痴漢や盗撮を取り締まる「自警団系YouTuber」警察に連行する様子を撮影…行き過ぎは「犯罪」にあたる可能性も
痴漢や盗撮犯などを取り締まる「自警団系YouTuber」の動画が人気を集めています。犯行の様子や加害者と対峙する場面のほか、警察に引き渡すところまで撮影して、まとめているものです。
こうした動画には「応援してます」といった支援のコメントが並んでいますが、YouTuberが行き過ぎた行為をしているときには批判もされています。
最近では、「3時間以上、駅周辺を徘徊している人は問答無用で警察に引き渡します」というパトロール系YouTuberの動画が話題となりました。
この動画では駅に3時間居座っていた男性を「異常」だとし、警察に連れて行く様子がうつされており、コメント欄には「なんの権限があってこんなことをしているんですか?」「イジメと一緒じゃん」と批判する声が上がっていました。
こうした犯罪撲滅をうたう自警団系YouTuberの行為は、法的にはどう考えられるのでしょうか。清水俊弁護士に聞きました。
●無理やり警察に、強要罪にあたる可能性も
--痴漢や盗撮など犯罪行為を取り締まるYouTuberの行為は、どのような法的問題にあたる可能性がありますか。行き過ぎた行為については民事上、刑事上の責任が発生しかねません。
動画では、駅に3時間居座っていた男性を「異常」だとして警察に連れていく様子がうつされているとあります。
たしかに駅に3時間居座っていたのは「あやしい」かもしれませんが、犯罪行為とまでは言いきれません。そのため、警察に連れていく、まして強制するような行為は、強要罪(刑法223条)などの犯罪行為になりかねません。
また、脅迫的・威圧的な言動、あるいはプライバシー権などの人格権侵害に対して不法行為に基づく損害賠償責任が生じる場合もありえます。
●そもそも私人逮捕って?
--犯罪行為を発見して、警察に引き連れて行く行為は、私人逮捕にあたるのでしょうか。
刑事訴訟法213条は「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」と規定しています。そのため、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる」場合に身柄拘束したときには、私人逮捕にあたります。
ただ、犯罪行為から時間や場所が離れている場合には、現行犯逮捕として適法かどうか微妙な場合もあります。もし違法な場合には、やはり暴行罪や逮捕罪等に該当し、不法行為に基づく損害賠償責任が発生しえます。
●被告人に対しては無罪推定の原則
--こうした自警団YouTuberは、どのような点に気をつけるべきでしょうか。
自警団YouTuberの動画は、犯罪抑止の効果があるかもしれません。ただ、被疑者、被告人に対しては「無罪推定の原則」があり、当然、人権もあります。
現行犯だから、被疑者だから、何をしてもいいということにはならず、行き過ぎれば刑事、民事上のペナルティを受けることを頭に入れておかなければなりません。動画でも電車内で被疑者を追いかける場面が映っていましたが、周囲の人を巻き込んだ大きなトラブルにも発展しかねません。
特に、動画投稿による広告収入が目的だとすれば、「撮れ高」を求めて、より言動がエスカレートする可能性を秘めているとも言えます。
【取材協力弁護士】
清水 俊(しみず・しゅん)弁護士
2010年12月に弁護士登録、以来、民事・家事・刑事・行政など幅広い分野で多くの事件を扱ってきました。「衣食住その基盤の労働を守る弁護士」を目指し、市民にとって身近な法曹であることを心がけています。個人の刑事専門ウェブサイトでも活動しています(https://www.shimizulaw-keijibengo.com/)。
事務所名:横浜合同法律事務所
事務所URL:http://www.yokogo.com/