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故・ジャニー喜多川氏の性加害問題を受けて、ジャニーズ事務所の所属タレントを起用した企業広告が、相次いで中止や見送りに追い込まれている。

報道によると、アフラック生命保険も、櫻井翔さん起用のテレビCM契約を終了する方針。一方で、同社は「タレント個人との契約に変更するなど、さまざまな可能性を検討している」という。

これに先立って、ジャニーズ事務所は、今後1年間、広告出演や番組出演などによる出演料は、すべてタレント本人に支払い、芸能プロダクションとしての報酬をもらわないと発表していた。

芸能界を揺るがす問題として、しばらく尾を引きそうだが、アフラックが検討している「タレント個人との契約」について、芸能界にくわしい河西邦剛弁護士は「これまではありえないことだ」と驚く。河西弁護士に聞いた。

●タレント本人が「契約主体」になることはなかった

――そもそもスポンサー企業(広告主)は、ジャニーズ事務所と、どんな契約を結んでいるのでしょうか?

日本の商慣習上、スポンサー企業、広告代理店、ジャニーズ事務所で「広告出演契約」を結んでいます。タレント本人と直接契約(直契約)を結ぶことは、慣行上、今まではありえないことでした。

これは、日本の芸能界においては、芸能事務所とタレントは「専属芸能契約」を結び、この専属契約ではタレント本人が芸能活動についてのギャラを直接受け取らないという内容になっているからです。したがって、タレント本人が契約主体になることはありません。

――スポンサー企業が、タレント本人と個人契約を結ぶことはどういう意味があるのでしょうか?

専属契約は、基本的に芸能事務所にメリットがあるので、ジャニーズ事務所が許可すれば、タレント本人と広告代理店を通じて、スポンサー企業と直接契約することは理論上は不可能ではありません。

しかし、今までほとんど例がなく、もし実現すれば、日本の芸能業界にとって革命的ともいえる大きな変化です。

これまで一部のタレントや芸人は、専属契約ではない「エージェント契約」というスタイルをとっていますが、著名なアイドルのエージェント契約は聞いたことがありません。

エージェント契約というのは、もともとアメリカをはじめとした海外で主流ですが、「日本の芸能界=専属契約」と言っていいほど、日本の芸能界では最近まで、専属契約が「当然の前提」でした。

●芸能界全体からの反発が予想される

――タレントが個人契約することにリスクはないのでしょうか?

スポンサー企業にとっては、芸能事務所が窓口になるメリットを一言でいえば、「品質保証」です。事前打ち合わせから撮影に至るまでのスケジュール管理から、撮影当日の動き、競業商品の取扱い、トラブル対応など、芸能事務所がタレントを「管理」することで「品質保証」することにあります。

しかし、ジャニーズタレントの場合は、CM出演の経験も豊富で、タレント本人も「品質保証」という意味合いも十分に理解しているでしょうし、今回のケースでは、直契約になったとしても、ジャニーズ事務所も従前とおりのサポートをおこなうでしょうから、ジャニーズの場合では、個人契約のリスクは実際はあまりないと思います。

――今回のような個人契約は、芸能界全体に広がりますか?

タレント本人は直接契約しない、仕事の窓口にならない、直接ギャラを受け取らないという慣行は、ジャニーズ事務所だけではなく、現在の日本の芸能界全般にあてはまることなので、ほかの芸能事務所、つまり業界全体からの反発が予想されるところです。

スポンサー離れに歯止めをかけたいジャニーズ事務所、ジャニーズのタレントにオファーしたいスポンサー企業、双方のメリットにはなりますが、そこには戦後続いてきた日本の芸能界の業界慣行というのが立ちはだかることになるかと思います。

【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/