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ヒゲや茶髪、ツーブロック禁止など「身だしなみ」についての独自ルールを設ける会社がある。特に客先に出向くことが多い営業であれば、自分好みの髪型やカラーを楽しめないことも少なくない。

「スパイラルパーマで会社に行ったら怒られた」「紫のインナーカラーがバレて、やめるように言われた」など、ネット上には実際に怒られたサラリーマンからの投稿が並ぶ。人前に出るという理由で「黒髪以外NG」の企業もあるようだ。

そもそも、社内ルールで従業員の髪型を制限することは許されるのだろうか。中村新弁護士に聞いた。

●ルール自体は違法ではないが、ペナルティは慎重に

ーーそもそも、企業は服装・髪型についてのルールをつくってもよいのでしょうか。

はい。企業秩序を維持するため、服務規律の一環として服装・髪型などについて一定のルールを定めることができます。ルールを定める場合、就業規則の「服務規律」もしくは「遵守事項」の項に内容が記載されることが多いでしょう。

他方、服装や髪型の自由は、自己決定権ないし表現の自由の一環として個人に憲法上保障される権利です。そのため、過度の制約に至らないようバランスを取ることが必要です。

制約は、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内においてのみ認められます。具体的な制限行為の内容については、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことのないよう特段の配慮が要請されます(東谷山家事件:福岡地小倉支判平成9年12月25日)。

ーー具体的には、どのようなことであれば許されるのでしょうか。

職務の性格上必要な制服・制帽などの着用を就業規則で義務づけることは可能です。接客業などの場合、顧客に不快感を与えるおそれがある髪型や服装を禁止するルールを就業規則に設けても、それ自体を違法・無効ということはできません。

しかし、ルール違反を理由としてペナルティまで課すことには慎重な配慮が求められます。以下の裁判例が参考になります。

【イースタン・エアポートモータース事件:東京地判昭和55年12月15日】
「ひげ」を禁止する就業規則に違反して口ひげを剃らなかったハイヤー運転手を乗務停止処分にした事例です。服務規律規定は、顧客に不快感を与える「無精ひげ」、「異様・奇異なひげ」のみを禁じるものとする限定解釈がされました。

【郵便事業(身だしなみ)事件:大阪高判平成22年10月27日】
ひげを生やしていることが社内の身だしなみ基準に反しているとして注意され、マイナスの人事評価をされた事例です。裁判所は「顧客に不快感を与えるようなひげ及び長髪は不可とする」という内容に限定して制限すべき、として考課を違法としました。

●明確に望ましくない髪型などは就業規則で「例示」を

ーー企業は、どのようにルールの文言を考えればよいのでしょうか。

業務の性格上望ましくない服装や髪型を明瞭に想定できる場合には、就業規則で例示しておくことが最善の対処法でしょう。

しかし、実際に「企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内」の規制を明示することには、かなりの困難が伴うと思われます。例示や指定があまりに細部まで及んでしまうと、規制そのものの有効性が疑われることにもなりかねません。

「業務遂行に支障をきたすような髪型・服装をしないこと」などの概括的な規定を就業規則に置いたうえで運用を積み重ね、企業秩序維持のために必要な服装・髪型の範囲についてコンセンサスを形成していく方針が現実的だと思います。

【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、2021年9月まで東京労働局あっせん委員。2023年4月より東京労働局労働関係紛争担当参与。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。
事務所名:銀座南法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/