「子どもがいない」ことにつらさを抱える人たちがいます。人には言えない、彼らの抱える思いについて聞きました

どんな形の家族でも、本人たちがいいと思っているならいいじゃない。どんな形で暮らしていても、肩身が狭くない社会がいいよねーー。

そんな思いから、筆者は個人的にさまざまな家族の形について認知を広げる「定形外かぞく」という活動を続けてきました。自身も、ひとり親です。

活動や取材のなかで気になっていたのが、子どもがいない人たちのことでした。世間では子どものいる家族がクローズアップされることが多いですが、子どもがいない人、特に女の人たちは、一見わかりづらいけれども、周囲からとても強い「圧」を受けているように感じられたのです。

今回お話を聞かせてもらうのは、子どものいない女性を応援する「マダネ プロジェクト」を主宰する、くどうみやこさんです。

著書に『誰も教えてくれなかった 子どものいない人生の歩き方』『誰も教えてくれなかった 子どものいない女性の生き方』(主婦の友社)や、『まんが 子どものいない私たちの生き方』(漫画:森下えみこ 小学館)などがあります。

くどうさんはなぜ「マダネ プロジェクト」を始めたのでしょうか。まずはそこから教えてもらいました。

“卵子の老化”がNHKで放送、「急にハシゴを外された」

――今40代後半から50代くらいで子どもがいない人は、意外と多いんでしょうか。私の周囲にもけっこういます。

そうですね。私もそうでしたが、この辺りの年代は小さい頃から「結婚して子どもをもつのがふつう」という価値観で育った人が多いです。だから、そうではない人生になるとギャップを感じたりする。昔からの価値観に縛られたまま、「こんなはずじゃなかったのに……」と悩んでしまう人も多いと思います。


くどうみやこ/大人ライフプロデューサー、トレンドウォッチャー。大人世代のライフスタイルからトレンドまで、時流をとらえた独自の視点で情報を発信。メディア出演から番組の企画、執筆、講演など、活動の幅は多岐にわたる

――「出産のタイムリミット」なんて話が出てきたのは、10年前くらいですよね。「そんなことを今ごろ言われても」と、ショックを受けた世代でしょうか。

そうなんです。NHKで『産みたいのに産めない 〜卵子老化の衝撃〜』が放送されたのが2012年でした。「もっと早く知りたかった」という声は、私もたくさん耳にしました。当時、「急にハシゴを外された」ように感じた人は、妊孕性(妊娠するための力)に関する情報が乏しかった世代といえます。

――今の40代も「もっと若いときから知っていれば」と感じている人は多そうです。

今の20〜30代の人たちは、ちゃんと知識があるんです。「産むなら早いほうがいい」とか「高齢になるほど妊娠出産はリスクがある」など、知っている。

妊活という言葉も一般的になり、世代間の知識ギャップみたいなものはありますね。


(画像:(画像:『まんが 子どものいない私たちの生き方: おひとりさまでも、結婚してても。』より)

――くどうさんご自身は、どんな経験をされたんでしょうか。

私も若い頃は、「子どもは自然にできて当たり前だ」と思っていたんです。「できない」ということは、本当にあまり考えていませんでした。

20代のうちに結婚したいなと思っているうちに、30代になっていて。転職したら仕事が楽しくなって、結婚はいつでもいいかなと。ただ、うちの親と、当時から付き合っていた夫の親が「早く安心させてくれ」とすごくせっついてきたので、「もう、わかったよ」みたいな感じで結婚することに。

でも、子どもはもうちょっと仕事を頑張ってからでいいかなと。そのうち夫の仕事の都合で引っ越して、会社に通えなくなってフリーになったら、それもそれで忙しくなって。でも、フリーだと産休も育休もないわけです。やっと仕事をもらえるようになったのに、仕事を休めば収入もクライアントもゼロに戻ってしまう。その不安もあって、積極的に子どもをもとうと思えないでいるうちに、30代後半になっていました。

もうこの頃には「このまま子どもがいない人生も、それはそれでありかな」とは思っていたんですけれど。でも、40を超えた辺りで子宮の病気が見つかり、お医者さんに「もう産むことは難しい」と言われて、初めてショックを受けました。「産まない」と「産めない」の違いに、落ち込みましたね。

――「しない」のと「できない」のは、全然違うんですね。

ただ、産めないという事実を受け入れるのは結構早かったと思うんです。性格的なものと、40を過ぎていたこともあって「まあ、しょうがない。どのみち子どもを産めた可能性は少なかったよね」と。「だったらもう、その人生をいかに楽しく生きるかにシフトしたほうがいい」と割り切っていったんですね。

ただ、そうはいっても「子どもがいない人生」というものがよくわからない。親戚など、私の周りにいる年上の女の人たちはみんな、結婚して子どもがいるライフコースを歩んでいる人ばかりで、ロールモデルがいなかった。仕事先で見かけても、「子どもがいない人生ってどうですか」なんてセンシティブなこと、なかなか聞けないですし。それで図書館に行って、そういった研究データや情報がないか調べたんですが、それも見つからない。

それで、2013年に自分で会を主宰したんです。ネットを通じて「子どもがいない女性同士で集まって、お話ししませんか?」と呼びかけて。そこで初めて「子どもがいない人たちの本音」をリアルに聞きました。


(画像:『まんが 子どものいない私たちの生き方: おひとりさまでも、結婚してても。』より)

