中古品やリサイクルショップが好きなのは、日本人だけ?(写真:bee/PIXTA)

「外国人が観光地に殺到!」――最近よく見かけるこのニュース。もちろん、長く苦しかった観光業が復活するのは喜ばしいことですが、実は外国人がこぞって訪れているのは「日本が安い国」だからなのです。

元国連専門機関職員の谷本真由美さんは、「日本は物価も給料もいまだに激安」であり、その安さゆえに「海外から買われている」のだと言います。本稿では、谷本さんの最新刊『激安ニッポン』からの抜粋で、「貧しくなっている日本で今起きている変化」を紹介します。

“中古品大好き”なのは日本だけ

ここ最近の日本で大変驚かされるのは、リサイクルショップがどんどんと街の中心のほうに出てきていて、ショッピングモールの中にも、最低1つはリサイクルショップが入っていることです。

そして、店舗の規模もどんどん拡大しているようです。私は日本に行くといつも何軒かのリサイクルショップを回りますが、行くたびに品物の数が増え、店舗面積も拡大しているのです。

そしてかつてのリサイクルショップとは品揃えも変わってきています。

たとえば子ども用品だと、昔は七五三のときの着物など1、2回しか使わなかったものが売られていましたが、最近はよく使い込まれた子ども服やベビー用品が目立つようになりました。それでも値段がついていて、買っている人がいるのが驚きです。

しかも、そういった品物を買っていく人々はそれほどみすぼらしい身なりでもなく、礼儀もきちっとしているのです。

節約志向といえば、聞こえはいいかもしれませんが、コレクションや趣味の目的ではなく、生活必需品すらも中古で揃えなければならないのです。

中国のウェブメディア「澎湃新聞(ほうはいしんぶん)」は、そうした現状を受けて、「日本人はなぜ中古品が好きなのか?」という記事を配信しています。

この記事では、フリマアプリ「メルカリ」の売上高が大幅増加していることや、「大黒屋」などの中古買取ショップがいかに豊富な品揃えなのかを紹介しつつ、次のように分析しています。

「1960〜70年代に日本経済は急成長し、人々は裕福になってあちこちで買い物をし、特にぜいたく品を大量に買って身分をアピールした。しかし、その後の日本は経済が長い停滞期に入り、若者が過度な消費を嫌うだけでなく全体が明らかな低欲望状態に入った」

この指摘の通り、低成長にあえぐ日本では半ば強制的に、中古品を積極的に使うライフスタイルが浸透していったのです。

こういうリサイクルショップは欧州や北米にもあり、むしろこちらが本場です。

しかし、やはりここにも階級や経済格差がはっきりしていて、リサイクルショップがあるのは経済的に厳しい地域であることが少なくありません。そして、リサイクルショップでものを買うのは、趣味目的やコレクションのためではなく、節約をしたいからという人が大半です。

そうした地域以外に住む人たちはあまり中古品を買わなくなっています。以前は「eBay」というオークションサイトでメルカリのように個人間で取引をする人が多かったのですが、最近は中古品の出品はかなり減っています。

リサイクルショップでは買う人だけではなく、売る人もお金がない人たちなので、品物の状態は当然よくありません。加えて、盗品や遺品が混じっていることもあるので、リスクもあります。

お金持ちは人に自分のものが使われることを嫌がって捨ててしまうことが少なくありません。ですから、海外の中流階級以上だと、近所にリサイクルショップはいらないと考えている人が大半なのです。

非常に実利的で損得をシビアに考える北米やイギリスの人たちでさえもリサイクルショップを使うのはある程度の階級以下の人であり、それ以外の人は基本的に使わないのです。

しかし、日本では中流以上に該当する人々でもリサイクルショップでものを買わざるを得ない状況になってきています。つまり、教育レベルや教養は中流のままですが、経済的にはだんだんと下流に転落しているということなのです。

「インフラ崩壊危機」を迎えている

日本の貧しさを表しているのは「価格」だけではありません。これ以外に、日本の没落具合を顕著に表している現象があります。

それは、日本のインフラがどんどん劣化していることです。

日本では最近、ずいぶんとひび割れた道路が増えました。昔は舗装されたばかりの道路が多かったのですが、ここ20年ばかりは老朽化してそのままになっている道路も少なくありません。歩行者が段差に取られて転倒しそうになっているところもよく目にします。

