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ツイッター上で在日コリアン2世の父と自身に対する差別的な「ヘイト投稿」をされたとして、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんが、投稿したとされる男性に対して、195万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁(目代真理裁判長)は6月19日、男性に33万円の賠償を命じた。

原告側は、「お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」などのツイートが差別的言動にあたると主張。被告側は、自分が投稿したものではなく、投稿内容も不法行為に当たらないなどと争っていた。

安田さんは記者会見で、「被害の深刻さを伝えるために、こんなに肩に力を入れなければならない社会なんだと感じながら、(提訴からの)1年半を過ごしてきた」と振り返り、ツイートが違法と認定されたことに「正直ほっとしている」と話した。判決には「もっと踏み込んで欲しかった思いもある」とし、今後控訴するかどうかは検討中だという。

●ツイートは「差別的な表現で名誉感情を侵害する」

問題のツイートは2020年12月に投稿された。

安田さんは、ツイートが、(1)本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利を侵害する不法行為、(2)本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティを侵害する不法行為、に当たると主張していた。

判決はまず、ツイートはアカウントに「ログインをした被告によってされたものと推認するのが相当」とし、男性によるものであると認定。

(1)については、「権利や法律上保護された利益を認める余地がある」と言及しつつも、今回のツイートは安田さんを「地域社会から排除することを扇動するような表現とまではいえない」と判断し、不法行為の成立を否定した。

もっとも、(2)は「自己の出自に関する人格権としての個人の名誉感情(憲法13条)の侵害」を主張するものであるとし、「韓国にルーツを有することを理由に侮辱する表現を含むもの」であり、差別的な表現で安田さんを侮辱し、名誉感情を侵害する不法行為と結論づけた。

●安田さん「法整備の遅れは命にかかわる問題」

安田さんの代理人を務める神原元弁護士は、(1)が認められなかったことについては「若干不満がある」としつつも、認める余地があることを示したことには「次につながる可能性のある判決」と評価。賠償額についても「侮辱にしては比較的高い」とし、「裁判官も差別的表現はけしからんとして、この金額を出したのでは」と話した。

安田さんは会見で、「訴訟を通して何が伝えられるだろう。(社会に)何を投げかけられるだろうか」ということを意識してきたと話した。

「国連から長らく勧告を受けている政府から独立した救済機関があれば、裁判をするまでもなく迅速な救済がなされたかもしれない。もし包括的に差別を禁止する法律があれば、差別は違法という判決がもっと出やすくなっていくかもしれない。構造的な問題が伝わればということを意識してきました」

「差別のない社会を目指すためには、個々人の努力だけの問題に矮小化するのではなくて、法整備の遅れは命にかかわる問題なのだということを踏まえた上で、仕組みとして前に進める必要があるのではないかと判決を通して感じました」

安田さんは、賠償金など金銭目当ての「被害者ビジネス」と言われることにも言及。「私から明確に否定をしておきたい」と語気を強めた。

「被害を受けた側は、被害を回復させる権利がありますし、賠償金を受け取るということは何ら否定されることではない。また、匿名の投稿者を特定し、本裁判を起こして、意見書を書いてもらうなどのプロセスを考えたとき、(結果的に勝訴しても)労力や負担の方が圧倒的に大きくなってしまう現状があります。

『被害者ビジネス』と安易に口にすれば、被害者の声をますます封じるような言葉として響いてしまうのではないでしょうか」

安田さんはいわゆる「ヘイト投稿」が注目を集めなかったとしても、「誰でもいつでもアクセスできるリスクが残り続ける。(投稿そのものが)矛先をむけられた側にとっては大きな苦痛」と指摘した。

●別の男性とは和解成立も「いきなり違約金」振り込まれる

安田さんは当初、前述のツイートとは別の差別的な投稿をしたとされる30代男性も提訴していた。

提訴後に男性の代理人弁護士より「投稿した事実は認める」「深く反省しているため和解を提案する」との連絡があったという。

裁判所から和解を勧められたこともあり、男性が解決金10万円を支払うほか、全国心理業連合会が主催する「加害者プログラム」の受講を義務付ける内容を盛り込んだ和解が成立。和解案には受講しなかった場合には違約金40万円を課す条項も含まれていた。

この男性は和解成立後、事前の通達もなく違約金を振り込んできて、プログラム受講には至らなかったという。