タッキーは令和の義経か…IMPACTorsの移籍でジャニーズ事務所に反旗を翻した「滝沢秀明の乱」本当の狙い
■これまで経験した苦労を次世代にはさせたくないという思い
「もし子供がいたら、芸能界に入れるか? 答えはノー。絶対に入れない。芸能界は良いことばかりじゃないからね」
そう言ったタッキーこと滝沢秀明の表情が忘れられない。10年ほど前、よくあるアイドル雑誌の一問一答式インタビューだった。適当に答えてサラッと流してもいい質問に、彼は質問したこちらがスルーしにくい正直な回答をした。
そのとき、彼の顔には悲しみや怒りが浮かんでいたわけではなく、世の中そんなもんだというある種の割り切りと、今の状況は不幸でもないけれど、ここに至るまではしんどいこともあったから、その重荷は次世代には背負わせたくないという責任感が読み取れた。
平成から令和になり、その取材時には想像もできなかった事態になっている。タッキーが、ジャニーズ事務所を退所して1年足らずで新会社「TOBE」(トゥービー)を設立し、強大なジャニーズ帝国を相手に「滝沢秀明の乱」とでも呼ぶべき動きを始めたのだ。
■元キンプリの平野紫耀、神宮寺勇太が異例の速さで合流
TOBEはYouTubeを発表の場として続々と所属タレントを告知。滝沢とはもともとユニットを組んでいた元V6の三宅健はともかくとして、人気絶頂の5人組King & Princeから、平野紫耀、神宮寺勇太の2人がジャニーズ退所からわずか45日後という異例の速さでTOBEに加入したのには驚いた。
ジャニーズを辞めた人間がジャニーズのタレントをマネジメントする(自社のタレントとする)のは業界のタブーである“引き抜き”と見なされ、SMAPメンバーの3人を元マネージャーが独立させたという例外を除いては、前例がなかった。ましてや、7月14日にTOBEへの加入が発表された元IMPACTorsのようにグループ全員でというのは前代未聞だ。
これまでの主な動きを簡単にまとめておこう。
■滝沢が大河ドラマで演じた源義経のような成り行き
27年間所属したジャニーズ事務所で副社長のポジションまで上り詰めてからの、いきなりの退社も私たちを驚かせたが、今年7月に入ってからの滝沢の吹っ切れたような、何者も恐れないようなやり方は、さらに想像を超えており、芸能界に関わる人はみな固唾を飲んで見守っている状態だ。これってやっちゃいけないことじゃなかったの……。大げさに言えば、市民たちが「自由・平等・友愛」を掲げたフランス革命もかくやと思わせるような勢いである。
滝沢が主演したNHK大河ドラマになぞらえれば、さしずめ令和の義経といったところだろうか。武将として優れた才能を発揮し、平家を滅ぼすという実績を挙げながら、兄の頼朝に疎まれ、鎌倉を追われた義経とイメージが重なる。義経は兄との対決を避け、九州の統治者になろうとしたが果たせず、少年時代を過ごした奥州平泉で再起を図っていた。地上派テレビという都を捨て、ネットを中心に活動するTOBEは、タッキーにとっての平泉なのか。
■ジャニーズJr.のIMPACTorsが全員そろって移籍した衝撃
IMPACTorsについては、もともと滝沢が命名・プロデュースし、舞台公演「滝沢歌舞伎ZERO」にも出演させていたグループ。2023年5月に全員がジャニーズを辞め、滝沢との合流は規定路線と見られていた。TOBEのアーティスト発表第3弾としてアップされた予告画像には、ピンクのボールが写っており、ピンクの手袋をしてパフォーマンスするIMPACTorsだと、ファンたち(愛称はピンキー)は色めき立った。
その予想が現実のものとなったわけで、これまでSMAPもKing & Princeもメンバーが3対2に分裂し全員での移籍は果たせなかったのに、全員で合意しタッキーの下に集ったIMPACTorsの7人。ただ、もともとジャニーズJr.内では人気上位というわけではなく、CDデビューが発表されていたわけでもない。だからこそジャニーズ事務所も「出ていきたいなら出ていけば」ぐらいの温度感で手放したのだろう。
しかし、気になるのは一般人の転職やヘッドハンティングでも問題となる「競業避止義務違反」に当たらないのかということ。ただ、この義務が発生するのは、あくまで個人が会社との契約書や就業規則に捺印するときに禁じられていればという条件下なので、これまで発表されたメンバーにはその縛りはなかったのだと思われる。
■後ろ盾がいるのか
そうだとしても、ここまで遠慮のない動きに対し、まことしやかに噂されるのは「タッキーのバック(後ろ盾)には誰かがいる」という見方だ。ジャニーズの藤島ジュリー景子社長を向こうに回して渡り合える業界の大物が背後で糸を引いているのではないか。しかし、そういう存在がいることは発表されていない。
ただ、TOBEの主催したオーディションの様子や、平野たちのコンサートツアーを行うという発表から、音楽業界のバックアップがあることは確実のようだ。ジャニーズは、例えばSMAPはビクター、King & Princeはユニバーサルミュージックというように外部のレコード会社にアイドルたちを任せてきたが、タッキー&翼のレコード会社はavex trax(エイベックストラックス)だった。滝沢と三宅のユニット、KEN☆Tackeyも同社から曲をリリースした。そしてIMPACTorsはCDデビューこそしていないが、V6と組みavex traxのプロデュースで音楽活動をしていた。
