女優・田島令子、70年代に話題になった“地上最強の美女“の声。慣れない吹き替え…最初は「令子ちゃん、マイクの前でしゃべるんですよ」
1971年、童話朗読番組『おはなしこんにちは』(NHK)でデビューした田島令子さん。
映画『人間の約束』(吉田喜重監督)、『3年B組金八先生』(TBS系)、舞台『ガラスの動物園』など多くの映画、テレビ、舞台に出演。
『地上最強の美女 バイオニック・ジェミー』の主役・ジェミーの吹き替えをはじめ、アニメ『ベルサイユのばら』のオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ、『クイーンエメラルダス』のエメラルダスなど声優としても知られている田島令子さんにインタビュー。
◆演劇への興味から日藝に進学
東京四谷で生まれ横須賀で育った田島さんは、小さい頃は、ひとり遊びをしたり、読書をしたりしていることが多かったという。
「私はひとりっ子だったので、人と接するのが苦手な子でした。だから、こんな職業をしている自分が信じられない(笑)」
−日大の藝術学部に進むことになったのは?−
「ただ女子大生になりたかったんです(笑)。でも、それだと何の目的もないじゃないですか。母に『あなた、もしかして推薦で大学に行くとでも思っていたら大きな間違いです。大学というのは、自分が好きな分野を選んで行くものです』って言われて。
高校のときに素人劇団みたいなところに所属していた同級生に誘われて、1回だけ舞台に立ったことがあって、そのときに『ちょっとおもしろいわね』って思ったんです。受験勉強に入ってしまったから、1回だけだったんですけどね。それで、『演劇を、舞台をやるにはどうしたらいいんだろう?』と思って調べてみて、日大藝術学部演劇学科に入ったんです。
でも、演劇学科を選んで入ったんですが、大学時代は一切演劇をしていないんです。学生演劇は、何か青臭くて好きじゃないんですよね。自分が青臭いのに何を言っているんでしょうね(笑)」
−大学時代、サークルとかは?−
「まったく入らなかったです。私が2年生のときに日大闘争で学校が閉鎖されてしまって、1年間学校に行けませんでしたしね。2年生のときに突然、藝術学部の校門に椅子や机が積み上げられてバリケードで封鎖されてしまってビックリしました。それで、アルバイトみたいなことをしていました」
−アルバイトは何をされたのですか−
「同期の男子学生の紹介で、ニッポン放送の制作さんのアルバイトをやっていました。お弁当を配ったりして」
−AD(アシスタントディレクター)さんみたいなことをされていたのですか−
「そうですね。それで、ラジオドラマのプロデューサーさんの横にいてストップウォッチを持って時間を計って『何分何秒でした』とか言うと『うん、うん』って言うんです。でも、私が言ったのは全然書いてくれなくて。
私は、まったく信用されていなくて(笑)。ちょっと夜遅くなると、もう寝てしまっているんだから、そんな子を信用しないですよね。『いいんだ、いいんだよ』って言ってくれるんですが、ものすごく反省して、『私は何の役にも立っていないアルバイトで、やっぱり辞めさせていただきます』って言ったら、『そんなことないんだよ。いてくれるだけでいいんだよ』って慰められて(笑)。『いいのかしら?』って思いながらやっていました」
−どれぐらいの期間アルバイトをされていたのですか−
「1年くらいやっていました。3年生になって、2年と3年の授業が詰め込まれて授業が大変になって、忙しくなったので辞めました」
※田島令子プロフィル
東京都出身。大学在学中より俳優活動をスタート。1971年、童話朗読番組『おはなしこんにちは』(NHK)でデビュー。以降、映画、ドラマ、舞台など多数出演。『ベルサイユのばら』のオスカル、『クイーンエメラルダス』のエメラルダスなど声優としても活躍。主な出演作にドラマ『おかしな刑事』シリーズ(テレビ朝日系)、『SUITS/スーツ』(フジテレビ系)、『真犯人フラグ』(日本テレビ系)、映画『バンクーバーの朝日』(石井裕也監督)、映画『話す犬を、放す』(熊谷まどか監督)、映画『TELL ME 〜hideと見た景色〜』(塚本連平監督)、映画『千夜、一夜』(久保田直監督)、『そばかす』(玉田真也監督)などがある。
◆就職のため「現代演劇協会」へ
田島さんは、大学4年生のとき、「現代演劇協会」の研究生になることに。
「4年生になって卒論だけになったので、就職をしなければと思って。母が知り合いの方からいただいていた入団資料があったので受けることにしたんですが、その日がちょうど学期末テストと重なっていたので、『現代演劇協会』にお電話してそう伝えたら、『何時になってもいいです。待っていますからいらしてください』って言われて。それで、行ったら受かってしまったんです」
1971年、研究生になって間もなく、田島さんは『おかあさんといっしょ』(NHK)の15分間の朗読、書き下ろし童話朗読番組『おはなしこんにちは』のお話のお姉さんを担当することに。
