混雑率は減少し、平常生活に戻りつつある令年4(2022)年度には上昇に転じました。その平均混雑率は、東京圏123%、大阪圏109%、名古屋圏118%でした。それでも、コロナ前に比べればまだ低い状況です。

出典:国土交通省「資料1:三大都市圏の主要区間の平均混雑率推移(2022)」より転載

主要区間の混雑率ワーストは京浜東北線・川口→赤羽間の142%

国土交通省では、継続的に混雑率の統計をとっている区間を「主要区間」と呼んでいます。東京圏で31区間、大阪圏で20区間、名古屋圏で8区間があります。この主要区間のなかで、混雑率が最も高い路線を見ていきましょう。

まず、東京圏では、JR東日本「京浜東北線(川口→赤羽・7:20~8:20)」の142%、東京地下鉄「千代田線(町屋→西日暮里・7:45~8:45)」の139%、JR東日本「中央線・快速(中野→新宿・7:41~8:41)」の139%、東京地下鉄「東西線(木場→門前仲町・7:50~8:50)」の138%、東京都「三田線(西巣鴨→巣鴨・7:40~8:40)」の135%、東京地下鉄「日比谷線(三ノ輪→入谷・7:50~8:50)」の135%が混雑率上位となりました。大阪圏では、阪急「神戸本線(神崎川→十三・7:33~8:33)」の134%、名古屋圏では、名鉄「本線(東)(神宮前→金山・7:40~8:40)」の132%が上位でした。

全国の都市部路線ワーストは日暮里・舎人ライナーの155%

主要区間以外についても国土交通省は調査をしています。「資料3:最混雑区間における混雑率(2022)」で、全国の都市部の路線における最混雑区間の混雑率を見ていきましょう。最も混雑率が高いのは、東京都「日暮里・舎人ライナー(赤土小学校前→西日暮里・7:20~8:20)」の155%で、次いで、西日本鉄道「貝塚線(名島→貝塚・7:30~8:30)」の154%でした。

さらに、混雑率ワースト10を見ると、JR東日本「埼京線(板橋→池袋・7:51~8:51)」の149%をはじめ、11路線のうち9路線が首都圏という結果になりました。

出典:国土交通省「資料3:最混雑区間における混雑率(2022)」より抜粋して作成(筆者)

ちなみに、最も混雑率が低いのは、山万「ユーカリが丘線(地区センター→ユーカリが丘・6:55~7:55)」の22%で、次いで、能勢電鉄「日生線(日生中央→山下・6:45~7:45)」の23%、阪堺電気軌道「阪堺線(今船→今池・7:30~8:30)」の33%、東海交通事業「城北線(比良→小田井・7:40~8:40)」の34%の順となっています。

混雑率が高い路線の共通点は?

実は、混雑率155%の日暮里・舎人ライナーと154%の貝塚線には、共通点があります。

2008年に開業した日暮里・舎人ライナーは、日暮里駅と埼玉県境に近い見沼代親水公園駅間の約9.7キロメートルを結んでいます。ゴムタイヤ車輪の5両編成の電車が走る、コンピューター制御による無人運転の新交通システムです。

以前から混雑率は高かったのですが、なかなか混雑解消が進んでいませんでした。多少の増発では、沿線の宅地開発が進んで増加した沿線人口に対応できなかったからです。そのため東京都交通局は、混雑対策として輸送力の高い新型車両の投入を進めています。2022年6月に1編成の運行を開始し、2024年度までに既存車のうち12編成を新車に置き換える計画です。

西日本鉄道貝塚線は福岡市郊外を走る約11.0キロメートルの路線で、列車は2両編成です。福岡市営地下鉄と直通計画があったようですが、実現には至っていません。一方で、宅地開発による人口増加の影響もあり、高い混雑率が続いている状況となっています。

このように、混雑率は輸送力と輸送人員(乗客数)のバランスで決まります。輸送力が増えれば混雑は解消しますが、輸送力が増えても乗客数も増えてしまうと、混雑は続きます。混雑率は、鉄道事業者の取り組みによって常に変化しているわけです。

住まい選びでの通勤通学時の混雑率をどう考える?

筆者が学生の頃は、激混みと言えば山手線でした。山手線の混雑率を見ると、外回り(上野→御徒町・7:40~8:40)では115%、内回り(新大久保→新宿・7:45~8:45)では126%です。思っていたほどには混雑していません。それでも、新宿駅のホームや改札口はいつも混雑しています。

通勤通学する時間帯によっても混雑率は変わりますし、乗換駅なら駅構内や改札周辺の混雑も考慮したいところです。住まい選びの際には、実際に通勤通学時間帯に乗車して、ホームや車内がどの程度の混雑状況になるのか、乗り換えや出口まではスムーズに移動できるか、実際の通勤時間はどの程度かかるのかなどについて確認したいところです。

なお、通勤ラッシュを少しでも避けたいなら、通勤駅に乗り入れる路線の中でも混雑率の低い路線を選ぶという方法が考えられます。また、同じ混雑状況でも乗車区間が短かったり、長い区間でも座って乗車できれば、それほど苦痛にならないということもあります。ですから、各駅停車で通勤することを選んだり、通勤時に始発駅となる駅の最寄りを選んだりといった方法も考えられます。通勤通学のラッシュで心身ともに疲れてしまうといったことは、避けたいものですね。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)