9月1日にドイツのベルリンで開幕したエレクトロニクスイベント「IFA 2023」、LGエレクトロニクスはコロナ禍の前と同じ大きな規模でブースを出展し、新しい製品や関連サービスを紹介しました。「LGサステナブル・ビレッジ」と銘打った大きなホールには、「Sustainable Life, Joy for All」(持続可能な生活で、すべての人に喜びを)というキャッチフレーズがいたるところに掲げられています。

○革新性とサステナビリティ、両方に注力したLGの展示

筆者がこれまでに取材してきた限り、IFAやCESに出展するLGのブースはエンターテインメント要素を強く打ち出すスタイルが中心になってきた印象があります。エントランスに複数の大型OELDを組み合わせたビデオウォールを展開したり、照明を暗くしたデモルームで最新のテレビやサウンドバーをデモしたり、調理家電ならクッキングスタジオ・コーナーで地元シェフの料理を振る舞まったり――。

例年のIFAより、さらに明るく開放的な印象になったLGエレクトロニクスのブース

2023年のLGブースは、同社のESG戦略(Environment/環境、Social/社会、Governance/ガバナンス・企業統治)のおもな要素を展示什器に組み込み、リサイクル生地やメッシュネットなど、環境に配慮した素材を各所に使っていました。

大規模なイベント出展が環境に与えるインパクトも配慮しながら、LGが目指すイノベーションを来場者に伝えるためのこだわりと工夫を、随所に見せています。例えば「Net-Zero ビジョン・ハウス」と名付けた展示スペースでは、LG独自のエネルギー管理ソリューションをはじめ、洗濯・乾燥機、冷蔵庫、食洗機といったヨーロッパ市場向けに開発された白物家電の「高効率設計」を紹介しています。

製品開発を通じて、LGの環境への取り組みを紹介する「Net-Zero ビジョン・ハウス」

「アップサイクリング・ワークショップ・ゾーン」では、LG最新の空気清浄機やスタイラーシリーズのシューズ専用モデルなど、製品を構成するパーツの大部分に再生プラスチックを使った家電製品を展示。

来場者がワークショップに参加して、LGのリサイクルに冠する取り組みの体験や、廃プラスチックを素材にした知恵の輪チャレンジゲームに参加できるイベントが盛り上がっていました。これは同社のリサイクリングセンターにて、廃プラスチックから採取した樹脂パレットを使ったものです。

LGのアップサイクリングの取り組みをゲーム感覚で学ぶワークショップが人気でした

○スマート家電の進化は「カスタマイズ性能の重視」

LG独自のスマート機能「LG ThinQ(シンキュー)」を搭載した製品は、生活家電からテレビまで充実した展示でした。

LGのフラグシップライン「LG SIGNATURE」シリーズは、第2世代へと進化。欧州では多くの家庭が温めた湯で衣類を洗濯することから(水ではなく)、洗濯乾燥機には省エネ設計のヒートポンプを搭載しています。

また、冷蔵庫のトップエンドモデルは、シースルーとスモーク表示が切り替えられるドアパネルを採用。画面をノックするとシースルー表示に切り替わり、ドアを開けずに中の様子を見られるInstaView機能を備えています。

InstaView機能を搭載するワインセラー

冷蔵庫はまた、LEDによって色が変わる機能をドアパネルに搭載しました。MoodUP(ムードアップ)と名付けたデザインコンセプトによるカスタマイズを楽しめます。

今年のLGが特別に力を入れていたのは、省電力性能による家庭の経済効率と、「サステナブルな家電を長く、楽しみながら使うこと」の提案です。

ThinQアプリからドアパネルの色を自由に選べるInstaView搭載のスマート冷蔵庫

冷蔵庫の先入観を覆す明るく鮮やかな色が選べます

ほかにも、年齢や性別、障がいの有無に関わらず、LGの家電製品を快適に使えるように設計されたアクセシビリティを向上する「Universal UP Kit」も紹介していました。冷蔵庫、洗濯乾燥機、コードレス掃除機などにアタッチメントを取り付けると、操作性がより快適になるというアクセサリーです。製品によっては、標準の付属品となっています。

家電製品のアクセシビリティを高める「Universal UP Kit」

省エネ設計のヒートポンプを搭載する「LG SIGNATURE」シリーズの洗濯乾燥機

サステナブルな素材を使って設計されたシューズ専用の「LG Styler」

○97インチの4K OLEDは「フルワイヤレステレビ」

テレビは韓国のほか欧州でも展開する新製品として、LG SIGNATUREの「OLED M」シリーズを展示しています。このシリーズには最大97インチのほか、83インチと77インチのラインナップがあります。

97インチのOLED Mシリーズを展示

大きな特徴は、チューナーやHDMI入力などを備える「Zero Connect Box」とディスプレイ部分を別々にして、デジタル無線伝送でディスプレイ側に映像を飛ばす「フルワイヤレステレビ」(それぞれの電源ケーブルを除く)をコンセプトにしたことです。

ワイヤレス伝送ができて、なおかつ4K/120Hzの映像表示に対応する有機ELテレビは「世界初」(LG調べ)としています。ボックスとディスプレイの通信距離は、約10メートルまでとなっていました。

ソース機器はボックス側に接続して、デジタルワイヤレス接続によってディスプレイに映像を表示します

本機もThinQ AI対応です。ほかのLG製スマート家電の運転状況をテレビ画面に映したり、GoogleアシスタントとAlexa、そしてThinQの音声コントロールでLGのサウンドバーをテレビから操作したりする機能を搭載しています。

奥に写っている製品はスーツケースの中に格納できる27インチのモニター。LG StanbyMEシリーズの「27LX5」です

白物を中心とする生活家電には、販売地域の暮らしと密着する機能も多くあるものです。よって例えば、欧州モデルの特徴的な機能を持つLGの製品が、そのまま日本にやってくることは少ないかもしれません。ただ、これからは家電製品の良し悪しを比較する上では、「サステナビリティ」に関わる機能やコンセプトの有無が大きな判断材料のひとつになるだろうと強く感じました。今後、家電製品をレビューする機会があったら、筆者もこの点についてもっと意識を高める必要がありそうです。

著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら