8月24日、中国外務省の汪文斌報道官は処理水の海洋放出に「中国は断固として反対し、強く非難する」と述べた(写真・EPA=時事)

 東京電力福島第1原子力発電所の処理水海洋放出への対抗措置として、中国政府は8月24日、科学的根拠を示さないまま、日本産水産物の全面輸入停止措置を決めた。

 同日夜、岸田文雄首相は、「外交ルートで、中国側に対して即時撤廃を求める申し入れをおこなった」と明らかにした。

 中国への水産物の輸出は2022年、国・地域別1位の871億円で、全体の約22%を占める。措置が続けば、国内水産業への打撃は避けられない。

 8月25日、松野博一官房長官は、記者会見で、風評被害などに備えて準備した300億円の基金も活用して、中国以外の販路開拓を支援する考えを示した。

 だが、日本の放出計画は国際原子力機関(IAEA)も「国際的な安全基準に合致する」と評価しているもの。そしてそもそも、中国の原発施設は、福島第1原発の最大6.5倍ものトリチウムを放出している。

 国民民主党の玉木雄一郎代表は8月26日、自身のX(旧Twitter)にこう書きこんだ。

《英仏とも、処理水放出計画が安全でかつ国際原子力安全基準と合致していることを示す国際原子力機関(IAEA)の報告書を歓迎する旨発表している。中国の全面禁輸の対応はこうした国際社会の主張とは全く異なる科学的根拠を欠くものであり、政府はWTOに提訴するなど毅然とした対応を取るべきだ》

 福島市の木幡浩市長は同日、市役所などに中国語での迷惑電話が相次いでいると自身のFacebookに書き込んだ。

《市役所では、確認できているものだけで、2日間で約200件。小中学校にもかなり来ているようです。飲食店やホテル・旅館も多く、多いところは1事業所だけで100件以上も。多くは+86(中国)発信で、中国語。我が身の所業をわきまえぬ困った国です。福島は、原発事故の被害に加え、事後処理の負担も負わされている立場。政府には、この状況を早々に伝え、対応を求めます。》

 理不尽な日本産水産物の全面輸入停止と、相次ぐ中国語での迷惑電話。一方で、即時撤廃を申し入れる岸田政権の生ぬるい対応に、SNSでは、WTOへの提訴を求める怒りの声が広がっている。

《放出容認が世界の趨勢であり、科学的にも何ら問題がないのであれば、禁輸措置を取った中国をWTOに提訴すべき。中国が自主的に折れることは当面考えられないのに「抗議」と言っているだけなら、ガス抜きのための国内向けポーズと言わざるを得ない》

中国が日本の海産物を全面禁輸したみたいだけど、こんなの科学的根拠ないし、日本がWTOに提訴したら中国大恥かくんじゃないの?》

中国がここまで、とは思わなかった。もう呆れるしかない。粛々とWTOに提訴した上で、中国リスクについて考え直すしか無い。孤立してるのは中国なので、ここで引いてはいけない》

 岸田首相は中国に対して、WTOへの提訴という断固とした措置を取ることができるだろうか。