みんな、底のようなところにいた

――同じような状況の仲間たちと出会えたんですね。

ただ、予想とはちょっと違ったんです。私はこのとき、気持ち的にはだいぶ前向きになっていて、「私たちみんな仲間だし、子どもがいなくたって楽しいわよね」みたいな肯定的なマインドで臨んだんですけれど、来ているほかの人たちは、もっと底のほうに沈んでいるような状態だった。

不妊治療を何年も続けたけれどできなかった、という人も多く、本当に「表に出られない」とか「友だちとも会う気がしない」とか、「つらい気持ちを吐き出す場がない」「誰にも本音を言えない」と、号泣したりしている。そういう人たちのリアルな気持ちを聞いたのが初めてで、「そんなにつらいのか」と、ものすごく衝撃を受けたんです。

つらいというのはある程度想像していたものの、「そんなにも立ち直れないのか」と。そのとき、子どもがいない人たちの社会課題のようなものに気付いたんですね。

――これはどうも、個々人でなんとかできる問題ではないぞと。

そうです。子育て中の人たちが悩みを共有したり、知恵を授け合ったりする場は、まだあるじゃないですか。でも子どもがいない人たちって、一人ずつ孤立していて、共有の場がまったくない。私が主宰した会では、みんな初めて本音を言ったわけなんですよね。

夫にも言えない、という人も結構いるんです。以前アンケートをとったことがあって、「子どもがいないことの本音を誰かに話したことがあるか」と聞いたら「誰にも話したことがない」という人が一番多かったんです。

しかも、そうやって本当は苦しい思いを抱えていても、ぱっと見ではわからないんですよね。だから気軽に「子どもはまだなの」とか「もっと頑張んなさいよ」みたいなことを言われてしまう。それは世の中が、子どもがいない人たちの思いを理解していないから。

そのことに気付いて、「だったらこれを発信していかなきゃ」って思ったんです。使命感ですね。それがきっかけで、本を書くことや、マダネ プロジェクトの立ち上げにつながっていきました。


(画像:『まんが 子どものいない私たちの生き方: おひとりさまでも、結婚してても。』より)

本音を言えない社会って、生きづらいと思う

――マダネ プロジェクトとして、子どもがいない人たちの会を続けるなかで、どんなことが見えてきましたか。

子どもがいない経緯ってほんとうにいろいろで、「最初から子どもが欲しくなかった」という人とも、けっこう出会うんです。そうすると、その人たちはもっと孤独だったりするんですよね。「欲しくない」と言うと、世間では「人としてどうなの」と言われたり、「なんて冷たい人だ」などと、勝手な偏見をもたれたりしてしまう。

動物で「猫がダメ」という人がいるように、「子どもが苦手」という人がいても不思議ではないのに、それを「人としておかしい」などと言われてしまって、本人も「自分はどうして、子どもを欲しいと思えないんだろう」と悩み、かつそれを誰にも相談できないという孤独感がある。

そういう「本音が言えない社会」って生きづらいな、と思うんです。それで、「いろんな価値観があっていいし、いろんな生き方があっていいんだよ」ということを発信していきたいと思いました。

――子どもが欲しくてできなかった人が、会社で育休を取る同僚をカバーしていることも多いんですね。想像したら「きついな」と思いました。

やっぱり声は聞きますね。子どもがいない人たちだって、いる人が大変なことはもちろんわかっているんです。だから、サポートすること自体を「嫌だ」と思っている人はほとんどいないんですけれど。ただ、そのサポートへのねぎらいがまったくなく、当たり前のようにこちらの負荷が増えるとか、そういう状況にちょっとモヤモヤしてしまうんですね。


(画像:『まんが 子どものいない私たちの生き方: おひとりさまでも、結婚してても。』より)

「ありがとう」「助かったよ」みたいな声かけがある環境なら全然いいんですけれど、上司が「○○さんは今日から育休だから、あとはよろしく!」みたいな感じだと、「え? この仕事を全部私が?」となる。周りの理解のなさ、というところが大きいと思います。

――「養子をとれば」と言われることは、多いですか。

ありますね。こういう記事がネットに出ると、コメント欄には必ず「子どもがいないことで悩んでいるんだったら養子をとればいい」と書かれますし、実際、マダネに来る方のなかにも「養子を検討したことがある」という方は結構多いです。

でも養子を迎えるというのも、そう簡単なことではないんですよね。最近は緩和されてきましたが、数年前まで「夫婦のどちらかが専業主婦(夫)であること」を要件にしているところが多かったし、年齢制限も厳しかったので、すごくハードルが高かった。夫婦の一方が養子を望んでも、他方が「養子はちょっと」と言うケースもあったりして。養子を迎えられること自体が、私はすごくハッピーなことだと思うんです。

「母親なのか/母親じゃないのか」というラベリング

――子どもがいないことについて、夫よりも妻のほうがつらさを感じやすいのは、世間から受ける「圧」の違いでしょうか。

そうですね、「子どもは?」と聞かれることも、男性に比べたら女性のほうがずっと多いですし。


あと、女の人は男の人と比べて、子どもがいる/いないで、働き方や生き方、関心事に差異が出やすい、というのも大きいと思います。男の人は子どもがいてもいなくても、働き方など、さほど変わらない人も多いですよね。女の人が「母親なのか/母親じゃないのか」というラベリングをされてしまうのは、それだけ生き方に影響を受けるから。

会でよく話題にのぼるんですが、テレビで女性のコメンテーターが出る場合って、よく「2児の母」といったワードがキャッチフレーズみたいに添えられますよね。男の人は子どもがいても、そんなキャッチフレーズはつかないのに。

――言われてみたら、それモヤっとしますね……。

後編は15日に公開予定です)

(大塚 玲子 : ノンフィクションライター)