馬場雄大(SG)インタビュー

 2019年夏に開催されたFIBAワールドカップ──。大きな期待を背に受け、開催地・中国へと乗り込んだ日本代表チームは、世界の強豪を相手に5戦全敗という失意の結果に終わった。

 そうした厳しい状況のなかでも、アメリカ戦で18得点を挙げるなど自らの存在を知らしめようと奮闘していたのが、当時23歳の馬場雄大(SG)だった。「試合は戦争のようなもの」と気持ち奮い立たせていた姿が印象的だった。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 2021年の東京オリンピックでも、日本代表チームは3戦全敗。馬場はこうした世界の舞台での悔しさと、NBA入りを果たしたいという強い気持ちを胸に、NBAの下部組織Gリーグやオーストラリアリーグなど海外で経験を積むことにより、こつこつと技量を上げてきた。

 現在27歳。日本代表のなかでも年長になってきたこともあり、より中心的な役割が求められる。いつも話しぶりは落ち着いているが、秘める闘志は大きい。そんな馬場に今回のワールドカップに賭ける思いを聞いた。

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馬場雄大は4年前の悔しさを忘れていない

── 馬場選手は前回のワールドカップも経験している数少ない代表メンバーです。

「最初のワールドカップでは、すごく悔しい思いをしました。その時の現在地を知らされた感じがします。あそこから、世界の選手たちの基準で練習してきたつもりです。だから、今大会はどこまで成長しているのか、どこまで自分のバスケが通用するのか、本当に楽しみですね」

── 今大会の目標は?

「前回のワールドカップと東京オリンピックで、世界の国を相手に1勝もできてない。まずは1勝して勢いに乗り、アジア1位になってパリオリンピックへの出場を決めたいなと思います」

── ワールドカップという大会は、オリンピックとはまた違う意味合いがありますか?

「そうですね。どんな競技にも『ワールドカップ』という大会はありますよね。オリンピックは全競技が集まる『スポーツの祭典』という感じですが、バスケットボールのワールドカップは『この競技の世界一』を決める大会。僕個人としてはオリンピックと同じか、それ以上の力のこもった大会じゃないかなと思っています」

── トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)のバスケットボールは特殊だと言われます。馬場選手から見て、彼のスタイルをどのように表現しますか?

「選手の得意なところを活かして戦うバスケ、だと思います。選手に100%の自信がないことは要求してきませんし、パートごとにプロフェッショナル、スペシャリストがいて、その集結が『トム・バスケ』かなと思います」

── その『トム・バスケ』のなかで、馬場選手の役割は何でしょうか?

「ドライブに関しては、このチームで1番だと感じています。そこから派生してほかのプレーにもアジャストができる力を持っていると思うので、ドライブメインから3Pシュートやさまざまな状況判断につながってくるかなと思っています」

── チームで一番というドライブの手応えは、世界と対戦するうえでいかがですか?

「2019年のワールドカップでは全然、通用しませんでした。そこから4年が経って、状況判断などいろいろな経験を積んできたので、どこまで通用するかすごく楽しみですね」

── 4年前に「全然通用しなかった」理由は、具体的に何だと考えていますか?

「やっぱりフィジカルのところですね。ドライブへ行く時に体をぶつけられて、中に入っていけなかった。

 そもそも体格差が子どもと大人くらい違っていたのですが、見ている以上のプレッシャーをかけられました。当時はドライブからのバリエーションもなかったので、本当にただ突っ込んでいくだけ。そこを止められたら次がない、という感じでした」

── ドライブ以外にも、馬場選手はホーバスHCから「3Pシューターになってくれ」とも言われ、輪ゴムを使った正しい手の使い方なども教わったそうですね。3Pシュートの手応えはいかがでしょうか?

「自信はすごくあります。もちろん、入る時もあれば入らない時もあるのですが、そこに特化した練習もしてきました。だから、3Pシュートに関してはブレないというか、『シュートが外れたから打たなくなる』という今までのメンタリティではなく、根本に自信があるところです」

── 前回のワールドカップの苦い経験を経て、馬場選手はGリーグやオーストラリアリーグで挑戦を続けてきました。

「2019年のワールドカップでの悔しさがなければ、今はないでしょうし、海外でのプレーも続けていなかったと思っています。やっぱり、負けたままというのは嫌。でも、自分が認めないかぎりは『負けではない』とも言えるので、次につなげるという意味でここまでやってきました」

── 2019年のワールドカップのアメリカ戦で日本は大敗(45-98)を喫した一方、馬場選手の孤軍奮闘は強く印象に残っています。なので、先ほどの「全然通用しなかった」という言葉はやや意外でした。

「僕のなかでは『目立つだけでは意味がない』と思っています。NBA選手や各国のトップ選手を相手に、ちゃんと結果を残す選手になる必要がある。

 その意味で2019年は、できたり、できなかったりという波がありました。また、ほかの国の選手たちに比べて劣っている部分があるとも感じました」

── 4年前、馬場選手はまだチーム全体のなかでも若いほうでしたが、今は年齢も立場も上になってきました。八村塁選手(SF/ロサンゼルス・レイカーズ)の不在もあり、今大会はより中心的な役割を果たさないといけない気持ちですか?

「おっしゃるとおり。塁が抜けたことによって、より結果を求められる立場にいると思っています。ただ、そういったことを試合で考えるのではなく、求められることをその場の状況や瞬間で判断していけば、おのずといい形で戦えるとも感じています」

── ワールドカップの予選ラウンドは「死の組」と呼ばれる厳しいグループです。そのなかで「この選手とのマッチアップや対戦が楽しみだ」という人はいますか?

「やはりドイツのデニス・シュルーダー(PG/トロント・ラプターズ)やフィンランドのラウリ・マルカネン(PF/ユタ・ジャズ)といったNBA選手との対戦が楽しみですね。彼らからの『生で感じる圧』がどんなものか、彼らを前にしてどれだけやれるのか......。

 もちろん、負けるつもりはないです。彼らのような選手たちと対峙して面を食らうことがないように、最初から気持ちのうえでも互角以上にやれるよう、準備していきたいです」

── 最後に、ワールドカップで日本代表が目指すところを教えてください。

「やはり、パリオリンピックの出場権を掴み取るため、アジアの1位になることです。そこはトムさんもずっと僕らに言い続けていること。それを達成することで日本のバスケも変わると思います。このチームの一員として、責任を感じています。

 アジアで1位になるためには、まずは初戦(ドイツ戦@8月25日)での勝利が大事だと思っています。大会は流れが重要ですから、初戦に勝てば、そのあとも続いてくる。初戦にすべてを賭けたいですね」

<了>


【profile】
馬場雄大(ばば・ゆうだい)
1995年11月7日生まれ、富山県富山市出身。富山第一高校から筑波大学へ進学し、在学中にアルバルク東京と契約。2019年夏にダラス・マーベリックスのサマーキャンプ挑戦を経て、Gリーグのテキサス・レジェンズやオーストラリアNBLのメルボルン・ユナイテッドでプレーする。日本代表デビューは2017年2月のイラン戦。ポジション=シューティングガード、スモールフォワード。身長195cm、体重90kg。