埼玉スタジアムでは今季最多となる4万9108人の観衆が詰めかけた一戦は、ホームの浦和レッズ、アウェイのFC東京ともにゴールに迫る機会が少なく、見どころに乏しいスコアレスドローに終わった。

 もっとも、浦和はこれで10試合負けなしで4位をキープ。20節を終えて首位の横浜F・マリノスに勝ち点6差と、優勝争いに踏みとどまっている。


J1通算500試合出場を果たした興梠慎三

【負けないor勝ちきれない?】

"負けない浦和"の肝となっているのは、相手に隙を与えない組織的な守備だろう。ここまで15失点は、ヴィッセル神戸の14失点に次いでリーグで2番目の少なさである。

 なかでも際立つのは、アレクサンダー・ショルツとマリウス・ホイブラーテンの2CBの存在感だ。在籍3年目を迎える前者はすでにその実力を証明済みだが、今季加入した後者も甘いルックスとは裏腹に、圧巻の対人能力と高精度の左足を駆使し、遜色ないパフォーマンスを続けている。

 この日は、彼らと4バックを形成する右サイドバックの酒井宏樹が開始早々に負傷交代するアクシデントに見舞われた。しかしリーグ最強とも言える2CBは90分間、一分の隙を見せることもなく、直近6試合で7ゴールを記録している相手FWディエゴ・オリヴェイラを完全に抑え込んでいる。

 一方で10試合負けなしながら、その半分が引き分けだ。うち4つがスコアレスドローと"勝ちきれない浦和"の原因は、やはり得点力不足に尽きるだろう。

 ここまで27得点はリーグ7位。とりわけ少ないというわけでもないものの、優勝を争うには物足りないと言わざるを得ない。この日も決定的なチャンスは数えるほどで、今季8度目の無得点に終わった。

「立ち上がりから自分たちのリズムを見つけることができなかった試合でした。かなりナーバスになっていたと思います。ビルドアップのスピードが上がらず、相手にとって予測しやすいものになってしまった」

 マチェイ・スコルジャ監督が振り返ったように、浦和の攻撃からはさしたる脅威を感じることはできなかった。

【興梠に代わるタレントは?】

 その原因について、指揮官は「前線の動きの少なさ」を挙げる。

「選手がポジションをスイッチしながら、ローテーションするような動きがあまりなかった。そこは私にとって少し驚きでした」

 想定外のパフォーマンスに終始した浦和のなかで、唯一可能性を感じさせたのは興梠慎三だった。

 この日、J1通算500試合出場を達成した稀代のストライカーは、老獪な動き出しで相手守備陣に揺さぶりをかけると、14分にはポスト直撃の決定的なシュートをお見舞い。30分にも「あわや」という場面を迎え、前半終了間際にはサイドでボールを引き出し、関根貴大のミドルシュートを導いた。

 後半になっても、興梠はスペースへの飛び出しや力強いポストワークで時間を生み出す。66分にピッチを退くまで、質の高いパフォーマンスを保っていた。

 その一方で、身体を張った相手の対応に苦しみ、フィニッシュに持ち込めない場面も見られる。36歳のベテランに全盛期のプレーを求めるのは酷だろう。

 かといって、興梠に代わるタレントが不在なのも事実。今季加入したホセ・カンテは徐々にフィットしつつあるものの、まだ信頼を掴みきれていない状況だ。

 ストライカーの人材不足は浦和に限った話ではないとはいえ、計算の立つ得点源がいるといないとでは、大きく変わってくる。過去の優勝チームを振り返っても、確たるエースの存在はあった。

 もちろん昨季の横浜F・マリノスが証明したように、組織を重視する現代サッカーではひとりの点取り屋に依存しなくとも、攻撃的な戦いを実現できる。そのためには、2列目の得点力が求められるのだが、現状の浦和にはその要素も不足している。

 6月シリーズの日本代表に選出されたボランチの伊藤敦樹は、端的に課題を口にした。

「今季は得点を取れない試合がけっこうありますけど、そういう試合で共通しているのは、裏への抜け出しが少なかったり、単発になってしまったりすること。そういう課題が今日も出てしまった。

 点が取れる試合では、ボールがサイドに入った時に、自分が裏に抜けたりして、そこからのクロスだったりという形が作れている。だけど、今日はそういうシーンがほとんどなかったので、チャンスも少なかった。やっぱり動きの少ない時は、点が取れていないなと感じます」

【8月の上位直接対決が山場】

 動きの少なさは暑さの影響か、あるいはスコルジャ監督が言うように「トレーニングの負荷をかけすぎたこと」が遠因となったのかもしれない。

 その精査は必要だが、いずれにせよ、複数が連動して分厚い攻撃を仕掛けるには共通理解や正確な判断だけではなく、フィジカル的な要素も当然求められる。暑さが本格化してくるなか、動きの質と量を担保できるかが、浦和にとっての大きなテーマとなるはずだ。

 浦和は8月に、首位の横浜FM(22節@8/6)、3位の名古屋グランパス(24節@8/18)との直接対決が組まれている。優勝争いを続けるために、興梠の味わい深いプレーに期待したい。