清水直行インタビュー 前編

今シーズン前半戦の佐々木朗希について

 ロッテの佐々木朗希は今シーズンの前半で12試合に登板し、7勝2敗(勝利数はリーグ2位)、勝率.778、防御率1.48、奪三振数121、奪三振率13.78(いずれもリーグトップ)。好成績を残した一方で、昨年4個だった暴投はすでに11個と心配な部分も。

 果たして佐々木の後半戦はどうなるのか。長らくロッテで活躍し、2018、19年にはロッテの投手コーチも務めた清水直行氏に、佐々木のリーグ前半戦のピッチングと、後半戦に向けた課題などを聞いた。


6月のオリックス戦では4暴投を記録した佐々木(右)

【佐々木のフォークは"特殊球"】

――オールスター前の最後の試合(7月12日オリックス戦)では、7回を投げて1失点、14奪三振。圧倒的な投球を見せましたが、前半戦を振り返ってみていかがですか?

清水直行(以下:清水) 十分な出来です。期待値が高すぎるので物足らないという方もいるかもしれませんが、僕としては期待通り、もしくは期待以上のピッチングだと思っています。

――清水さんが懸念されていた体力面はどう見ていますか?

清水 それは慣れるしかありません。佐々木もプロ野球選手になって4年目。昨年からローテーションで回り始めたばかりで、吉井理人監督の言葉を借りれば、まだ"見習い"です。能力はずば抜けていますが、先発ピッチャーとしてプロ野球のシーズンを投げ抜く感覚を、体で覚えていっている段階。本人も対応しようとしていますし、成長は見えます。

 勝ち負けとは別に、肉体的・精神的な疲れがどうだったかというのは、本人がシーズンをフルで投げてみて感じること。昨年は1年で20試合に投げましたが、今年はここまで12試合(79イニング)なので、順調なペースだと思います。

―― 一方で、暴投の数は昨年が4個だったのに対し、今年はすでに11個となっています。

清水 フォークが引っかかってくると同じ落ち方をしないですから、キャッチャーとしては反応しづらい。特に佐々木のフォークは140km台中盤の"特殊球"。キャッチャーもいろいろな落ち方を想定していると思いますが、特に三振を取りにいく時は力も入って落ち方が激しくなりますし、キャッチング、ブロッキングは苦労すると思います。

 捕る技術は、ロッテのどのキャッチャーもそれほど変わらないと思いますが、今後も佐々木が投げる時に佐藤都志也がマスクをかぶるのであれば、ブロッキングをもっと練習しなければいけません。ただ、チームに佐々木がいる限り、佐藤だけでなくロッテのすべてのキャッチャーに言えることでしょうね。

 キャッチャー陣は、佐々木以外のピッチャーのボールはけっこう止めてるんです。種市篤暉のフォークとか、C.C.メルセデスや東妻勇輔の変化球も。やはり佐々木のフォークの落ち方は"別物"なんでしょうね。

――大変ですが、キャッチャーが捕るしかない?

清水 佐々木本人も「フォークが抜けたらダメだ」と思いながら投げているでしょうけど、それでも抜けるのであればキャッチャーが対応していくしかない。佐々木は「腕を強く振って自分のベストボールを投げる」と常に意識するべきで、キャッチャーに頑張ってもらうしかないと思います。特に佐々木の場合は、気を遣うようになるとピッチングにならなくなるでしょうから。

 フォアボールで出したランナーがワイルドピッチで二塁に進塁し、ヒット1本で1点を取られるといったケースが増えてくると、ピッチャーにプレッシャーがかかってきます。直近のオリックス戦では打線の援護がありましたが、佐々木が投げる試合は相手も集中力がより高まるのか、比較的ロースコアになることが多いので、バッテリー間のミスは極力減らしたいところです。

【ローテを守る投手としての成長と課題】

――ここまでの2敗は、いずれも交流戦で戦ったDeNAと阪神相手に喫したものです。何か原因は考えられますか?

