13シーズンぶりにJリーグに復帰した香川真司が今季、セレッソ大阪で際立つ存在感を放っている――。

 現在の香川のプレーぶりを短く言い表せば、そんな表現になるのだろう。


セレッソ大阪で際立った存在感を示している香川真司

 しかし、だからといって、それですべての事実が正確に伝えられているとも言い難い。

 今年3月で34歳になった香川というサッカー選手を最も有名にしたのは、2010年〜2013年頃、すなわち、C大阪から移籍したドルトムントでブンデスリーガ連覇を遂げ、マンチェスター・ユナイテッドへの移籍を果たした頃の活躍である。

 当時の香川の主戦場は、いわゆる"トップ下"。狭いスペースでも正確にボールを扱える優れた技術と、瞬間的なスピードを生かしたプレーで、多くのチャンスを作り出すのはもちろん、自らも多くのゴールを奪ってみせた。

 ところが、現在4−4−2をベースに戦うC大阪でのポジションは、ボランチだ。タイミングを見て前線やサイドのスペースへ出ていくことはあるものの、あくまでも主戦場は"中盤の底"なのである。

 香川は2ボランチの一枚として、時にDFラインに吸収される位置まで下がり、攻撃の中継点としてパスを受けてはさばく、を繰り返している。

 今季序盤はC大阪が4−3−3を採用していたことで、香川は主にインサイドハーフを務めることが多く、その時からすでに"ボランチ的な役割"を多分にこなしてはいたが、もはや完全なるボランチとして、質の高いプレーを見せているのだ。

 香川がJリーグに戻ってくると聞き、当然、彼の活躍に期待する人は数多かっただろう。しかし、そのポジションがボランチになることを想像できた人がどれだけいただろうか。

 確かに前述した時代の印象が強い香川も、さらに時計の針を巻き戻せば、ボランチとして活躍した時代があった。何より、かつては香川本人のボランチ志向が強く、18歳で出場した2007年U−20ワールドカップでも、ボランチとしてプレーしている。

 つまりは、今季の香川のボランチ起用は、転向ではなく、復帰。だとすれば、それを「意外な」と形容するのは正しくないのかもしれない。

 だとしても、今季のJリーグを見ている誰もが、10代の香川を知るわけではない。

 そこで、今季リーグ戦で香川とコンビを組んだことのある選手たちに意見を求めた。彼らの目に"ボランチ香川真司"はどう映っているのか、と。

「ボールを取られないし、前へのチョイスの仕方、選択肢のなかからプレーを選ぶタイミングが一流だなと思う」

 そう語るのは、MF鈴木徳真である。

「リーダーシップもあるし、それ以外にも戦術の理解度だったり、試合の流れを読む力というのはスゴい」

 そんな鈴木の言葉どおり、直近のJ1第21節、浦和レッズとの試合(2−0で勝利)では、攻め急ぎたくなるような局面でも意図的に横パスを増やすなど、暑さも考慮に入れた巧みなゲームコントロールに才を見せていた。

 もともとの香川のイメージと言えば、「代表でプレーしている真司さん」だと話す26歳のボランチは、頼もしい"相方"について「FWやサイドハーフと違って(トップ下として)真ん中でやっていたから、その(ボランチとしてプレーする)感覚があるのではないか」と語り、かつてヨーロッパで名を馳せたアタッカーのボランチ起用にも驚きはないという。

 また、「(プレーの)全部がスゴい。時間帯によって、どのプレーを選択するのかとか、学べるところは多い」と、香川に対する全幅の信頼を口にするのは、MF喜田陽である。

「横でやっているからこそ、学べることがある」とも語る23歳のボランチは、「経験値はぜんぜん真司さんのほうが上だけど、お互いを見ながらプレーできている」と、うれしそうに手応えを口にする。

「柔軟にそのポジションでやるべきことを整理しながら、役割を果たしている。柔軟にどのポジションでもできるところが、トップレベルの人だなと思う」

 そう話す喜田もまた、香川のボランチ起用に意外な印象は「最初からなかった」と話すひとりだった。

 ボランチ起用が意外であるか否かはともかく、いずれにせよ重要なのは、香川がヨーロッパ時代とは異なるポジションで彼の持つポテンシャルを発揮し、一緒にプレーする若い選手たちにも好影響を与えているということ。そして、それはチーム全体のレベルアップにもつながっているということだ。

 現在ゲームキャプテンを務める香川は、自らがボールに触れ、直接的にプレーに関わるだけでなく、周囲の選手に身振りもまじえた細かな指示を与えることによっても、チームを動かすことができている。

 13シーズンぶりに桜色のユニフォームに袖を通した34歳が、これからどんなボランチ像を確立しいていくのか。今後を楽しみにしたい。