久保康友インタビュー後編

◆久保康友・前編>>「チームが『選手募集!』を貼り出してたんです。バイトのあれと一緒」
◆久保康友・中編>>日本プロ野球界を嫌う理由「残りたいとかも思わないし、残る価値もない」

「世界遺産を見て回る」という本懐を遂げるため、米国、メキシコに続き、今度はドイツへやって来た久保康友(42歳)──。

 ドイツ「野球・不毛の地」では現在、ホストファミリーの家に住みながら、休みを見つけては各地に足を延ばす日々を過ごしている。「知ってしまったら興味を失う。世界中を放浪したい」と話す久保の旅に、終わりはない。

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趣味の世界遺産巡りのために現役を続ける久保康友

── インタビュー中編では、選手のメジャーリーグ移籍に関して忌憚のない意見をいただきました。一方、日本の野球界が抱える「プロアマ規定」についてはどうお考えですか?

「意味ないでしょ。だって、うまくなりたい子を教えたっていいじゃないですか。『強いチームだけがもっと強くなるから』という理由とか、そんな話どうでもいいやん。

 みんな(元プロ野球選手が教えに)行けるようになったら、『うちは公立高校ですごい弱いんですけど、ちょっと誰か来てくれませんか?』って言う声に対して、もしかしたらその公立のある地元出身の選手が教えに来てくれるかもしれないじゃないですか。可能性を縮めてしまいますよね。しょうもないことが多いですよ、ホンマに」

── プロ野球で実績を残し、内情を知る久保投手の言葉だけに重みがあります。

「いや、だから僕、めっちゃ"宙ぶらりん"なんです。いまだに母校に行って練習するのも、申請を出さんとダメなんですよ。で、2月を越えたらもう参加できない。2月に入るとプロはキャンプに行っているから、一緒に練習することがないんです。

 昔は(プロをやめたあとは)社会人野球に入るか、就職するか、その二択。だから、僕らみたいな中途半端なプロじゃない奴らは『存在しない』んです。僕らのようなタイプのことは考えられていない。『俺ら、どこで練習したらええねん!』って感じですよ。社会人野球とかは(プロアマ規定の)しばりがないんで、そこでは練習できるんですけど。

 だから、練習できるところがなかったりしたら、独立リーグのチームに直接お願いに行って、そこで練習させてもらっていたんです。そしたら『ウチのチームに入っていいよ』って言ってもらったんで、(兵庫ブレイバーズに入った)去年はそんな流れでした」

── いろんなルールがありますね。

「ドラフトで選手を獲る時に、大人はグレーゾーンで悪いことをしよるんですよ。それがあるから、変なルールがあるんです。『ルールに則ってやっているよ』って言うても『そんなん、あからさまに悪意があるやん』みたいなことも......」

── 話を変えて、今の生活について教えてください。これまで米国、メキシコと渡ってきて、そして今回はドイツです。この国の印象はいかがですか?

「日本人の感覚に近い人がめっちゃ多いですね。僕のホストファミリーはすんごい几帳面。『この人たちだけかな?』と思っていたんですけど、けっこうポツポツいる。ハンブルクとか北ドイツの人がそういう傾向なんですかね? 南ドイツの人は明るい感じがしましたけど。

 ハンブルクの人って仕事を頼んだらすぐにやってくれるんです。そういう意味ではすごいラク。ちょっと不便があって『これ壊れたんやけど』って言った時も『どうせ2週間くらい放っておかれるんやろうなぁ』と思っていたら、その日のうちに直してくれたりとか。ビックリしました。むしろ僕のほうが乱雑で部屋も汚いし、逆にホストファミリーに対して気を遣います(笑)」

── これまでいろんな町に住んだと思いますが、どこが最も気に入りましたか?

「えーーーーっ。それ、めっちゃ聞かれるんですけど、それぞれいいところがあるんで一番は決められないですよ。メキシコは治安が悪かったですけど、物価はめっちゃ安くて、タコスが30円とか50円くらいで食えました。ドイツだとタコス1個食おうと思ったら、500円とかしますやん。『10倍やん!』って。

 そういう生活面で考えたら、メキシコはめっちゃラクですね。ドイツは快適なんですけど、生活はしんどいです。お財布の中身とにらめっこしながら、『今月使えるお金は、あとこれだけか......』と思いながら(笑)」


ドイツで再会した久保康友(左)と村田透(右)

── ドイツ語の習得はどうですか?

「まったく(ダメ)です」

── 英語は?

「英語もまったく」

── 言語はあまり得意ではない?

「得意じゃないのと、あとたぶん、興味もないんでしょうね」

── メキシコでスペイン語はどうしていましたか?