また、路肩や中央分離帯にも雑草が生え放題の地域が増えてきました。これは欧州の豊かな国だとあまり見られないことです。こういった国では、雑草の処理や街路樹の手入れなどのメンテナンスも細やかにやっているので、日本のように荒れていません。それも、中心地から離れた郊外の地域でもやられているのですから驚くべきことです。

一方、経済が停滞しているイタリアやスペイン、ギリシャなどの国だと話は変わります。道路はひび割れたところが増え、雑草が生え放題で街路樹はろくに剪定されていません。最近の日本は、欧州の貧乏な国に近づいてきているということでしょう。

しかも、これが見た目のみの話であれば、「見栄えが悪い」というだけですが、実際には深刻な事態に陥る危険性があります。

公共工事が行き届かず、大規模な修繕工事が行えないと、道路が陥没したり、陸橋が落ちたりといった事態が起こるようになります。また、河川の堤防などのメンテナンスが不十分だと、洪水や土砂崩れが頻発する恐れがあります。

日本でも最近、あまり耳にしなかったようなインフラのトラブルや事故が増えていると思う人もいるのではないでしょうか?

バブル崩壊後でもまだ豊かさの余韻があった1990年代の日本は次々に新しいインフラをつくっていました。しかし、90年代の半ばごろから今に至るまで、ほとんどメンテナンスをしていない道路や陸橋が相当あるのです。

同じ頃には、インフラだけではなく「〇〇文化振興センター」などという名前の箱物も多くつくられました。これらの施設がメンテナンスもろくにされず放置されていることを考えると、それよりもはるかにお金がかかるインフラの整備が今後も進まないことは想像に難くありません。

国土交通省の発表によると、日本では建設後50年を超える橋梁は現在全体の約4割を占めていて、2033年には7割以上になる見通しです。

老朽化した橋を直すことができず、不便を強いられている人たちもいます。

たとえば、茨城県高萩市にある「菖蒲橋」は2016年に腐食が原因で橋の一部が落ちてしまいましたが、いっこうに修理が行われず、通行止めの状態が続いています。住民たちは菖蒲橋を使えないため、遠回りを余儀なくされています。また、壊れた状態のまま放置しておくと、台風の際に橋ごと流されるなどの危険があると不安の声をあげている人もいます。

このように、修理することも撤去することもできない橋や道路は不便なだけではなく、新たな被害の原因となる恐れもあります。こんなことは、自治体もわかっているはずですが、予算の関係上、対応することができていないのです。

100円ショップに大きな衝撃

2022年、イギリス人の私の夫は10年ぶりに日本を訪れました。彼は日本の現状を見て、大きな衝撃を受けていました。

街を歩けば、100円ショップや激安店が目立ち、看板には介護施設や高齢者向けの医療サービスの広告だらけになっているのです。

飲食店も昔よりも価格が下がっており、旅行者にはありがたいのですが、価格が下がるということはそれだけ儲かりにくくなっているということです。そんな先進国ははっきり言って日本だけです。

そして夫は「道行く人の服装や表情もなんとなく暗いね」と言っていました。

さらに、夫はイギリスの国立大学の研究者で、専門は経営学なのですが、世界各国のデータを見ていて毎回驚かされるのが日本人の「給料の安さ」だといいます。あまりにも給料が安いので、これは本当に先進国のデータなのかと信用ができないらしいのです。


もちろん彼は日本のデータ収集や統計の正確性はよくわかっているので、嘘のデータではないということは知っています。途上国や独裁国が出しているデータとはまったく違うのです。しかし、だからこその驚きなのです。

そして、私も実際に日本の上場企業や大学で働く人々の給料の金額を聞くことがありますが、「まるでギリシャじゃないか」と驚いてしまうほどの低賃金です。

加えて、夫が驚いているのは、イギリスの基準であれば5つ星ホテル並みのサービスを提供してくれる駅の駅員さんやファストフード店の店員さんがどれだけ安い賃金で働いているのかということです。

夫は大河ドラマや時代劇を延々と見て、毎日日本の歌謡曲を聞いています。そんな日本通の夫すら、いまだに日本人の給料の安さに衝撃を受けているのです。日本のことをあまり知らない経済学者や一般の人だとどれだけ驚くかは想像できると思います。

日本人は海外の人から見ると、信じられないほど低賃金で働いているのです。

(谷本 真由美 : 著述家、元国連職員)