「タケ(久保建英)は自分に対する要求が強い選手で、どんどん周りも巻き込んでいく」

 レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のチームメイトはそう言って鼻白む。2022−2023シーズン、多くの関係者がチームMVPに推し、ラ・リーガのベストイレブンに入れているのも不思議ではない。スペイン人も驚くほどの野心と熱量なのだ。

 それは22歳になった日本代表、久保建英の異能と言える。

「ラ・レアルはマジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェと違い、能力の高い選手が多く、その環境が久保の才能を爆発させる触媒になった」

 これは現地で定着している見解だが、実はシーズンの終わりにはやや変化している。それは「ラ・レアルに変化を起こしたのは、久保ではないか」。そうでなければ、ラ・レアルがチャンピオンズリーグ出場権獲得という歴史的シーズンをすごした説明がつかないからだ。

 久保にはとにかく勝利が似合う。クラブにとって特別なアスレティック・ビルバオとのバスクダービーを制し、あるいはマンチェスター・ユナイテッド、バルセロナ、レアル・マドリードというビッグクラブも下した。前線の選手がケガや不振でシーズンを通した活躍ができないなか、久保だけはタフに戦い抜いた。とりわけ9得点した試合は全勝という記録は目覚しい。

 自らに要求しながら、周りと手を結び、限界を越える。そのプレーは彼の真骨頂だが、エルサルバドル戦でもその一端が見られている。

 6月15日、豊田。日本代表の久保は、4−1−4−1の右アタッカーで先発している。結果は、1得点2アシスト。相手はレベルが二つ、三つ下だったとは言え、6−0という大勝に貢献し、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれている。


エルサルバドル戦で1ゴール2アシストの活躍を見せた久保建英

 特筆すべきは久保の味方を生かす技術の非凡さだろう。

 開始直後、三笘薫が左サイドでファウルを受け、FKを得る。キッカーになった久保は左足で蹴って、谷口彰悟の頭に合わせて先制点をアシスト。谷口の高さやパワーを最大限に生かすように、ファーに落とし込む重い球質だった。

【欧州のトップレベルで戦う者同士の間合い】

 その後はスルーパスを何度か狙うが、これはタイミングが合わない。むしろミスだったが、ゴールに向かってトライするなかでアジャストさせる不敵さがあった。16分には、左から入ってきたクロスを自ら左足で合わせる。これは、わずかに左へ逸れた。21分には旗手怜央が打ったボレーシュートのこぼれに反応し、左足を振るがこれもバーの上へ外れた。
試合後に本人も認めているように、決めるべき場面だったが、覇気を漲らせてゴールに迫ることでタイミングは合ってきていた。

 そして25分、左からの攻撃に久保がするすると中央へ寄る。攻防のなかで一度は失ったボールを三笘が取り返すと、そのパスをエリア外で待って左足ダイレクトでゴールに流し込んでいる。いわゆる阿吽の呼吸で、ディフェンスが並び立つなか、針の穴を通す一撃だった。本人は「一番簡単」と振り返ったが、高難度のシュートだ。

「基本的に三笘選手は単独でできちゃうんです。でも、あそこまで高い位置だと、縦に行くよりは中に切り返すかなと思って。いい位置にいたらリターンあるかな、という軽い気持ちでした」

 久保はそううそぶいたが、その感覚こそサッカーの真理だろう。

「(久保)建英が見えて、左足で打てるような位置にパスすることだけ考えました。切替のところはチャンスになるので」

 呼応するように、三笘も淡々と語った。

 欧州でトップレベルの戦いに身を置いた者だけが知る間合いだろう。高い次元で、それぞれのよさを出し合う。勝つための術が、意識に刷り込まれているのだ。

 もっとも、コンビネーションの確立は一朝一夕ではいかない。

 31分には、三笘が得意とする左サイドからのカットインから守備を切り裂き、久保がパスを受ける。しかし、時間と選択肢がありすぎたか。迷った結果、本人も天を仰ぐ不本意なプレーになっている。

 森保ジャパンの「守りありき」の構造上、これまでふたりが並び立つ機会は決して多くなかった。あったとしても、それぞれが守備のタスクに追われていた。しかし、ゴール前の高い位置でふたりがイメージしたボール交換ができたら、十分に能動的に戦えるのだ。

 驚くべきことに、森保ジャパンではこの日先発した前線の選手たちが1年少し前まで冷や飯を食っていた。指揮官が彼らの実力やキャラクターを見抜き、勇敢に戦えるか。それ次第で、日本サッカーは列強とも対等に戦えるようになる。

 久保と三笘のふたりが近づくと、何かが起きそうな予感があった。それこそ、この試合の最大の収穫かもしれない。

 60分、久保は右から中央にボールを運び、相手をずらし、得意のゾーンに入る。左からエリア内に入った中村敬斗を見つけ、完璧なラストパスを送っている。すでに三笘は交代で下がっていたが、同じポジションに入った中村の動きも見えていた。後半に入って、前半のように左からチャンスを作れなくなっていたが、久保は作り手に転じ、見事にゴールをアシストした。

 65分に交代で下がった久保は、自信に満ちていた。ラ・レアルでコンビネーションを磨き上げ、ビッグクラブも倒した成功体験によるものか。代表では三笘とだけでなく、他の選手とも連係が光っていた。

 6月20日は大阪で南米の伏兵ペルーと戦う。久保の新章は始まったばかりだ。