日本代表の泣き所に光明 史上最高に充実の攻撃陣の起用法に杉山氏が求めること
日本代表が国際親善試合でペルー代表に勝利。長年 、サッカー日本代表の取材を続け、辛口批評で知られる杉山茂樹氏が、現地スタジアムで見出した光明があった。ベテランライターがとくに期待するFWとは――。
4日前、釜山で韓国に1−0で勝っているペルーは、5日前、豊田でエルサルバドルに6−0で勝った日本をどれほど苦しめるだろう。世界ランク20位の日本に対しペルーは21位。ランクにふさわしい接戦を期待した。
メンバー表を見て驚いたのはペルーの平均年齢の高さだった。スタメンの平均年齢は30歳を超えていた。39歳の1トップ、パウロ・ゲレーロを筆頭に、30代の選手が7人もいた。サッカーそのものも古かった。布陣こそ攻撃的な4−3−3だったが、案の定、日本の最終ラインに厳しいプレスをかけることはできなかった。
開始直後から日本のペースで試合が進むと、10番をつける左ウイング、クリスティアン・クエバは、いたたまれずにフラフラとポジションを離れ、最終ライン付近まで下がったり、真ん中に寄ったり、いろいろなところでボールを触りたがった。中心選手がこうした動きをするチームは弱い。ボール支配率で上回っても、奪われた瞬間、大ピンチになる。
実際に日本の右サイド(菅原由勢、伊東純也)は、自ずと数的有利になった状況を活かし、縦へグイグイと進出した。ペルーにとってこれは危ない局面。伊藤洋輝の先制弾(前半22分)は、ペルーの古典的なサッカーを心配した矢先に生まれた。
終わってみれば4−1。ペルーは日本にあっさりと敗れた。アウェー戦だったことを差し引いても、2−0程度の差は厳然と存在した。そこは踏まえるべき前提となるが、内容的にも見るべき点は確実に存在した。
古橋亨梧が森保ジャパンの試合に最後に出場したのは昨年9月、デュッセルドルフで行なわれたエクアドル戦だ。今回のペルー戦は、そこで先発を飾って以来の出場だった。
ペルー戦に先発、後半16分までプレーした古橋享梧
古橋は11月に開催されたカタールW杯メンバーから落選。森保一監督続投後に行なわれた3月の試合(ウルグアイ戦、コロンビア戦)でも招集外だった。古橋が外れている間、代表の1トップを務めたのは浅野拓磨、前田大然、上田綺世、町野修斗の4人。少なくとも代表の1トップ候補として、古橋は森保監督から5番手以下の評価を受けてきた。一方でその間、ご承知のとおり、所属のセルティックでは大活躍。スコットランドリーグ得点王に輝いている。
【プレーのレベルが上がった古橋】
ペルー戦は、古橋に対して目を凝らすべき試合でもあったのだ。伊東(右ウイング)、三笘薫(左ウイング)の力はわかっている。遠藤航、鎌田大地しかり。古橋と似た境遇にあった旗手怜央は、先のエクアドル戦で合格点がつけられるプレーを見せた。攻撃陣のなかではただひとりフルタイム出場を飾り、このペルー戦でも連続してスタメンを飾った。カタールW杯に連れて行くべき選手であったと森保監督が後悔したかどうか定かではないが、評価を上げる活躍をしたことは疑いの余地がなかった。では、古橋はどうなのか。
得点を挙げることはできなかった。しかし、伊東のクロスボールに飛び込みヘディングで惜しいシュートを放った前半14分のプレーを皮切りに、両サイドから送られてくるチャンスボールに反応鋭く飛び込む姿は、筆者の目に眩しく映った。
日本の中盤と両ウイングは、10段階で言えば7がつけられるレベルにある。まさに粒ぞろいで、優に2チーム以上作ることができそうなほどである。招集されていない選手にも7を付けたくなる好素材は複数いる。日本のストロングポイントと言える。だが他方で、CF、1トップは泣き所だった。代表チームの問題というより、日本サッカー界が長年抱える大問題だった。
2018年ロシアW杯で1トップを張った大迫勇也は、そうした意味で救世主だった。彼の存在なしに、ベスト16入りは語れない。その大迫を森保監督はカタールW杯のメンバーから外した。古橋の落選より大きな話題を集めたものだ。
5日前に行なわれたエルサルバドル戦でスタメンを張った上田との比較で言えば、古橋は迫力、躍動感、存在感で勝った。日本が誇る看板ウイング、伊東、三笘、さらにはこの日、インサイドハーフと言うには高めの位置でプレーした鎌田にも負けていなかった。ポストプレーに特長がある大迫とタイプは異なるが、この1年間でプレーのレベルはさらに上がった印象だ。現在28歳。大器晩成型とは古橋のことを指す。2026年北中米W杯まで十分いけそうな可能性を感じさせた。
【三笘をフル出場させてはいけない】
というわけで、日本の攻撃陣、少なくとも中盤から前は、穴が見当たらない状態にある。先述のとおり層も厚い。日本サッカー史上最高の充実ぶりと見る。問題は飛び抜けた選手がいないことだ。チャンピオンズリーグで優勝を狙うビッグクラブでプレーする10段階で8以上がつけられる選手である。
となれば、日本の成績は監督の采配力に委ねられることになる。W杯で前回以上の成績を望むのなら、理屈的には監督こそ10段階で8以上の人物が必要になる。選手のレベルを確実に上回る監督だ。森保監督は監督として8以上のレベルにあるのか。
エルサルバドル戦後に記した原稿でも触れたが、ホームで行なわれる親善試合で、日本が格上の相手と対戦する機会は、今後ほぼゼロだ。アジア枠が8.5にまで拡大したW杯予選も楽々突破できるはずだ。不成績を理由に、森保監督が解任される可能性は極めて低い。
また、レベル8以上の、いわゆる世界的な監督を招くには莫大な費用が掛かる。円安、物価高も輪をかける。すっかり経済が弱った極東の国にあえて来てくれるお人好しの名将はいないだろう。森保監督はそうした意味でも変えにくい状況にある。続投するならば7の力を8に自ら上げる努力が必要になる。
その意味で、三笘をフルタイム出場させてはダメだと思う。前田を起用する時間も短すぎた。瀬古歩夢も同様。最低20分はプレーさせないと招集した意味は薄れる。試合後、森保監督は会見で「日本にはこの他にもいい選手がいっぱいいる」と語った。「いい選手には経験してもらいたい」とも述べている。頭ではわかっているが実行できない状態にあるというわけだ。
エルサルバドル戦(A)=守田英正、旗手、堂安律、三笘、上田、久保建英
ペルー戦(B)=遠藤航、旗手、鎌田、三笘、古橋、伊東
上記は、今回の2試合に先発した中盤、前線の選手だ。ダブっているのは2人(旗手、三笘)のみ。「2チーム分」と先述した理由だが、他にもいい選手がいっぱいいるなら、(A)、(B)どちらか1チーム分は休ませてもいい。若手中心の(C)を作り、今回は(A)と(C)、次回は(B)と(C)という組み合わせで代表を編成し、多くの選手を使いながら親善試合、アジア予選を戦う。そのぐらいの余裕が日本にはある。
2026年本大会まで、ほぼ格下としか対戦できない課題をどう克服するか。可能性のあるすべての選手をテストすることこそが有効な強化方法。人気があるからといって特定の選手を引っ張りすぎるのは愚行である。