プロ野球ペナントレースも前半戦が終了した。セ・パともに優勝争いは混沌としており、後半戦の戦いが楽しみでならない。選手個人に目を向けると、力を発揮した選手、発揮できなかった選手などさまざまだが、個人的にはヤクルトの村上宗隆に注目していた。

 昨季、村上は史上最年少で三冠王を達成し、3月に開催されたWBCでも日本の中軸として世界一に貢献した。名実ともに日本球界を代表する打者となり、今シーズンどんな活躍を見せてくれるのか楽しみにしていた。ところが開幕から調子が上がらず、ここにしてやや盛り返してきたが、前半戦終了時の成績は打率.242、16本塁打、49打点と昨年と比較して物足りない数字が並ぶ。はたして、この原因はどこにあったのか。野球解説者の伊勢孝夫氏に語ってもらった。


シーズン前半戦、思うような結果を残せなかった昨年三冠王のヤクルト・村上宗隆

【三冠王を狂わせた3つの要因】

 昨シーズン三冠王となれば、今季は徹底マークされ、厳しい攻めを強いられる。これはシーズン前から予想できたことだし、村上自身もわかっていたはずだ。それにしても、ここまで苦しむとは想定外だった。

 なかなか上がってこない打率もさることながら、やはり気になるのが本塁打の少なさだ。現在、セ・リーグ3位の15本塁打を放っているとはいえ、昨年は前半戦で33本塁打を記録していたのだから、どれだけ苦しんでいるかがわかるだろう。

 この点に関して、結論から言えば3つの要因が挙げられる。

1.狙い球が絞りきれていない
2.芯でとらえきれていない
3.打球が上がらない

 狙い球を絞りきれていないというのは、要するに相手バッテリーの攻めに翻弄されているためだ。村上のみならず、強打者というのは内角を執拗に攻められる。バッテリーからすれば、徹底的にインコースを意識させておいて、最後にアウトコースにウイニングショットを投じて仕留める。

 ところが、今季前半戦の村上の打席を見ていると、執拗に内角を攻められている印象はない。内角のボールはほんの見せ球程度で、ほとんどが外角だ。これはどんなに村上が不振でも、「やはり怖い打者」というイメージを各チームが持っているからだろう。内角を攻めようとしても、少しでも甘く入ってしまえば村上の得意とするゾーンになってしまう。だからバッテリーはリスクを回避し、アウトコース中心に攻めるのだ。

 当然、村上も外角主体の配球はわかっているはずだし、昨年も同じような攻め方をされていたことはあった。ただ昨年は、外の球でもストライクゾーンなら鮮やかなミートでセンターからレフト方向に飛ばしていたのだが、今年はそのバッティングができていない。村上自身、いつかインコースに来るはずだと思いながら打席に立っているのではないだろうか。

 そのため昨シーズンは打てていたアウトコースのストライクゾーンを打ち損じ、迷いがあるためか空振りも多い。しかも結果が出ないから、強引さも目立つ。まさに"負のスパイラル"に陥ってしまったと言える。

【右肩が入りすぎる打撃フォーム】

 では、芯でとらえられない原因は何か。私が気になっているのは、右肩が入りすぎているという点だ。たとえばテレビ観戦をしていて、彼の背番号「55」の数字がはっきりと見えることはないだろうか。

 記憶の限りではあるが、彼の好調時はもう少しスクエアに立っていたはずだ。背番号が見えたとしても「55」の1ケタだけで、両方見えることはほとんどなかった。これは明らかに外角の球に対応するための構えである。

 ただ、この構えだと内角を攻められたら脆(もろ)いという欠点がある。しかも構えが変わったことで、これまでとボールの見え方も違ってくる。今シーズン、何度か審判のストライク判定に「えっ、そこをとるの?」といった表情を見たことがあったが、本人にしてみればボールに見えているのだろう。

 言い換えれば、昨年きっちりしていた彼のヒッティングゾーンが、構えを変えたことで狂いが生じている。それではミスショットが増え、仕留めようにも仕留められない。打球が上がらないのも、しっかり自分のポイントでとらえられていないためである。

 個人的には、このほかにも懸念材料がある。まず、昨シーズン終盤にスランプに陥った時期があったが、その時のことを整理できているかどうかだ。打者にとって重要なことは、打ったことよりもどのようにして打ちとられたかを理解することだ。

 昨年オフ、三冠王を獲ったことで取材も増え、自分を見つめ直す時間がなかったのではないか。そしてそのままWBCへと入り、苦悩したことは記憶に新しい。準決勝、決勝でチームの勝利に貢献する一打を放ったが、最後まで自分の打撃ができなかった。

 さらに、WBCでは自分の前を打つ大谷翔平のケタ違いのスイングにショックを受けたという話も聞いた。そのことが村上のスイングを崩した可能性は大いにある。

 いずれにしても前半戦は苦しんだ村上だが、ここに来て逆方向への打球も増え、ホームランも出るようになった。オールスターブレイクを機に、昨年のような打棒を見せてくれるのではないか。シーズン後半戦の村上は要注目である。