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新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが2023年5月8日から「5類」に移行したことで、コロナ禍でリモートワークを導入した企業の働き方も変化しつつある。

帝国データバンクが23年3月に行った調査によれば、5類移行に伴う働き方の変化について、1万1428社のうち約4割が「新型コロナ前と同じ状態」だとし、コロナ前後で働き方に変化がなかったり、従来の働き方に回帰したりする会社があったという。

コロナ前に回帰する企業の動きがある一方、SNSでは「原則出社」「テレワーク終了」に苦痛を訴える社会人の声がしばしば話題になっている。また、リモートワーク解除は離職リスクが上がるのではないかという投稿も注目を集めた。

コロナ前に比べて、転職理由でリモートワークを希望する人は実際増えているのか。J-CASTニュース編集部は、大手転職サイトを運営する3社に詳しい話を聞いた。

コロナ前への回帰と「原則出社」に抵抗感を示す声

信用調査会社・帝国データバンクは4月24日、新型コロナ「5類」移行に伴う働き方の変化に関する調査結果を発表した。調査期間は3月17〜31日で、有効回答企業数は1万1428社だ。

そのうち「新型コロナ前と同じ状態」と答えたのは39.1%。一方、「新型コロナ前と2割程度異なる」と答えたのは22.5%で、「半分以上異なる」と答えたのは15.5%だった。

「新型コロナ前と同じ状態」と「新型コロナ前と2割程度異なる」を合わせると6割を超えることについて、同社は「新型コロナ前に近い働き方に戻る傾向もうかがえた」と分析している。

「新型コロナ前と異なる」割合は、会社の従業員数に比例して高くなるという。1000人超の企業のうち52.9%が変化したと答えた一方で、5人以下(31.6%)、6〜20人(34.4%)など、従業員数が少ないと働き方の変化が少なくなる。

業界別に見ても働き方の変化に違いが見られる。「新型コロナ前と異なる」と回答した業界のうち、広告関連(60.2%)、情報サービス(54.4%)、サービス業(45.5%)などは変化が多い傾向にあったが、農・林・水産(29.5%)、建築(32.2%)、不動産(34.6%)などは変化の少ない傾向にあった。

コロナ以前に回帰する企業の動きがある一方、SNSでは「原則出社」「テレワーク終了」に苦痛を訴える声がしばしば話題になる。また、コロナ禍でリモートワークを導入した企業に入社した新入社員が「テレワーク終了」に抵抗感を示す声を上げたという投稿も注目を集めた。

リモートワークを理由とした転職は増加傾向にあるのか

「5類」移行をめぐり、転職理由でリモートワークを希望する人は増えたのか。J-CASTニュースは、大手転職サイトを運営するマイナビ(マイナビ転職)、リクルート(リクルートエージェント)、パーソルキャリア(doda)に詳しい傾向を聞いた。

「5類」移行でリモートワークを解除する企業は増えているのか。

リクルートは、「リモートワークの制度は維持しつつ、対面でのコミュニケーションが必要な時は集まるなど、企業は状況に合わせて最適な方法を検討・模索している状況かと思います」と推測。パーソルキャリアは、出社に戻す企業はやや増加しているが一部に留まる印象だとしつつ、全業種が通常の勤務形態に戻りつつあるとした。マイナビは、5月の集計が済んでいないため回答が難しいとした。

では、リモートワークを理由とした転職は増加傾向にあるのか。

マイナビは、22年に転職した人を対象にした同社の「転職動向調査」をもとに、「働き方の自由度へのニーズは以前よりも高まっていることはうかがえます」と推測する。

同社によると「給与」「勤務地」「福利厚生」などを理由に転職先を選ぶ傾向が強い中で、「リモートワーク可能」を理由にした転職は、19年は3.7%だったが、22年は11.5%と高まっている。「フレックス制度・就業時間の自由がある」も上昇傾向にあるという。

