高木豊の交流戦総括 後編

パ・リーグについて

(前編:阪神の牙城が崩れたセ・リーグ 「交流戦で勢いづいたチーム」と「活躍が気になった選手」>>)

 セ・リーグに続き、パ・リーグ各球団の交流戦を高木豊氏が総括。地力のあるオリックスやソフトバンクが11勝7敗と貯金を増やしたほか、リーグ戦では下位に低迷していた日本ハムと楽天が躍動。リーグ戦にも影響がありそうだが、高木氏はどう見たのか。


DeNA戦で本塁打を打たれ、苦笑いのロッテ佐々木朗希

【楽天と西武で明暗クッキリ】

――交流戦で状態がよくなったパ・リーグのチームはどこですか?

高木豊(以下:高木) 楽天です。オリックスとソフトバンクは、もともと交流戦、リーグでも優勝を狙えるチームなので力をしっかり示したということ。特にオリックスは山本由伸、宮城大弥、山下舜平大が6勝で、勝ち星のリーグトップタイが3人いるわけですから強いですよ。

――楽天は、具体的にどこがよかったんでしょうか。

高木 ピッチャー陣は少し心もとないですが、6月に入って浅村栄斗(.316/6月21日時点。以下同)、岡島豪郎(.328)、小郷裕哉(.333)ら3人のバッターが3割以上をキープしているように打線がいいです(交流戦のチーム打率.260は12球団中3位)。

 小郷がかなり成長したと思いますし、浅村と岡島は交流戦で打率を上げ、辰己涼介の状態も上がってきています(6月の打率.275)。キャッチャーの太田光がスクイズをしっかりと決めて1点をもぎとる場面もあるなど、打線のつながりが非常にいい感じです。

――5年目の小郷選手の成長した点は?

高木 打席での時間を自分のペースで過ごせるようになった、という感じでしょうか。今まではピッチャー主体で投げられていたのが、自分の間合いで打席に立てるようになった。それは結果を残す上で、すごく大きいことなんです。

――逆に、交流戦で調子を落としたチームはありますか?

高木 西武です。打線は交流戦の前から「厳しいかな」と思っていましたが、ピッチャーも心配です。エースの郄橋光成で勝てず、主力の先発投手を代えた後に逆転されて負けるなど、自慢のピッチャー陣がそこまで機能しなくなっています。打てない、接戦でやられる、ピッチャー陣がゲームを作れないということは、チームの崩壊を意味します。

――そんな西武で明るい材料を挙げるとすれば?

高木 渡部健人が出てきたことですね。今は4番と5番を打っていますけど、将来的に4番で固定されてほしい選手です。他にも、育成出身で3年目の長谷川信哉も印象に残る活躍をしたり、ぼちぼち新しい戦力は出てきているのですが......「軸」がいないです。

 あと、松井稼頭央監督の采配に迷いがあるようにも感じます。(6月14日の)巨人戦では手違いで投手交代が認められないことがあったり、「大丈夫なのか」と心配になるベンチワークがあったり......。それは選手も見ています。就任1年目で仕方がない部分もありますが、監督の迷いは選手にも伝染しますからね。

【ロッテの佐々木が打たれたのは「おかしい」】

――先ほど、楽天の小郷選手の話が出ましたが、他に交流戦で気になったバッターはいましたか?

高木 ソフトバンクの近藤健介の状態がものすごくよくなりました。シーズン序盤は苦しんでいましたが、いよいよ実力を発揮し始めた感じです。「出塁率がいいバッター」から、「勝負を決められるバッター」に印象が変わりましたね。四球の数や出塁率が落ちても、打点は日本ハム時代よりいいペースで増えていっています。嫌らしいバッターから怖いバッターになりつつあると思います。

――オリックスの頓宮裕真選手も交流戦の打率が.359、紅林弘太郎選手も同.377とハイアベレージを残しました。

高木 頓宮はタイミングの取り方が変わりましたね。(投手側の)左足を遊ばせるようになって、タイミングを取る時の"間"に余裕が生まれた。交流戦で6本ホームランを打つなど長打も出ていますし、ひと皮むけましたね。

 紅林に関しては、大卒2年目の野口智哉らが起用される時期もあったので、刺激を受けたんでしょう。中嶋聡監督が野口を使うタイミングはうまかったですよ。見事に紅林の尻に火がつきましたね。

あと、日本ハムの加藤豪将もいいですよ。交流戦の終盤は調子を落としましたが、序盤の巨人戦では2試合連続でホームランを打つなど目立っていました。メジャーのマイナーでさまざまなピッチャーと対戦した経験によって、対応力が培われたんだと思います。

――交流戦でよかったパ・リーグのピッチャーは?

