雨の中、セレナ e-POWER ルキシオンに乗って111万円高の価値を検証した(筆者撮影)

2022年冬にフルモデルチェンジした日産「セレナ」が好調だ。発売から約半年で5万台以上を受注している。

パワートレインは電動化されていないガソリンエンジン車(ガソリン車)のほか、モーターだけで駆動力を生み出す「e-POWER」と呼ぶハイブリッド車があり、後者の比率が約6割。

人気グレードは上位タイプの「ハイウェイスターV」で、ガソリン車もハイブリッド車でも同グレードの比率は8割に迫る勢いだという。


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さて、そんな新型セレナに興味深いグレードが設定されている。「e-POWER LUXION(ルキシオン)」と呼ぶ最上級仕様で、その価格479万8200円とミドルサイズのミニバンとは思えない水準なのだから驚かないわけにはいかない。

1つ下の「e-POWER ハイウェイスターV」に対して、なんと111万 2100円も高いのだ。

トヨタ「ノア」「ヴォクシー」のFFモデルの最高価格は、それぞれ367万円/366万円。ホンダ「ステップワゴン」の最上級グレードでも391万2700円だから、ルキシオンがとびぬけて高価なのがわかる。


ルキシオンの外観。ハイウェイスターVとの差異はあまりない(写真:日産自動車)

あと数万円足せば、兄貴分である「エルグランド」の6気筒エンジン搭載モデルである「350ハイウェイスター」(482万7900円)にも手が届くのだから、強気の価格設定だと受け止める人も多いことだろう。

そこで気になるのは、そんなルキシオン が“どんな仕様”で“誰のためのクルマか”ということだ。

わかりやすい「豪華さ」はない

ミニバンの上級グレードというと、一般的に“快適装備満載の豪華仕様”がイメージされるだろう。

たとえば、ヒーター/通風機能(ベンチレーション)やマッサージ機能がつくキャプテンシートを備える、トヨタ「アルファード」の「エグゼクティブラウンジ」のような仕様だ。はたして、セレナのルキシオンもそうなのだろうか。

1つ下のグレードとなるハイウェイスターVに対して仕様が異なるのは、運転席と助手席の間にあるセンターコンソールの大型化と、2列目シートの完全2名掛けへの変更(他グレードは2名掛けから3名掛けに変形するスマートマルチセンターシート)程度。

電動調整機能が追加されるといった誰でも感じられるような上級化はなく、むしろライバルの上級仕様には備わる2列目シートヒーターなどもオプション設定なのだから潔い。専用のシート表皮や専用の内装トリムなどで上質化しているものの、わかりやすく上級感を高めたグレードでないことは間違いない。


合皮のシートやブラック木目柄パネル、アンビエントライトなどで上質感を高めるルキシオンのインテリア(写真:日産自動車)

では、ルキシオンの価格が高い要因はどこにあるのか。それは、ほかのグレードには装着できない「プロパイロット2.0」を標準装備として組み込んでいることに尽きる。

「プロパイロット」といえば日産の幅広いクルマに搭載され、高速道路で車線の中央を走るようにハンドル操作をアシストする機構だが、「2.0」となると意味合いが異なる。

一般的なプロパイロットは作動中、ハンドルに手を添えることが求められるのだが、2.0ではハンドルから手を離しての運転、いわゆる“ハンズオフ”が可能となるのだ。それも低速域に限らず、高速道路にも対応する。


ハンズオフでの走行イメージ(写真:日産自動車)

上限速度は、実際に車載のカメラで制限速度標識を読み取り、その制限速度(正確にはドライバーの判断において制限速度+10km/h)となる。

手放し運転のメリットが大きいことは、実際にこの機能を使って運転してみれば明らかだ。

設定速度内で前を走るクルマに合わせて速度を自動調整するアダプティブクルーズコントロール機能により、速度管理(アクセル操作)から解放されるうえに、手を離して運転することでリラックスできるのだからその先進性を実感できる。