パーソルキャリアも、リモートワークを希望する転職は増加傾向にあるとする。doda内で検索された23年6月のフリーワードのランキングによれば、1位「在宅」2位「フルリモート」4位「リモート」がランクインした。

転職を検討する人など250人を対象にした22年7月の同社の調査では、リモートワークと出社勤務を組み合わせた「ハイブリッドワーク」を転職の応募時に「重視する」と約7割が答えたという。

リクルートは22年12月13〜14日のインターネット調査結果を取材に示した。20〜50代の各年代260人、計1040人の転職活動者を対象に、転職活動中に感じる不安などを調査したデータで、全世代で「希望する年収」「"転職したいと思える"仕事が見つかるか」に関する不安を抱えるという。

同調査の「転職活動で企業に提示してほしいこと」(単一回答)という問いでは、「勤務時間や休日休暇、リモートワーク実施率等の働き方に関する詳しい情報」と答えたのが40代8.8%、50代8.1%だったのに対し、30代は16.2%、20代になると23.5%に上っており、40〜50代に比べて20〜30代の関心の高さがうかがえる。

なぜ転職理由にリモートワークを希望する人が増えているのか

そもそもリモートワークのメリットは何か。3社の見解をまとめると(1)通勤のストレスが減る(2)プライベートな時間を確保できる(3)時間や場所に制約されない――などが挙げられる。一方、デメリットは(1)情報共有などが難しい(2)仕事と私生活の区別をつけにくい(3)上司や同僚とコミュニケーションを取りにくい――などがある。

出社勤務のメリットは(1)スムーズに情報共有などができる(2)上司や同僚とコミュニケーションを取りやすい(3)仕事と私生活の区別をつけやすい――などを挙げている。デメリットは(1)通勤ストレスがある(2)柔軟な働き方が難しくなる(3)オフィス内の騒音などで集中力が妨げられる場合がある――などだ。

なぜ転職理由にリモートワークを希望する人が増えているのか。

リクルートHR統括編集長・藤井薫さんは、コロナによるリモートワーク拡大で「『時間』も『場所』も自由裁量が広がり、暮らしや仕事を見直す人が増えた、ということが考えられると思います」と述べる。

マイナビも、リモートワークの拡大や働き方改革などによって「求職者の働き方の柔軟性に対する意識は高まっているものと思われます」と推測。パーソルキャリアは、先述したようなリモートワークのメリットを理由に在宅勤務の需要が増えているとした。

今後リモートワークを希望する人は増えるのか

今後リモートワークを希望する人は増えるのだろうか。リクルートの藤井さんは「増えるのではないか」とし、以下の見解を示した。

「5類移行に伴い、企業によっては出社制限を見直し、オフィス回帰を促すケースもあるかと思います。しかし、コロナ禍前の働き方に回帰させるだけでなく、働く一人ひとりにとって、より生産性高く働ける選択肢を持てるようにすることが求められているのではないでしょうか。業務の目的にあわせて、会議の場を設計するなどし、オンライン、対面それぞれの場を有効に活用していく必要があるのではないでしょうか」

マイナビは「大きな増減はなく現状と変わらないような状態が続くと考えています」としている。前出の転職動向調査では、「リモートワーク」を理由にした転職の割合は、19年(3.7%)から21年(11.3%)、22年(11.5%)と増えているものの、21年と22年で大きな差が見られなかったためだ。

パーソルキャリアは、リモートワークを希望する人の割合は今後も増えていくと推測。しかし、完全在宅勤務ではなくハイブリッドワークが主流になるのではないかとの見通しを立てている。

リモートワークの利便性や柔軟性もある一方、出社による対面コミュニケーションやチームワークの重要性もあるとし、「業務内容や個人の状況に応じて、出社とリモートを柔軟に切り替えながら、自由に『はたらく』スタイルを選べる環境がより求められるようになると考えています」と述べた。