「すばらしい勝利を飾ったドイツ戦から、先発メンバーは左サイドバックの伊藤洋輝を除いてガラリと変わっていた。多くの選手をテストする意味合いが強かったのだろう。いいプレーがあったのは間違いないが、その点でいくつか課題も出ていた」

 スペイン人指導者、ミケル・エチャリはそう言って、日本がトルコを4−2で下した試合について振り返っている。

 エチャリはレアル・ソシエダ、エイバル、アラベスというクラブで、さまざまな役職に就いてきた。とりわけ戦術指導に優れ、バスクサッカー界においては重鎮である。たとえばレアル・ソシエダのイマノル・アルグアシル監督も"教え子"のひとりだ。

 その戦術家は、日本の戦いをどう見たのか?

「まず、フォーメーションとコンセプトはドイツ戦から変わっていない。4−2−3−1が基本だが、守るときは4−4−2になる。ドイツ戦はトップ下の鎌田大地が戦術軸になっていたが、同じトップ下に抜擢された久保建英が、その役目を担っている。

 11人のなかでは久保が明らかに際立っていた。下がってボールを受け、叩いて攻め上がる。その間、味方がスペースを作るのに合わせて動き、自らスペースを使い、前方が開けると、脅威を与えるドリブルを見せた。プレーに連続性を感じさせ、常に敵味方の動きに注意を払い、その裏をかく動きができている。


ミケル・エチャリが「際立っていた」と称賛したトルコ戦の久保建英

 15分、久保が左サイドで始めたプレーからだった。田中碧を経由して右サイドまでボールを展開し、中に入ったところで伊藤敦樹が左足で突き刺した。連携にやや難があるチームにあって、久保は自らボールを運び、味方の優位を作っていた。戦術的にも、技術的にもトッププレーヤーと言える。

 28分、久保は味方が奪い返したボールをすかさず左足で狙っている。決断が速い。しかも鋭い軌道のボールで、非常に高いレベルのプレーだった。

 久保のシュートをGKがこぼし、それを中村敬斗が押し込んでいるが、注目すべきはチーム戦術だろう。3人の選手がこぼれ球を狙うポジションをとっていた。とてもいいシーンで、必然の得点である。 

【日本の3点目に注文】

 36分には自陣で毎熊晟矢がボールを奪うと、一気にゴールへ殺到している。カウンターで日本は優位に立ち、中村がゴールを決めた。これで3−0になったわけだが......。戦術的には合格点をつけることはできない。

 このシーンは、毎熊が前へ運んだところで、トップの古橋亨梧はマークを引きつけてニアに入り、そのスペースに久保、もしくはファーポストの中村が待つのが定石だった。古橋は得点を自らが狙いすぎ、周りを生かすプレーが疎かになっていた。トルコは右サイドの選手が戻らず、拙守に助けられて、結果的に中村はフリーになったが、戦術的な動きでもっとロジカルにフリーになれていたはずだ。

 古橋は俊敏性やゴールの形はすばらしい選手だ。ただ、たとえば岡崎慎司のように戦術的に成熟できないと、1トップは苦しいだろう。うまくいかないことで、どこか焦りも抱えていたのかもしれない。ややパワーにも欠ける選手だけに、せっかくのシュート精度まで悪くしていた」

 エチャリはあくまで建設的に解説している。3−0になったが、日本はトルコを圧倒していたわけではなかった。戦術的エラーが目についたという。

「37分、堂安律はインサイドへのスルーパスを狙い、そのトライそのものは失敗したが、悪くなかった。相手のカウンターにすぐ反応したのもよかったが、相手に運ばれてしまったところ、右サイドバックが前に出て守備をしていたにもかかわらず、右アタッカーの堂安がカバーを怠っていた。強豪との一戦では、こうした"さぼり"は大きな代償を払うことになるだろう。

 44分、日本はFKを与えると、ロングボールをファーポストで折り返され、正面に弾いたボールをヘディングで押し込まれている。前半終了間際のFKで、守りきる工夫がほしかった。GKのプレーもやや不安定だった。

 また、左サイドバックの伊藤(洋)はことごとく背後を取られている。左サイドからのクロスに対し、ボレーで狙われたシーンがあったが、なぜ直前にマークを外したのか? 失点にならなかったのは、単なる僥倖(ぎょうこう=思いがけない幸運)だろう。また、ひどいコントロールでボールを相手に渡し、カウンターも浴びた。61分にも自らが潰すべき相手を見失い、クロスを入れられ、トルコに2点目を奪われている。目の前のアタッカーをみすみす自由にして、だ。味方が触ってコースが変わった"不運"に見えるかもしれないが、必然の失点だろう。

 伊藤は72、73分もたて続けにポジショニングが悪かった。簡単に前に入られ、決定的なプレーを許していた。キックは悪くないが、正直、左サイドバックのポジションはどうなのかと思う」

 エチャリは端的に説明しながら、最後にこう試合を総括している。

「後半10分のプレーのように多くの選手が関わるチームプレーもあった。攻め寄せ、セカンドボールを拾い、クロスを入れ、最後は田中がミドルを放ち......と、攻守が潤滑に運ぶ時間帯もあった。最初に記したように久保は違いを見せたし、田中はアップダウンするパワーを感じさせ、交代出場の伊東純也は守備&カウンターで特徴を出していた。

 ただ、他はドイツ戦と比べると、必ずしもフィットしていなかった。

 もっとも、これは監督としてベストチョイスを見つけるプロセスだろう。その点では収穫の多い一戦だった。欧州遠征の連戦で8得点3失点は、堂々とした数字だ」