■TOBEはデビューシングルから取った社名
そもそもTOBEという会社名は、タッキー&翼のデビューシングル「To be, To be, Ten made To be」から取られている(7/2滝沢が配信したコメントより)。もし、エイベックスのような大企業がサポートしているのであれば、競業避止義務についても、企業顧問弁護士などがガバナンスをチェックしているのだろう。
筆者も含め、滝沢に何度か取材したことがあるライターたちは皆、滝沢を「そつがない人」と評する。インタビュー中は穏やかに丁寧に対応してくれるし、かと言ってマスコミに媚びる感じもなく、バランスが良い。自分が出演する作品について語るときも、客観的な視点を交えてにこやかに語ってくれる。
■アイドルから事務所社長へ、滝沢秀明とは何者なのか
ただ、滝沢自身は大成功したスターというわけではない。たしかに10代の頃の勢いはすごかった。ジャニーズアイドル屈指の顔面偏差値の高さとハングリーさでジャニーズJr.のリーダーとなり、それまではあまり知られていなかったジュニア人気を盛り上げた。
若手俳優としても「木曜の怪談」「魔女の条件」などの連続ドラマに出演してポスト・キムタクだと注目され、瞬く間に主演クラスに。22歳で大河ドラマの最年少主演まで果たしたが、それ以降、大人の俳優として例えば木村拓哉の「HERO」や松本潤の「99.9%」のように映画化もされるようなヒットシリーズに恵まれたわけではなかった。
歌手活動でも、タッキー&翼には「夢物語」などのヒットソングがあるものの、嵐やSMAPのようなミリオンセラーまではない。インタビューではしばしば裏方志望であることを語っていた。演出家としてはアイデアマンであり、交渉上手。松竹と組んで「滝沢歌舞伎」という主演舞台を作り、客席がガラガラの日もあった「滝沢演舞場」の時代から10年かけて成功させた。
そして、完全に裏方に回った2019年からはジュニアの育成に本腰を入れた。2020年にはSnow ManとSixTONESを同時にデビューさせ、両グループのファンが競ってCDを買いたくなるような仕掛けをした。ファン心理を見抜くプロデューサーとしての手腕もたしかだ。
■ジャニーズというしがらみから抜け出した現在の勢い
そうして裏方として本領発揮していた最中、2022年、電撃的にジャニーズ事務所を辞めてしまったわけだが、その決断に至るまでには藤島社長の下でよほどのことがあったはず。だとすれば、そんな大組織かつオーナー企業のしがらみから抜け出したタッキーが、今さら別のしがらみに足を突っ込もうとするだろうか。
滝沢はTOBEのYouTubeとは別に、Twitterのスペース(音声ライブ配信)やTikTokライブでしばしばファンに直接語りかけている。そこでの発言で、三宅健や平野紫耀、神宮寺勇太をジャニーズ在籍時から引き抜いたわけではなく、あくまでそれぞれが退所した後に集まって合意したという流れだったこと、TOBEは大きい会社にするつもりはなく自分の目の届く範囲でやっていくということ、音楽活動は当面CDではなく、デジタル配信で展開することが明かされた。
■作ろうとしているのは自分の子を入れたくなる会社ではないか
「TOBEは夢の国」と説明し「タレントがタレントらしく(活動し)、プラスアルファで自分の意思をのせてファンの皆さんに届ける。それを軸に考えてやれることはやっていくのが一番の思い。タレントのため、ファンのためにそれぞれの感情を成立させるのがTOBEの役割だと……。失敗もするだろうし、最初から上手くいくとは思ってない」と語っていた。毎回、なによりもファンの応援が頼りだというメッセージも発信している。
これらの発言から判断すれば、業界の大物的な後ろ盾はいない。TOBEを「ジャニーズ2号店」と揶揄する声もあるが、これまでのジャニーズ事務所の独占的なやり方を見てきた筆者たちからすれば、2号店を出せたこと自体が奇跡なのだ。
この「滝沢秀明の乱」に、被害者からの告発が続いている故・ジャニー喜多川氏の性加害問題はプラスにもマイナスにも影響を与えているだろうし、喜多川氏の後継者と目され、後輩たちを率いる立場だった滝沢が性加害問題において責任ゼロかというとそうではないだろう。
それでも、タッキーが作ろうとしている「夢の国」は、自分の子が入ってもいいと思えるような、不自由さや理不尽やしがらみのない場所なんだろうなと考えれば、やはり応援したくなる。TOBEが行ったオーディションにたくさんの少年たちが参加する姿も公開された。このタイミングで同じように、芸能界とテレビ業界、雑誌業界が旧態依然とした縛りから抜け出すのを祈るばかりだ。
----------
村瀬 まりも(むらせ・まりも)
ライター
1995年、出版社に入社し、アイドル誌の編集部などで働く。フリーランスになってからも別名で芸能人のインタビューを多数手がけ、アイドル・俳優の写真集なども担当している。「リアルサウンド映画部」などに寄稿。
----------
(ライター 村瀬 まりも)