ブランドやパブリッシャーで活躍中の、DIGIDAY+会員やイベントに参加したVIPに、どのようなメディアに触れ、情報を活用しているのかを聞くプレミアムインタビュー「ビジネスパーソンの情報活用術」。第4回は、ゴールドウイン ニュートラルワークス事業部長 大坪岳人氏。「ニュートラルワークス.」は、スポーツアパレルメーカーとして数多くのブランドを手がけるゴールドウインによる、新スタイルのブランドだ。ココロとカラダをニュートラルに整え、いつでも動き出せる “READY” な状態へと導くために、起きている間の運動・仕事・休息、そして睡眠も含めた24時間をサポートするさまざまなプロダクトやサービスを展開している。現在、同ブランドを率いる大坪氏は、入社以来17年もの間、「ザ・ノース・フェイス」一筋で素材開発から企画・マーケティングまで幅広い経験を積んできた。誰もが知る有名ブランドから、ゼロからブランドを立ち上げるプロジェクトへの異動。新たな挑戦から3年目を迎える大坪氏に話を聞いた。 

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――ニュートラルワークス.の事業領域と大坪さんの業務内容は?

いまの事業は、ものを作って売ることが基本。1日24時間、それぞれのシーンに合うオリジナルプロダクトをMOVE・WORKS・SLEEP、そしてアンダーウエアのNSKINに分けて販売している。ほかにも3D BODY SCANなど最新テクノロジーで分析したデータをもとにストレッチやパーソナルトレーニングをおこなうコンディショニングサービスも提供する。また個人向けのサービスだけでなく、ユニフォーム制作やコンディショニングサービスの企業派遣など、B to Bのプロジェクトにも力を入れているところだ。まだまだ事業規模が小さくベンチャーのようなものなので、事業部長として素材開発に始まるものづくりの部分から店づくりまで、そのすべてに関わっている。

――ブランドを立ち上げる際、苦労した点は?

以前いたノース・フェイスチームでは、ブランド哲学が確立されていたため、それほど強く意識せずとも全員が同じ方向を向いていた。ところが、ゼロからのスタートとなると、進む方向が各自バラバラに。こんなに誰もついてこないものかと驚いたが、渡辺社長から「自分ではなく、誰かが良くなることを考えて、店やものを作ればいい」と〈利他的精神〉を教えられ、それをチームに伝えていくうちに、自分たちの向かうところが見えてきた。2021年4月からチームづくりとブランド準備を始め、昨年MXPシリーズを統合し、マットレスなど新しいプロダクトを世に出してきた。5月に外苑前の店を閉店し、11月に恵比寿をオープン。ニュース発信にイベント参加と駆けまわっていたが、今年2月に体調を大きく崩して入院してしまった。だが、この入院経験がじつは大きな学びになった。人の心と体は健康なら100点、病気なら0点という100か0かではなく、健康な状態でも60点の日もあれば70点の日もある。回復の過程でそのことに気づき、70点のときに30点上げる方法を提案できる場所になろうと、思いを新たにできたからだ。先日の展示会ではこれまでにない多くの来場者があり、ようやく思っていたことが形になりはじめたと感じている。

大坪岳人(おおつぼ・がくと)2004年ゴールドウイン入社。「ザ・ノース・フェイス」アパレル部門のマーチャンダイザーとして素材開発や製品企画を担当したのち、ディレクターとして企画・マーケティングなどの全体統括に従事。21年4月「ニュートラルワークス.」事業部長に就任してからは、ものづくり・店づくりの経験を活かしつつ、バイイングなど新たな領域にも挑戦し、ブランド構築を牽引している。

――3年目の今年、どのような目標と戦略を掲げている?

これまではブランドロウンチ・準備段階だったが、今後はより多くの人に知ってもらい事業としても安定して収益化を図ることで更に良い提案ができる循環を作っていくことを目標にしている。そのために、まずはニュートラルワークス.の店舗を増やすこと。直営店の恵比寿と日比谷に加え、今年4月に梅田阪急(大阪)に進出、そして9月には吉祥寺の路面店をオープンする予定だ。とくに吉祥寺は人が多く住んでいる場所なので、土地に根づいたカフェや飲食店のように毎日通いたくなるような店づくりをしていきたい。当然ECサイトもブランドの世界観を感じられる大事なお店のひとつなので、デジタルコンテンツもより注力し拡張していきたい。こうして店舗は増やしていくものの、商品を大量生産して販売することは第一に考えていない。ほかに収益を上げる場としては、企業やチームなどに向けたユニフォームプロジェクトを進めている。ニュートラルワークス.の商品は、基本的にユニセックス。リリースを出すと、サステナブルやジェンダーレスに関心のある企業が多く、全国から問い合わせが入ってくる。その際、電話やメールで条件をやりとりするだけではほとんど成立しないが、出張のタイミングでアポをとり、直接会って商品を見てもらうと、話がだんだん膨らんで実現するケースが数多くあることがわかった。

――ユニフォームなら、学校からの引き合いもあるのでは?

