北海道新幹線札幌車両基地の建設地。在来線の苗穂―札幌間の線路(左)と建物(右)に挟まれた細長い形状だ(記者撮影)

2030年度末の完成を目指す北海道新幹線・新函館北斗―札幌間の建設事業で、新幹線施設の建設・保有を行う鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)は7月29日に札幌車両基地工事の起工式を実施した。車両基地事務所棟の建設予定地が会場となり、関係者ら約100人が出席。鍬入れなどの神事で工事の安全を願った。

長さ1.3kmの「細長い」車両基地

札幌車両基地には大きな特徴がある。整備新幹線の車両基地としては初めて高架上に整備されるという点だ。在来線の札幌―苗穂間の線路に沿った延長約1.3kmの細長い敷地に建設される。車両基地というと広大な敷地内の留置線にいくつもの列車が横一列にずらりと並ぶ光景が思い浮かぶが、札幌車両基地では列車は縦に置かれる。

現在の北海道新幹線の車両基地としては、新函館北斗駅の南側に「函館新幹線総合車両所」がある。「総合」の名のとおり、車両の保留、融雪作業に加えて、日常的に台車、ブレーキなどの動作確認を行う仕業検査から数年に1度、車両から部品を取り外して総合的に調べる全般検査まで、多様な業務を行う。さらに線路や電気設備の保守を行う保守基地もあり、全体で約35万平方メートルという広大な面積を持つ。とはいえ、札幌延伸時には、列車の留置、融雪作業、仕業検査を行う設備が札幌側でも必要となる。そのため、札幌側にも車両基地が設置されるわけだ。


北海道新幹線札幌車両基地の起工式で鍬入れを行う工事関係者ら=2023年7月29日(記者撮影)

車両基地は雪対策としてすべてを防雪上家で囲う。地上から防雪上家までの高さは最高で22mとなる。札幌駅側から近い順に、車両を留置する着発収容庫、仕業検査庫、保守基地が縦に並ぶ構造だ。着発収容庫には列車を収容する線路が2つあり、仕業検査庫では2編成の列車を検査することが可能だ。延床面積は約2.5万平方メートルで函館の車両基地と比べると小ぶりだ。

札幌―苗穂間の距離は約1.9kmで、現行の札幌駅の東側に建設中の新幹線札幌駅の駅舎と外観上は連続する一体の建物となるため、札幌―苗穂間のほぼすべての区間が高架上の建造物で結ばれることになる。完成すればさぞかし壮観だろう。


札幌車両基地の鳥瞰図。すべて防雪上家で覆われ、外観上は新幹線札幌駅の駅舎と一体の建物になる(画像:鉄道・運輸機構)

防雪上家の外壁の色や素材については未定で、「周囲の景観や環境に配慮し、地域の皆様の声を聞きながらデザインを検討する」と鉄道・運輸機構の担当者は説明する。高架橋・防雪上家の工事は2027年度末に完了し、その後は設備工事などを経て札幌延伸開業に合わせた2030年度末の完成を目指す。線路と市街地の建物に挟まれた細長い空間で建設するため、難工事が予想される。


札幌車両基地(左)のイメージパース(画像:鉄道・運輸機構)

なぜ細長い形になった?

では、なぜこのような細長い形状の車両基地になったのか。車両基地の苗穂側は苗穂駅と隣り合わせの位置まで達している。苗穂駅の北側にはJR北海道の苗穂工場が隣接し、車両の検査や修繕を行っている。苗穂工場の敷地面積は19.6万平方メートルとやはり広大だ。だったら無理に高架上に細長い車両基地を建設せずとも、苗穂工場の一部を新幹線の車両基地として活用してもよいのではないか。

この点について鉄道・運輸機構の担当者は「2012年に札幌延伸の工事計画が認可された時点で、車両基地はほぼこの位置で決まっていた」と話す。「ほぼ」というのは、認可後に新幹線ホームの位置が駅の東側に変更になったことに伴い、車両基地の位置も若干変更されたからだ。

