世界で「最も売れたゲーム」はご存じでしょうか? じつは『マインクラフト』というゲームで、あのテトリスの売り上げを超えて「世界で最も売れているビデオゲーム」と言われています。プログラミング的思考が身についたり、問題解決型学習に適しているとあって、文部科学省も教育版マインクラフトの活用を推進しています。なぜそこまで人気なのか、その秘けつを探りました。

マインクラフトがこれだけ人気の理由

マインクラフトは「マイクラ」と呼ばれることもあり、実際にプレイして遊ぶのはもちろん、ユーチューバーのマイクラ実況も子どもたちに大人気となっています。

書店ではこの夏休みでマインクラフト本売り場も活況で、『まいぜんシスターズとマイクラを始めよう!入門編』(扶桑社)のような人気ユーチューバーによる初心者向けの解説本も多数発売されています。そんなマインクラフトについて、スタディサプリ教育AI研究所の所長で「Minecraftカップ」審査員もしている小宮山利恵子さんにお話を伺いました。

●子どもたちの無限の才能を引き出す「マインクラフト」

――子どもたちの興味や関心を惹きつけてやまない、マインクラフト。どんなゲームなのでしょうか?

小宮山:マインクラフトとは、ブロックを使ってものづくりができるゲームです。ほかのゲームと大きく違うところは、決められたルールがなく自分の発想を元に自由自在にブロックを組み上げられること。例えば音楽が奏でられるブロックを使えばメロディをつくることができますし、ストーリー制作や物語を構築していくことも可能です。1人でやるのはもちろん、オンラインで仲間とつながり、共同制作もできる…と、アイデア次第で無限に遊び方をアレンジできるのが特徴です。

――教育の面から見ると、どんな効果が期待できるのでしょうか?

小宮山:ブロックを組み立てる作業の中で、論理的な思考が鍛えられます。今、小中学生は、PCやタブレットを一人に一台、学校から支給されている時代。マインクラフトで培った論理的な思考は、インターネットのプログラミング構築の授業の基礎になると言われています。また、これは京都の学校の例なのですが、マインクラフトで自分たちの街をつくり、つくった街を英語で海外の人に紹介するという語学学習の一環として取り入れているところもあります。学校教育はまだまだルールや前例が厳しい部分が多いですが、マインクラフトを通じて、通常のカリキュラムでは養えない好奇心や探究心を育てていくことができると期待されています。

――小宮山さんは、マインクラフトを使った作品の大会「Minecraftカップ」の審査員も務められています。大会に応募してくる子どもたちを見て、「すごいな」と思うところはどんな点ですか?

小宮山:作品のレベルに年齢は関係ないんですよね。小学校低学年の子が、驚くようなものを出品してくることもたくさんあります。また地区大会予選通過者はプレゼンが必要になりますので、自分の作品をイメージさせるオリジナルTシャツを着て、ブランディングも意識しながら制作への熱意をアピールしてくる子もいます。チームで参加する場合は共同作業になりますので、プレゼン力、コミュニケーション能力も鍛えられるゲームだなと実感しています。もちろん、作品を仕上げて出品するまでのスケジュール管理能力や、自律心も養われると思います。

●ゲームをする上で、子どもと一緒に決めておきたい「ルール」

――ゲームを与える際に、親が注意すべき点はありますか?

小宮山:いくら教育によいという効果が期待されていても、マインクラフトはゲームの一種です。集中は子どものクリエイティビティを刺激してくれますが、依存症や体力低下についての理解も必要になると考えています。

マインクラフトに限らずゲームをやらせる際は、事前に子どもと話し合い、ルールと罰則を決めておきましょう。ルールは「1日30分」など、各家庭に合わせたプレイ時間を定めるといいでしょう。私の場合、子どもが小学生だった頃には、必ず親の私がいるリビングでやることを「ルール」とし、成績が落ちた場合は、成績が落ちた原因を分析して、ゲームのやりすぎが原因の場合は遊ぶ時間を見直すというのを「罰則」として設けていました。

ここで大事なのは、罰則を決めたら必ず実行することなんです。「ルール」を厳守するご家庭は多いのですが、教育の視点からお伝えすると、「罰則」も必ず実行しないとけじめがつきません。子どもと一緒にルールを決めることで、お子さんの可能性の芽を広げるようにしましょう。

またルールは3か月、半年など短いスパンで見直しをしてください。子どもたちの成長は早くて、たった1年の間でも行動がかなり変わってきます。そののときどきに合わせたルールを作っていけば、親子ともにゲームにまつわる悩みは減るはずです。

――またゲーム全般と、子どもたちとの関わりについて理解をするのが大事、とも。

小宮山:私たち親世代が子どもだった頃と、今の子どもたちとでは、使う道具が違うため価値観が変わっています。私たちが子どもの頃は、ゲームは自宅でやるか、友達の家に集まってやるものでしたが、今やオンラインで、寝る前まで誰かとつながっている状態です。ゲームを取り上げてしまうのは、友達づき合いを絶つのと同じ。そのあたりの道具の使い方の違いを理解しつつ、ゲーム依存に陥らない工夫をしていく必要がありますね。

●子どもがこれからの時代を生きる上で必要な能力が養われることも

――マインクラフトに関しては、夏休みの今も親子で一緒に楽しく遊べるチャンスだと思いますが、いかがでしょうか。

小宮山:たしかに夏休み中もさまざまなイベントが行われています。また地域ごとに体験教室が行われているので、家族で参加をして、親もその楽しさを知ってみるといいかもしれませんね。

――子どものクリエイティブやコミュニケーション能力を高めるマインクラフト。さらに、これからの子どもたちのどんな力を養ってくれるものだと感じていますか?

小宮山:ルールに捉われず、自由な発想力を持てるのは大きいと思っています。というのも、これまでの学校教育は、与えられた課題をいかに早くかつ正確にこなすかに重点がおかれてきました。失敗をしないように習ってきたんですね。でも不確実性の高い時代に突入し、これから必要になってくるのは、時間がかかっても、失敗してもいいので自分にとってベストな回答を探り出し、組み立てていく力。マインクラフトを通じて、この能力は養えると思います。

また終身雇用が崩壊し、今の子どもたちが社会に出るころは、「ジョブ型」とか「プロジェクト型」といった、自分の得意な部分や強みを活かした働き方が主流になってきます。そんな中で、マインクラフトで得た「共同でものづくりをする経験」や、作品にフィードバックをもらって改善していく「コミュニケーション能力」は、強い武器となりえると考えています。

子どもは機械を触るだけでテンションが上がるもの。「うちの子には早いかも?」と思わずに、この夏休み、どんどんマインクラフトに触れる機会をつくってほしいですね。

 

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