22年9月に開校した「白馬インターナショナルスクール」(長野)の制服をすでに手がけている。日本初の自然体験ができる全寮制の中高一貫校なのだが、なかには1年間で身長が10センチくらい伸びる子もいるし、親の転勤で転校する子もいる。そのため、制服は学校からレンタルで支給して、使えなくなったら次を渡し、僕らが修理や再資源化する仕組みにしている。他校でも着なくなった制服を、学校のなかでうまく循環できないものかと模索中だ。またゴールドウインでは、マラソン大会の参加者から練習着を回収してTシャツを作るランナーの循環を作っているし、カンタベリーが提供するラグビー日本代表のジャージも、ファンのスポーツウエアをリサイクルして選手のオフィシャルユニフォームにしている。それは物質的な循環にとどまらず、誰かの冒険を支えたものが次の冒険につながっていく、魂の循環ともいえるもの。伊勢神宮では20年に1度、式年遷宮がおこなわれるが、古い柱は全国の神社で再利用されるという。宮大工の技術も継承される営みが1300年にわたり続けられているのは素晴らしい。こういった意味のある循環をユニフォームプロジェクトでも実現していきたいと考えている。

――それらの戦略を進めるうえで、日々どのように情報収集している?

いちばん大切にしているのは、移動すること。歩いて実感のある情報に触れ、気になったらその場で調べたり、人に聞いたり、会いに行ったりと、すぐに行動にうつすようにしている。すると必要な情報は集まってくる。1日1万5000歩を目標にしているのだが、たとえば中目黒から恵比寿まで30分かけて歩くと、道ゆく人の服装・髪型、街の様子などの情報が次々に入ってくるし、出張先を歩けば地域の特色もよくわかる。肌で感じるリアルな情報は、ライフスタイルのブランドをやるうえで欠かせない。それに、生地の手触りなどデジタルで伝わらないことはたくさんあるので、ものづくりをするには地方の工場へ実際に足を運ぶ必要がある。コロナ以降、会議がリモートでできるようになったことで、以前よりも移動しやすくなり、情報を得る機会が増えたように思う。媒体では、アニメやテクノロジーが好きなので、雑誌『WIRED』を定期購読している。メルマガは毎週月曜に届く「Lobsterr Letter」。海外情報が簡潔にまとまっているのと、視点が自分の感覚に近いと感じるので必ず読んでいる。ほかにも移動中や仕事の合間にNewsPicksやInstagramなどのSNSはチェックしているが、匿名の無責任なコメントが多いニュースサイトやネガティブなコメントが多いS Sは目にすると悲しい気持ちになることが多いので、見ないようにしている。

――収集する情報はノース・フェイス時代とどう変わった?

ノースにいたときは音楽や映画・ファッションなどカルチャーに関する情報をチェックしていたが、いまは体や睡眠など健康について気にするようになっているし、植物や農業にも興味を持つようになった。以前は仕事で山に行くことが多く、当たり前のようにアウトドアに触れていたけれど、自然のなかに身を置く機会が減った分、グリーンに興味を持つようになったのかもしれない。最近はスポーツや運動とは正反対の世界にも見えるお茶に惹かれている。先日バイオアーティスト・福原志保さんのアトリエ近くにある茶室を見せてもらった際、戦国時代の武将も茶室では刀を置いて心を整えていたという話を聞いて感心した。日々、面白い話に触れたら、メモ代わりにTeamsで社内外のニュートラルワークスに関わるメンバーに共有すると、「こんなのもありますよ」や「Netflixの番組に出てました」などとみんなも返してくれるので、TeamsがまるでTwitterのようになっている。ゆっくり読書する時間が少なく、テレビも新聞もろくに見ない生活を送っているが、チームの人たちや家族から日々仕入れている情報がかなりあると思う。

――DIGIDAY+のサービスは?

これまでデジタルマーケティングのイベントに参加したことはなかったが、ニュートラルワークス.のことをひとりでも多くの人に知ってもらいたいという思いもあり、昨年、DIGIDAYのイベント、「DIGIDAY BRAND LEADERS」に参加した。プレゼンでは専門用語が多くわからない部分もあったが、耳にする話がどれも新鮮だったし、いろいろな面白い人々ともつながれた。弊社の社長は「ブランドは人の心にあるものだ」とよく言うのだが、ニュートラルワークス.というブランドも誰かの心にあり続ける、その人にとって欠かせないブランドになりたいと考えている。タグラインを “ GET YOU READY ” にしたのもそんな思いがあったから。商品を販売したら終わり、ではなく買ったあとのコミュニティを大事にできるようなコミュニケーションを図っていきたい。そのための気づきをイベントで得られることもあるし、その場に身を置くと自分や自分のブランドがいまどの位置にいて、どこに向かおうとしているのかがよくわかる。そして何より、リアルなイベントで異業種の人に会うことは刺激になるので、これからも食わず嫌いをせず積極的に参加しようと思っている。 Written by 山本千尋Photo by 渡部幸和▶︎ビジネスパーソンの 情報活用術 Vol.1 課題を構造化した「情報の引き出し」を用意しておく:株式会社 ポーラ ブランドマーケティング部 部長 中村俊之氏Vol.2 「 界隈 」を知るためにリアルな体験と生の声は欠かせない:貝印 株式会社 マーケティング本部 広報宣伝部 次長 齊藤淳一氏Vol.3 デジタルネイティブ 世代をターゲットとする企業戦略に欠かせない情報とは?: Tastemade Japan 代表取締役社長 夏目卓弥氏すべてのデジタルマーケターに向けた会員制サービス【DIGIDAY+】はこちらからからご覧いただけます。本記事限定クーポンコード【EINBQR6ZMV】をご利用いただきますと、プレミアムプラン初回請求分が10%OFFでご利用いただけます。ぜひこの機会にご登録ください。