「研究生発表会の舞台をやってみたらおもしろくて、楽しくて、舞台だけずっとやって、一生舞台女優としてやっていこうと思っていたんです。ですが、どんどんテレビや映画の仕事が入ってくるので…。
『明日この衣装合わせ』とか言われて。『えっ?(舞台の)お稽古をしなきゃいけないのに、何で私がそんなのに行かなきゃいけないの?』って思っていました。本当に舞台のお稽古が楽しくて、楽しくて」
−でも、研究生で舞台だけだと授業料を払うだけのところが、テレビや映画のお仕事だとギャラが発生するということに魅力は?−
「お仕事を何でしなければいけないんだろうって思って。『稼げていないのに何を考えているんだ?』って思われるかもしれませんが、私にはまったく不本意だったんです」
−他の方たちからすると、すごく羨ましいことだったのでは?−
「だから『何でお前が売れているんだ?』とか言われて、とても不思議でした。だって自分が望んだわけではないんですから」
本人の希望ではなかったとはいうものの、仕事は次々と決まり、『おはなしこんにちは』の朗読コーナーは、本を手にカメラのほうをまったく見ずに朗読するという斬新なスタイルだった。
「リハーサルから本番まで本当に楽しい収録でした。リハーサルはするんですが、カメラをまったく見ずに朗読する、のちに演出家からの指示が出て少しずつカメラを見たり動いたり。私にとっては貴重な経験でした」
−次々といろんなお仕事が続いて−
「そうですね。仕事が重なって、物理的に無理なんですよね。 だから、もう疲れ切ってしまって、舞台の袖で出の寸前まで寝ていたことがあって。それで共演者から『ほら、令子、出番だよ』って言われたことがありました。若いからもう眠いのが勝っていましたね」
−若いときはとくに眠いですよね−
「そうですよね。若さってすごいわね。ただ、『私はセリフを言う人形?』って思いましたね。『何でお前が売れるんだ』とか言われるのもイヤでしたし…『もう辞めます』って言ったんです。25、6歳だったかな。
そのときに紀伊國屋ホールで上演する『おうエロイーズ!』という舞台の主役の話が来たんですが、『私は辞めるからやりません』って言ったんです。
そうしたら、『辞めてもどうでもこれはやってもらう』っておっしゃってね。最後にその舞台をやって辞めようかなと思って。でも、そのときに京都で『お祭り銀次捕物帳』(フジテレビ系)という時代劇のレギュラーもやっていたんです。
京都は遠くて行くのが大変でしたし、『じゃあ、それを降ろしてくれたら舞台をやります』なんて偉そうに言ったりなんかして(笑)。それで降ろしてくれたんですけれど、マネジャーと演出家が揉めて大変だったんです。
『何で降ろさなきゃいけないんだ?人気が出てきて、新聞にも書かれてこれからなのに、何で降ろさなきゃいけない?』って言われて『舞台の主役をやらせるから』って大騒動になって。でも、私としてはうれしかったんですけどね(笑)。
それで『おうエロイーズ!』をやって。そのあともう1本『ガラスの動物園』という舞台の主役をやって、辞めたんです。
でも、辞めた後のことは何にも決めていなくて。『私はよく考えたら事務の仕事もできないし、計算もできないし、どうしよう?でも、何とかなるかな』なんて思っていました(笑)」
◆ロケバスに間に合わず「帰っていいですか?」
劇団を辞めた後、田島さんは、大学時代の映画学科の友人の勧めで芸能プロダクションに入ることに。
「映画学科のお友だちが、『女優を辞めるなんてもったいないでしょう?ダメ!やりなさい女優』って言ってプロダクションを決めてきてしまったんです。
よく考えてみたら『そうよね、他にすることないし、できないし…』(笑)。だから、私って付和雷同ね。自分にしっかりとした考えがないから、すぐに人の意見に賛成してしまうの(笑)。それで事務所に入りました」
−ご両親は、田島さんのお仕事に関して反対はしてなかったのですか−
「全然。ひとり娘ですが、父も母も、『私、辞めたよ』って言うと、『わかった』って。『何で?』とか言わなかったです」
−子どもの自主性に任せて−
「そうみたいですね。ただ、実家が横須賀で日大が江古田だったので通うのが大変で。保健体育の授業が朝8時半で、それ(単位)を落とすと2年に上がれないぐらい。その単位を取らなければというので大変だったんですね。
だから母に、通うのが遠くて大変だから下宿したいんですと言ったら、『遊びたいんでしょう?ダメね。ひとり住まいというのは、経済的に自立してするからひとり住まいなんですよ。遊びたいために下宿はできませんね』って。母は、そういう理論的な人でした。それで実家から通っていました。
大学4年のときに、そんな状態でお仕事をするようになったので、間に合わないんですよね、物理的に。都内で朝7時出発なんて間に合わない。始発に乗っても集合場所に着いたときには、もうロケバスが出発してていないんです。