苗穂工場の敷地を活用しなかった理由について担当者は、「新幹線の線路は在来線の南側に造られるので、そこから北側の苗穂工場に向かうには在来線をまたぐ形になり難しい」と、技術的な観点から説明したが、そもそも苗穂工場の敷地の活用方法についてJR北海道と考え方の相違があったようだ。

苗穂駅周辺は札幌駅から近いこともあって、再開発が活発化している。JR北海道は苗穂駅北口にあった社員研修センターをほかの場所に移転、跡地の一部にはJR北海道が不動産会社と共同で高層分譲マンションを2021年に建設した。1990年代には苗穂工場を移転し、その跡地を再開発する構想もあった。

JR北海道が2019年に策定した「長期経営ビジョン」は、不動産事業の拡大戦略の方策として「苗穂工場のリニューアル」を掲げている。広大な敷地だけに、工場を丸ごと移転しなくても、現在の在来線の実態に合わせて設備を集約すれば不動産開発などに活用できるスペースが生まれる。札幌側に新幹線の車両基地が必要だとしても、高架上に車両基地ができるなら、虎の子の苗穂工場を手放す必要はない。

延伸の可能性に影響は?

鉄道・運輸機構もJR北海道も車両基地を高架上に整備するほうが得策と判断しているのであれば、特段の問題はない。しかし、気になる点がある。札幌駅からそのまま車両基地につながるという構造では、将来の札幌からの延伸の可能性を閉ざすことになりはしないか。


札幌車両基地は札幌駅の先につながる構造だ(画像:鉄道・運輸機構)

ほかの新幹線の事例でいえば、東北新幹線の新青森側の車両基地「盛岡新幹線車両センター青森派出所」は新青森開業に合わせて設置されたが、列車は本線から分岐して車両基地に回送されるため、車両基地の存在が新函館北斗への延伸に支障になることはない。

札幌からの延伸構想がまったくないわけではない。1973年に制定された新幹線の基本計画では、北海道新幹線の始点は青森市、終点は旭川市と定められている。法律で定められた整備計画として建設が進む青森―札幌間と異なり、札幌―旭川間は基本計画のまま手付かずの状態だ。もし、将来札幌―旭川間が整備計画に格上げされることになったら、札幌から旭川に向けて新幹線の線路を延ばす際にこの場所に車両基地があることが支障になりかねない。

この点について、鉄道・運輸機構の担当者は、「新幹線の基本計画で旭川が終点となっているのは承知しているが、法律上の手続きが進んでいるわけではなく、どう延伸するかは決まっていない段階だ」と話し、旭川延伸計画とは距離を置く。

新幹線の基本計画を整備計画に格上げしようという動きは近年、各地で活発化している。現行の整備新幹線計画はひと区切りがつこうとしている。新幹線のない四国は政財界が一丸となって2014年頃から新幹線実現への取り組みに動き出した。東北ではフル規格による奥羽・羽越新幹線の早期実現を目指し、山形県や秋田県が2016年から要望活動を活発化させている。旭川もこうした動きに遅れまいと、2021年3月に北海道新幹線旭川延伸促進期成会を発足させた。

旭川側はどう考える?

同期成会は、札幌―旭川間の整備計画路線への格上げに向けた調査の実施や、整備新幹線予算の拡充と地方公共団体の負担を軽減するための財政措置の拡充などを国に求めている。


新幹線札幌駅の建設工事現場(記者撮影)

そのような状況で、札幌車両基地の位置が延伸の支障になりかねないことをどう考えるか。期成会事務局の担当者に尋ねると、「札幌車両基地の位置の変更は要望していない」とのことだった。まずは、整備計画への格上げに向けた調査を実施するための予算措置を講じてほしいというのが期成会の立場だ。

旭川延伸でどの程度の輸送人員が見込まれ、どれだけの投資効果が見込まれるかは未知数だ。そもそも国費を投入して調査を行うためには旭川延伸を期待する声が高まっていることが不可欠である。今後、旭川の地域住民の間で新幹線についての理解が進んできたとき、札幌車両基地の存在は彼らにどのように映るだろうか。


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(大坂 直樹 : 東洋経済 記者)