エルサルバドル戦に続いてペルー戦でも大勝を果たした日本だが、データを見るとボール支配率では常に日本がペルーを下回る展開。「主導権を握る戦い」を目指している第2次森保ジャパンだが、カタールW杯時の堅守速攻スタイルが続いている。


サッカー日本代表はペルーに4−1と大勝。堅守速攻が目立った戦いだった

【守備時に4−4−2】

「収穫は、いいかたちで4得点を奪えたところ。ただ、まだまだチャンスの回数は増やせると思うし、チャンスを決めきるというところでは、これに満足することなく、(今後も)最善を目指していきたい」

 6−0で大勝したエルサルバドル戦から5日後、ペルーと対戦した日本が4−1で勝利を収め、試合後の森保一監督も満足げに勝利を振り返った。

 確かにペルーはFIFAランキングで21位と、20位の日本と比較しても実力的にはほぼ同格。しかし、相手は短期間で地球の裏側から韓国、日本へと長距離移動を強いられており、しかも選手個々の能力で上回る日本が万全の準備で待ち構えていたのだから、日本が勝ったこと自体は極めて順当と言える。

 ただし、開始3分以降に10人となった格下エルサルバドルとの試合に照らし合わせてみると、ペルー戦における日本の戦い方には明らかな違いがあった。どちらも決めるべき選手がゴールを決めた華々しい勝利ではあったが、試合結果とは別に、そこはこの試合でおさえておきたいポイントだ。

 では、2つの試合にはどのような違いがあったのか。

 まず、日本の基本布陣はエルサルバドル戦と同じ4−3−3(4−1−4−1)で、守備時はインサイドハーフ1人が1列上がって4−4−2を形成。今回も、基本布陣を4−2−3−1としていた試合と同じように、前線を2枚にする守備陣形を採用した。

 ちなみに、森保監督はこの試合で先発6人を変更。GK中村航輔、左サイドバック(SB)伊藤洋輝、ワンボランチにキャプテンの遠藤航、右インサイドハーフに鎌田大地、前線は右ウイングに伊東純也、1トップに古橋亨梧をスタメンで起用している。守備時に2トップの位置に移動したのは、4−2−3−1の1トップ下でプレーすることが多い鎌田だった(エルサルバドル戦では堂安律)。

 対するペルーも、基本布陣は4−4−2だった。ただし、ビルドアップ時はダブルボランチの1人(主に27番)がセンターバック(CB)の間に落ちて3バックに変化。その時は両SBが高い位置をとり、両サイドハーフ(8番、10番)が内側に絞って立つため、3−5−2のかたちになって日本陣内への前進を試みた。

【前からボールを取りに行かなかった日本】

 この対戦構図で思い出されるのは、4−2−3−1を基本布陣としていた第1次森保ジャパンの時代によく見られた、前線からの守備の課題だ。守備時に4−4−2に変化する日本は、3バックの相手に対する前からのプレスを苦手とし、その結果、自分たちで主導権を握れないケースがよくあった。

 そして、その傾向は今回のペルー戦でも変わらなかった。6−0で大勝したエルサルバドル戦では、立ち上がりから積極的に前に出たことが奏功し、結果的に11人対10人という有利な状況で主導権を握り続けたが、この試合では、序盤から日本が前から守備を仕掛けることはなかった。

「相手のボランチ1人がディフェンスラインに入ってビルドアップしてきて、アンカーを捕まえづらかったので、スタートのかたちで行くのか、変化したほうがやりやすいのかという話をした。ただ、(遠藤から)ピッチ内では対応できている、動かさないでほしい、というやり取りがあった」

 これは、2−0とした直後にピッチ脇で遠藤と話し合った内容について、森保監督が試合後の会見で明かした時のコメントだ。おそらく、ピッチサイドで戦況を見ていた森保監督も、前から守備を仕掛けられない状況が気になっていたのだろう。

 しかしながら、そんな心配もよそに、ピッチ上の選手たちは慌てることなく柔軟に対応。前から行くのではなく、ミドルゾーンで4−4−2のコンパクトな陣形を保って敵の前進ルートを遮断し、相手が網にかかった瞬間に縦に速く攻めて、効率よく勝利することに成功した。