高木 数字的に見ると、実力をそのまま示したのがオリックスの山本由伸(3勝0敗、防御率.0.38)。さすがでした。意外だったのは、ロッテの佐々木朗希が2敗したことです。

――佐々木投手が2敗した要因はいろいろあると思いますが、主な要因は?

高木 まず阪神には、足でやられました。盗塁され、ワイルドピッチもあり、大山悠輔にライト前にタイムリーを打たれた。次のDeNA戦で思ったのは、やはり狭い球場(横浜スタジアム)では、佐々木といえども一発を打たれるリスクが高いということです。

 あと、キャッチャーが佐々木のワンバウンドのボールを止めなきゃいけません。野茂英雄がロサンゼルス・ドジャースに移籍した時、(マイク・)ピアッツァも、「野茂のフォークを弾いているようではダメだ」とワンバウンドを止める練習をしたらしいんです。

 佐々木のフォークのスピードは1段階上ですから、それを止めるのは非常に困難ですが、それをやらないと彼は思い切って投げられなくなります。DeNA戦では真っ直ぐもフォークも打たれていましたけど、「佐々木がどんな球種を投げても打たれる」という状況はおかしい。だから、思い切り腕を振れる状況をキャッチャーが作ってやらないといけません。

【楽天、日本ハムはAクラスも見えてくる?】

――今後、リーグで勝ち星を伸ばしていきそうなチームは?

高木 楽天がリーグ戦でも勢いを持続しそうです。(6月20日の)ヤクルト戦では打線が沈黙しましたが、以前よりも打線がつながるようになって、"気持ちのつながり"もできてきたんじゃないかと。

 交流戦に入るまで、援護がないことに泣かされていたピッチャーも変わってきたでしょう。今の打線なら、「粘って投げていれば追いついてくれる、逆転してくれる」という気持ちで投げることができると思います。

 あとは、島内宏明の復調を待つばかりですね。彼が本来の状態に戻ってくると、打線により厚みが出て、相当に厄介なチームになりますよ。代打でヒットを打つ場面もありますけど、やはりスタメンに入らなきゃいけない選手です。

――日本ハムは4連勝して交流戦を勝ち越し。最後のDeNA戦(6月19日)も接戦を制するなど、チーム力の高まりを感じます。

高木 そのDeNA戦は8回に2点差を追いつき、延長10回に万波中正が決勝ホームランを打って勝ちましたが、あの展開をひっくり返せるのは力がついてきた証拠だと思います。ただ、日本ハムのミスは、勝敗に関わるようなミスが多いんですよね。それが減るとAクラスを狙えるはずです。交流戦の終盤で清宮幸太郎や石井一成が戻ってきたのも、今後に向けて明るい材料です。

――6月23日から再開されるリーグ戦では、オリックスとソフトバンクの首位攻防戦があります。

高木 6月に入って、ソフトバンクは柳田悠岐が打てていない。ピッチャー陣がいいオリックスと戦う際に、柳田が不発だと厳しくなります。山本が初戦の23日に先発する可能性が高いようですし、ソフトバンク打線がどう立ち向かっていくか。近藤は好調ですが、柳田の結果がポイントになると思います。

 他チームでいうと、ロッテは佐々木で白星をとれないと苦しいですね。彼が勝てるかどうかは、順位にも大きな影響が出るでしょう。ピッチャー陣の不安は、西野勇士や種市篤暉。故障明けですし、ここ数年は1年間フルで投げていない。屋外球場が本拠地ということもありますし、夏場の戦いで持ちこたえられるのか。

 オリックスは2連覇していて1年間フルに戦っている実績もあるし、経験値という意味でも一枚上手。昨年悔しい思いをしたソフトバンクと、一昨年悔しい思いをしたロッテがどう立ち向かっていくのか。交流戦で勢いづいた楽天や日本ハムがどう絡んでいくか。パ・リーグは今後も目が離せません。

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。