「通訳がいたんですよ。だから超快適でした。ずっと観光していましたし。試合後、チームがバスで移動しているのに、僕だけ飛行機で逆方向に行ったりとか(笑)。山に行ったり、ジャングルに入ったり......。

 日曜日にナイターで投げて、夜中の12時くらいに町中を走っているバスに乗り込んで、田舎のほうに行って遺跡を見て、そして火曜日の練習までに帰ってくる......っていう生活でした(笑)。それも通訳がいたからできたんです。ひとりやったら、できなかったですね」

── ドイツでの1日の流れを教えてください。

「朝起きて、ブランチみたいなのを食って、部屋でストレッチして、昼過ぎにジムに行って、それが終わってから練習日にはグラウンドに行きます。アカデミーがある時は子どもたちの練習を見にいきます。練習は毎日じゃないんです。多くて週3日ですね。ほかの選手はみんな働いていますから。だから練習と言っても、スタートは18時以降です」

── チームとの契約は1年ですか?

「ですね。複数年とか、ないでしょ(笑)」

── その後のことは考えていますか?

「いや。世界中、ずっと放浪したいです」

── 次に行きたい国は?

「世界遺産1位のイタリアです」

── ホストファミリーとの生活はどうですか?

「チームと契約した時、最初はルームシェアという話だったんです。だけどこっちに来る1〜2週間くらい前に急遽、変更になりました。理由はわからないです。僕、料理も何もできないし、ルームシェアだと料理や洗濯も自分でやらないといけないので、逆によかったです」

── ふだんの食事は?

「ホストファミリーが作ってくれたり、Aldi(※ドイツのスーパーマーケット)に行ってパンやソーセージや卵を買ってきて焼いたりして。ホストファミリーにキッチンの使い方を教えてもらって、それくらいはやるようになりました(笑)。

 こないだは選手みんなでスポンサーさんのお店に食べに行ったんですよ。10ユーロ(約1550円)くらいで腹いっぱい食えるんですけど、残ったものをみんなが「おい、久保! これも持って帰れ!」って。僕、残飯処理っすよ(笑)。

 あと、監督が自宅でバーベキューをやってくれたりします。「今日ホストファミリーの人たち、家におらんやろ? じゃあウチに来い」って流れです」

── 久保投手は単身赴任ですよね。ご家族はどんな様子ですか?

「『さみしいねえ、パパがいなくて』みたいな(笑)? でも、夏休みにこっちに来ます。メキシコにもアメリカにも来ました。パパだけ先に(海外に)行って、現地でいろいろ(いいスポットを)探しておいて、家族が来たら安全なところや美味しいところだけ連れて行くんです。

 自分だけが楽しむんじゃなくて、家族にも楽しんでもらわないと、成り立たないんで(笑)。まぁ、僕が(日本の)家におっても料理できないし、戦力にならないでしょ。おらんほうが"口減らし"じゃないけど、メシを作らんでいいし、家族もラクやと思いますよ(笑)」

── 趣味の「世界遺産巡り」は順調ですか?

「ドイツの世界遺産は(51カ所あるうち)12カ所くらい行きましたね。前に1週間ほど休みがあった時、南ドイツのロマンチック街道に行ってきたんですよ。最近は日帰りや1泊で行けそうなところ......リューゲン島に行ったり、あとドイツアルプスもよかったですね。

 テーゲルベルクという山には、けっこうな崖を登って上まで行きました。みんなちゃんと登山用の格好をしているのに、僕は普通の靴で行ってしもうたんですけど(笑)。僕は自然が好きなので、自然遺産のほうがいいんですよね。

 ケルン大聖堂に行った時は「すげー!」と思ったんですけど、人が多くて......。むしろ、すごい田舎の静かでマイナーな教会のほうが好きだったりします。

 次に行こうと狙っているのは、スロベニアです。スイスもアルプス周辺は全部行きたい。知り合いの旅行代理店の人に、ドイツ周辺は全部行きたいって伝えています」

── それだけ旅行に行っていたら、野球での稼ぎは......。

「そんなん、余裕で(予算)超えますよ。だから痛いんです(笑)。長く生活はできない。先進国でこの生活は厳しい。途上国だったら小遣いの範囲内でこの生活を一生できるんですけどね」

── いつかは中南米でもプレーしたい?

「野球で行けたら、一番理想なんでしょうけど」

── この生活をどのくらい続ける予定ですか?

「そんなん、考えてないですわ。飽きたら辞めますもん。でも、まだ行けてない地域がいっぱいあるんで。

 人と一緒にやっていると『なんでこの考えになるのかな...』って思うんです。それを考えていて行きつくのは、結局は『文化』とかそういうものだったりする。なので(自分の興味が)世界遺産とかになっていくんですよね」

<了>


【profile】
久保康友(くぼ・やすとも)
1980年8月6日生まれ、奈良県橿原市出身。右投右打。大阪・関大一高3年時に選抜高校野球大会で準優勝。卒業後、社会人野球の松下電器で6年間プレーした後、千葉ロッテマリーンズに自由獲得枠で入団。2005年に新人王を獲得。2009年から2013年まで阪神タイガースに在籍し、オールスター選出やリリーフも経験した。2014年から横浜DeNAベイスターズで4季プレー。日本プロ野球13年間の現役生活で97勝86敗6セーブを記録。米国独立リーグやメキシコなど海外も渡り歩き、昨年は関西独立リーグの兵庫ブレイバーズに所属。今季はドイツのブンデスリーガ1部ハンブルク・スティーラーズで白球を追う。