清水 DeNA戦では宮粼敏郎にホームランを打たれるなど4失点しましたが、阪神戦は被安打1で1失点ですからね。あの試合は、阪神の先発ピッチャーの才木浩人がよかったから仕方がないです。パ・リーグのチームを相手にする時とピッチングが違ったわけでもありません。打席に入らなければいけない、という意識が少しあったのかもしれませんが、その影響は微々たるものだと思います。

――本拠地のZOZOマリンスタジアムでは、6試合に投げて5勝0敗、防御率0.45と圧倒的な数字を残しています。

清水 投げやすいんだと思いますよ。マウンド、調整する時間、ロッカールームからマウンドに行く感じ、ブルペンなども含めて勝手がわかっているし、本人に"合っている"のかなと。風を気にしている感じもないですね。あの球場の風向きだと、右中間のライナーだけちょっとケアしなきゃいけないのですが、佐々木にとってはマウンドからの景色も含めて投げやすいんでしょう。

――昨年と同じく、今年も右手中指のマメで一時期離脱しましたが、マメができた試合(5月5日のソフトバンク戦)で早めに降板したことも功を奏したのか、昨年と比べて復帰が早かったですね。その復帰した試合(5月28日のソフトバンク戦)は6回3安打2失点で勝ち投手になりました。

清水 今年はWBCに出場するために2月ぐらいから本格的に投げていたこともあってか、マメができるのが昨年(7月1日の楽天戦)よりも早かった。ただ、復帰後は毎試合コンスタントに100球くらい投げているので、マメの克服法、つき合い方もわかってきたのかなと。

 ローテーションで投げる先発ピッチャーたちは、シーズンの後半にもなれば腰の張りが強くなったり、肘が張ってきたり......持病とまではいかなくても、それぞれ何かしら異変が出るところがあるものです。そこをうまく治療したり、ケアしながらやっていますから、マメに対応できるようになってきたことはすごくいいことだと思います。

――ちなみに、対左バッターの被打率は、昨年の.182から.109とさらによくなっています(対右バッターの被打率は昨年.167→今年.207)。投球に変化があったのでしょうか?

清水 昨年から、左バッターのインサイドへの真っ直ぐがとても投げやすそうなんです。逆に右バッターに対しては、インサイドをしつこく攻めることはせず、「ばらけてくれればいい」という感じ。でも、対右バッターの数字も十分にいいですから、攻め方を無理して変える必要はないです。自分が気持ちよく投げられる配球で投げたらいいんじゃないかなと。

――今後の課題を挙げるとすれば?

清水 佐々木に対しては「コントロールに気をつけろ」なんて思いませんが、"投げ分け"を少しずつ勉強していく段階かもしれません。ボールにする時は、ストライクゾーンからボールゾーンにしっかり外す、勝負する時はしっかり突っ込んでいくといったレベルの、ちょっとした意識の問題ですね。

 あとは暑さへの対応です。これからもっと暑くなっていきますからね。直近の試合で6回、7回ぐらいになってくると肩で息をする姿を目にします。そんなに投げ急がなくてもいいので、ちょっとマウンドから離れて呼吸を整えたり、ファウルを打たれた後やカバーに行った後に間をとってみたり。そういうこともテクニックですし、焦らないことが大事です。

(後編:ロッテ優勝へのキーマンは誰か サイドスローの若手右腕、復調気味の安田尚憲>>)

【プロフィール】
清水直行(しみず・なおゆき)

1975年11月24日に京都府京都市に生まれ、兵庫県西宮市で育つ。社会人・東芝府中から、1999年のドラフトで逆指名によりロッテに入団。長く先発ローテーションの核として活躍した。日本代表としては2004年のアテネ五輪で銅メダルを獲得し、2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボールクラシック)の優勝に貢献。2009年にトレードでDeNAに移籍し、2014年に現役を引退。通算成績は294試合登板105勝100敗。引退後はニュージーランドで野球連盟のGM補佐、ジュニア代表チームの監督を務めたほか、2019年には沖縄初のプロ球団「琉球ブルーオーシャンズ」の初代監督に就任した。