 実際、この試合のボール支配率は、完勝した日本が41.8%しかなかったのに対し、ペルーは58.2%(前半は日本42.9%対ペルー57.1%、後半は日本40.8%対ペルー59.2%)。15分ごとのボール支配率を見ても日本が相手を上回った時間帯はなく、とりわけペルーが逆襲のアクセルを強く踏んだ後半の60分以降は、64.9%(60〜75分)、61.0%(75分〜試合終了)と、圧倒的にペルーがボールを保持する試合展開だった。

 ところがシュート数では、日本の10本に対し、ペルーはわずか4本。特筆すべきは、日本が前半に記録したシュート4本のうち、2本をネットに突き刺したことだった。試合後、ペルーのフアン・レイノソ監督はがっかりした様子で「日本のトランジションに高い代償を払った」と語ったように、この試合の明暗は、日本のポジティブ・トランジション(守備から攻撃への切り替え)が最大のカギだったと言っていい。

【三笘薫と伊東純也を生かす攻撃】

 相手にボールを握られながら、効率よく4ゴールを奪った日本の攻撃で目立っていたのが、右ウイングの伊東と左の三笘薫のスピードと技術を生かしたカウンター攻撃だった。

 たとえば前半21分、自陣で伊藤がヘッドでクリアしたボールを回収した旗手怜央が、遠藤とのパス交換で相手のプレスをはがし、素早く鎌田へ縦パスを配球。受けた鎌田が左の三笘に展開すると、フリーでパスを受けた三笘がクロスを供給し、相手ボックス内の右で菅原由勢がシュートを放つシーンがあった。

 素早いカウンターアタックから生まれたこの決定機は、菅原のシュートが相手にブロックされたことでゴールとはならなかったが、以降、日本は何度もカウンターからゴールチャンスを生み出している。

 37分に生まれた2点目も、そのひとつだ。GK中村から始まったビルドアップを板倉滉、菅原と展開。相手に寄せられた菅原が前方の伊東と抜群のワンツーで抜け出すと、中央でフリーになっていた鎌田につなぎ、それを鎌田が絶妙なコントロールで収めて左の三笘に配球し、三笘がフィニッシュ。ビルドアップ開始から、わずか20秒の出来事だった。

 また、後半63分の伊東のゴールシーンも、遠藤、鎌田、三笘と素早くつないだあとのカウンターによるフィニッシュ。伊藤のミドルシュートによる先制ゴールはパスをつないでから決めた数少ない遅攻からの一撃だったが、この試合のほとんどのチャンスは、ボールを奪ってから縦に速く攻めるかたちから生まれている。

 日本の攻撃の武器となっている伊東、三笘はもちろん、その中継役として高いクオリティを披露した鎌田の仕事ぶりも、同レベルの賞賛に値した。

【ドイツ相手に主導権を握れる?】

 もっとも、ペルー戦で成功したこの戦い方を今後も継続するかと言えば、話は別だ。第2次森保ジャパンでは、カタールW杯で感じた限界を超えるために、自分たちが主導権を握って勝利するためのサッカーを目指しているからだ。それは、続投会見以降、3月の代表ウィークの時も森保監督が口にしている目標でもある。

 諸々のアドバンテージのなかで戦った同格ペルーに対し、6割近くもボールを握られたことを考えると、仮にペルーのホームで同じ戦い方を選択した場合、もっと自陣に押し込まれる時間が長くなるのは火を見るより明らかだ。失点の確率はより高くなるはずで、勝敗の行方もわからない。

 注目は、9月に予定されるアウェーでのドイツ戦だ。ハンジ・フリック監督の進退問題に揺れるほど絶不調に陥っているドイツではあるが、それでもホームでのペルー戦とはすべての条件が異なるなかで、格上に挑むことを強いられる。

 果たして、日本は今回と同じ戦い方で目先の勝利を目指すのか。それとも、中長期的な目標を視野に、強化の一環として真っ向勝負で挑むのか。おそらくその試合の戦い方を見れば、主導権を握って勝利を目指すという第2次森保ジャパンの目標が、本物かどうかが垣間見えるはずだ。