「さすがはA代表」の結果だったペルー戦は強化として理に適うものだったのか
日本代表がペルー代表に4−1と勝利した。スコアだけでなく、内容的に見ても高評価に値する試合だったと言えるだろう。
難敵ペルーを相手に4−1と快勝した日本代表
試合は立ち上がり、ペルーが日本の機先を制した感があった。
ペルーは4−4−2をベースとしながらも、2ボランチの一枚がDFラインに落ちてビルドアップに加わり、両サイドバックを高い位置に押し出す可変システムをうまく活用。一方、守備でも日本の4バックに高い位置からプレスを仕掛け、アグレッシブな戦いを挑んできた。
さらに言えば、ペルーのフアン・レイノソ監督が「ウォーミングアップの時から大きな声援でモチベーションを高めてくれた」と話していたように、スタンドの一角を占めたペルーのサポーターが送る大声援も、遠く南米からやってきた選手たちの背中を押していたに違いない。
しかしながら、そんな時間も長くは続かなかった。
日本は攻守両面で、ほどなくペルーの戦い方に対応。前半10分あたりから徐々に相手ゴールに迫るシーンを作り始めると、その後はほぼ主導権を握り続けた。
もちろん、1失点の他にも日本にピンチはあったが、「3点目、4点目がかなり大きなダメージを与えた」というレイノソ監督の言葉どおり、効率よく追加点を重ねたことで勝負という点では危なげなかった。
あくまでもホームで行なわれた親善試合であり、いくらか割り引いて評価する必要があるとはいえ、MF三笘薫やMF伊東純也あたりは明らかにアジアレベルを超越したプレーを披露した。
しかも、南米のクセモノを相手に、MF久保建英やMF堂安律をベンチに座らせたまま、これだけの高い攻撃力を発揮できるのだから、攻撃陣のレベルアップと層の厚さは驚異的ですらある。ヨーロッパにおける2022−2023シーズンを通じて、それが一気に加速した印象だ。
森保一監督も、「可能な限り誰と組んでも機能するトライをしながら、最善最適な組み合わせを考えたい」「スタートから出る選手と途中から出る選手がつながって勝利できるようにしたい」とうれしい悲鳴を上げていたのも頷ける。
とはいえ、充実の攻撃陣に負けず劣らず目を引いたのは、後ろからチームを支えたふたりのセンターバック、すなわち谷口彰悟と板倉滉である。
それは、先頃行なわれたU−22日本代表のヨーロッパ遠征からの流れで、この試合を見ていたせいもあっただろう。A代表とU−22代表では、センターバックの能力に大きな差があることを実感させられるシーンは多かった。
具体的に言えば「攻撃の起点となれるか否か」の違いである。
U−22代表のセンターバックがよほどフリーにならない限り、自ら前にボールを運んだり、前線に縦パスを打ち込んだりすることができなかったのに対し、A代表組は相手にプレスをかけられても落ち着いてボールを扱い、相手の動きの逆をとって自ら持ち運ぶことができていた。
遅攻であろうと、速攻であろうと、ペルー戦での日本に攻撃が滞る様子は見られなかった。
昨年のカタール・ワールドカップから、キャプテンのDF吉田麻也が抜け、DF冨安健洋を欠いてもなお、センターバックがこれだけの安定したプレーを見せられるのだから、さすがはA代表である。
だが、そんな谷口や板倉もワールドカップメンバーであり、"ポスト・カタール"で台頭してきた新戦力ではない。そんなふたりが、6月の2試合にそろってフル出場。3年後のことを考えると、喜んでばかりもいられない。
実際、A代表メンバーを脅かす存在となることが期待されるU−22代表組は、まだまだ力不足というのが現状なのだ。
それはセンターバックだけの話ではない。
ペルー戦に先発出場したDF菅原由勢、MF旗手怜央、FW古橋亨梧にしても、ワールドカップメンバーからは漏れたとはいえ、そこに名を連ねていても不思議はなかった選手たち。いわば、カタール以前からの戦力である。今年になって台頭してきたような、本当の意味での新戦力ではなかった。
A代表出場2戦目の中村敬斗がエルサルバドル戦でゴールを決めたが、厚みを増した選手層に、さほどの新鮮味があるわけではない。
その一方で、久保を除けば、今回パリ世代(22歳以下)から唯一の招集となったMF川粼颯太は、2試合を通じて出場機会はなし。森保一監督によれば、「少し足を痛めていたので、この強度のなかでプレーするとケガのリスクがある」とのことだったが、3月シリーズに招集されたパリ世代の選手を含めても、試合に出場できたのはDFバングーナガンデ佳史扶だけ。DF半田陸も川粼同様、試合出場の機会がないまま3月のA代表活動を終えている。
パリ世代には、国内外を問わず、所属クラブで出場機会を減らしている(失っている)選手が多く、そもそもA代表招集に値する選手が少ないのは確かだ。
力が足りないから試合には出られない。それだけのことだと言われてしまえば、返す言葉がない。
しかしだからこそ、パリ世代の選手をA代表に抜擢し、世代全体に刺激を与えることも必要なのではないだろうか。せっかくA表に呼んでも試合で使わずに帰してしまうのでは、その波及効果は半減だ。
ましてU−22代表は、3月、6月とA代表が親善試合を行なっているのと時を同じくして、ヨーロッパ遠征で強豪国との対戦を重ねているのである。どうせA代表に呼んでも試合に出られないのなら、U−22代表の活動を優先させたほうが、選手にとってもよほど有益なのではないだろうか。そこにチグハグな印象があることは否めない。
確かに、ペルー戦はいい試合だった。
だが、日本代表(A代表)に求められているのは、3年後の成果であり、今の試合結果や試合内容は、それほど重要なものではない。
そして3年後に結果を残すためには、五輪世代(U−22代表)の台頭が必要不可欠であることは、これまでの歴史が証明している。
A代表とU−22代表との戦力的乖離。それをいかに縮めていくかが、3年後の成果を最大にするためのカギである。