それで、撮影所に『すみません。田島ですけど』って行くと『えっ?信じられない』って。『私は横須賀から電車だから間に合わなくて。帰っていいですか?』って聞いたら『バカ言ってんじゃないよ!何で帰るんだ?』って怒られて。
『でも、もう(ロケバスが)行ってしまったんでしょう?』って言うと、『地図をやるから行け!』って言われて。『えーっ、行くの?イヤだなあ』って思いながら行くんですね(笑)。
イヤじゃないですか。それで現場に着くと助監督が『またお前か。お前やる気がないだろう?』って言うから『はい』って。素直でしょう?『はい』とか言って(笑)」
−それでよく続きましたね−
「本当そうですね。『帰りたい』、『帰っちゃダメ』って、よくやっていましたね。何で自分に仕事が来ていたのかわからない。『何で?』って不思議でした(笑)」
◆“地上最強の美女”の吹き替えが話題に
1977年、田島さんはアメリカの人気ドラマ『地上最強の美女 バイオニック・ジェミー』の主人公・ジェミーの吹き替えをすることに。これは、リー・メジャース主演の人気米ドラマ『600万ドルの男』のスピンオフ作品。
ジェミーはリー・メジャース演じるスティーブ・オースティン大佐の婚約者で元プロテニスプレイヤー。スカイダイビング中の事故で瀕死の重傷を負い、スティーブと同じバイオニック移植手術を受けてサイボーグ化した彼女は、バイオニック・パワーを使った諜報活動をすることに…というストーリー。
「プロデューサーの方が『遠くへ行きたい』(日本テレビ系)という旅番組を見ていらして声をかけてくださったと聞いて、驚きました。外国の人の声なんて、そんな器用なことができるわけがないと思って。
イヤホンを付けて耳から英語が入ってきて、台本を見て、画面に合わせて日本語でセリフをしゃべるなんて、そんな器用なことはできないって思って。『そんなことはできません。そんな器用じゃないですから』って言ったんです。
そうしたら、『いいです。大丈夫ですよ。画面に合わせることはしないで、あなたの芝居でやってください』って言われたので、やらせていただくことにしました」
−最初にジェミーの吹き替えをされたときは、どんな感じでした?−
「相手と同じ動きをしてしまうから、マイクから外れてしまうんですよね(笑)。ジェミーが動くと、同じようにそっちに行ってしまうし、しゃがむとしゃがんでしまうんです。だから『令子ちゃん、マイクの前でしゃべるんですよ』とか言われて(笑)。そんなのばかりでしたね。
それで、周りの方たちが大ベテランばかり。お声の仕事が多い方ばかりだったので、申し訳ない気持ちで。とにかく全部台本を覚えて行きました、最初の頃は。台本を見ながらやると、その分遅れてしまうし、周りの人たちは慣れているからすごく早いんですね」
−本数もかなり多かったですね−
「3シリーズあって、アメリカでも大人気シリーズだったんです。その前が『600万ドルの男』で、ジェミー(リンゼイ・ワグナー)はその主人公の婚約者という設定で、『600万ドルの男』にゲストで出たら視聴率がものすごく良くて、それで女性版を作ろう、彼女でやろうとなったんですって。
そうしたらリー・メジャースが『僕の妻を使ってほしい。ファラ・フォーセットを』って言い出して。だけど、ファラ・フォーセットはセクシーな感じだから、テレビ局としては、色のないリンゼイ・ワグナーがいいとなって。
それで、リー・メジャースは恋人役でずっと出演する予定だったらしいんですが、ジェミー役が妻ではないから、いろいろ言ったらしいんですよね。それで、途中から出演しなくなったらしいです」
−すごい人気でしたね−
「そうですね。日テレから高視聴率祝いの盾をいただいて。日曜日の夜の放送だったにもかかわらず、ものすごく視聴率が良かったと聞きました」
−予告編のときに流れる歌『ジェミーの歌』も田島さんが歌っていましたね−
「そうなんです。最後に流れる曲をね。下手なんですけどね、死にそう(笑)。『B面は、私の作詞でお願いします』なんて図々しいこと言ってね(笑)。
それで、ジャケット写真の撮影のときも『扇風機でバーッと風をこうして…』なんてすごく偉そうに言ったりなんかして。歌なんてもうめちゃくちゃなのにね(笑)。
レコーディングのときに作曲家の方が『伊東ゆかりが歌ったらなあ』って言っていました。伊東ゆかりさんはお上手だから、作曲家もそう思ったと思います。私のはツギハギだらけだもの。『そうでしょうね。ごめんなさいね』って心の中で言って。でも、ちっとも傷つかないのよ(笑)。本当にごめんなさいね」
歯切れよく話す明るく澄んだ声が耳に心地良い。『地上最強の美女 バイオニック・ジェミー』の吹き替えで実力を高く評価された田島さんは、『ベルサイユのばら』、『クイーンエメラルダス』など声優として数多くの作品に出演することに。次回はその撮影エピソード&裏話も紹介。(津島令子)