プロパイロットの作動状況も表示するヘッドアップディスプレイ(写真:日産自動車)

この機能は感覚的には自動運転だが、分類上は自動運転ではない。だからドライバーは周囲やシステムの作動を監視し、状況に応じて自らの運転操作を行う必要がある。とはいえ、これでもドライバーの疲労低減効果は明らかで、長距離移動時の疲労の少なさに驚かされる。

ミニバン初の「高速道路で使える」ハンズオフ

プロパイロット2.0を実際に高速道路移動で使ってみて感じたのは、ライントレース性(車線追従性)がかなり正確で、ハンズオフに関する不安をまったく感じないこと。「実用的な機能なのか」と問われれば、迷わず「使える機能だ」と断言できる。

ハンズオフ機能に関しては、ノア/ヴォクシー、そして新型アルファード/ヴェルファイアにも用意されていることをご存じの方もいるだろう。しかし、それらに搭載されているのは、上限速度が40km/hとなる渋滞用の簡易版で、制限速度まで機能が働くセレナとは使える速度領域が大きく異なる。

トヨタには「MIRAI」やレクサス「LS」など、ホンダでは「レジェンド」(現在は販売終了)に制限速度領域まで使えるハンズオフ機能を持つクルマがすでに販売されており、日産でも「スカイライン ハイブリッド」(販売終了)や「アリア」などに同機能が搭載されていたため、機能として目新しいものではないが、ミニバンでの採用はセレナ ルキシオンが初だ。これは大きなトピックである。

ルキシオンが、ほかのグレードと異なり、センターコンソールが大型化されていることや7人乗りとなっていることはすでに説明したが、それもプロパイロット2.0搭載に関係してのこと。


運転席/助手席間に大型のセンターコンソールが設置されていることがわかる(写真:日産自動車)

プロパイロット2.0は、安全のために冗長性を高めた設計となっていて、たとえば電源系統には予備の回路を搭載している。大型センターコンソールはバックアップバッテリーを搭載するためであり、スマートマルチセンターシートがつかないのもそれが理由だ。

また、正確なステアリング操作のために「デュアルピニオン式」と呼ばれる、このクラスではめずしい高価なパワーステアリング機構をセレナ全車に採用。ルキシオンでは、ステアリング操作の正確性を高めるために、タイヤも走行性重視のものを履く(ただし、乗り心地は若干犠牲になっている)。

実質的な“プロパイロット2.0代”は50万円程度

このルキシオンが向いているのは、ズバリ“高速道路移動が多い人”である。高速道路でドライバーを助け、疲労を減らすことが最大の特徴だからだ。上級グレードだからと後席の豪華さを期待すると、本質を見誤ることになる。一般的なミニバンの最上級グレードとは、大きく方向性が違う。

最後に価格の話をすると、冒頭で説明したように他グレードに対して111万円強高いのは事実である。


NissanConnectナビゲーションシステム(写真:日産自動車)

しかし、もう一度よく装備表を見てみると、他グレードでオプション扱いとなっているカーナビが標準装備となっていることがわかる。

セレナでは、カーナビにアダプティブヘッドライトやカメラ式のデジタルルームミラー、ドライブレーコーダーなどを組み合わせたセットオプションが、およそ50万円で設定されており、セレナの上級グレードを買う人の多くはこれを装着する。それを考慮すれば、価格差は61万円程度まで狭まる。


高速道路でのプロジェクト2.0の有用性を確認した試乗であった(筆者撮影)

駐車枠への前後移動が車外からリモコン操作でできる「プロパイロットリモートパーキング」もルキシオンには標準装備されていることを考えれば、実質的な“プロパイロット2.0代”は50万円程度と言っていいだろう。

さらに残価設定ローンを活用して買えば、支払総額の差も縮まるの。絶対的に高価なのはたしかだが、高速道路利用の多いユーザーなら検討する価値は十分にあるだろう。

(工藤 貴宏 : 自動車ライター)