■『今こそ女子プロレス!』vol.11

リアラ 後編

(前編:歌舞伎町の「伝説のキャバ嬢」のレスラー人生は飲みの席での叫びから始まった 丸藤正道に「プロレスラーになりてえ!」>>)

 伝説のキャバ嬢、リアラ。歌舞伎町でNo.1になり、1日最高29卓被り、バースデー月指名500組、3年連続シャンパンタワーを達成。カリスマキャバ嬢・愛沢えみりのプロジェクトメンバーにも抜擢された。しかし、子どもの頃からの夢はプロレスラー。夢を諦めきれなかったリアラは、32歳にしてプロレス界に足を踏み入れる――。


歌舞伎町の「伝説のキャバ嬢」から、プロレスラーになったリアラ

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 サイバーファイトの高木三四郎社長に「挑戦したほうがいい」と言われ、入門することになったのはガンバレ☆プロレスだった。なにかしらの挫折経験があり、波乱万丈な人生を歩んできたレスラーが多く集まる団体だ。高木社長はリアラのなかに、ガンプロで輝ける要素を見出したのだろう。

 リアラは運動経験がまったくない。前転すらまともにできず、最初の3カ月間はコーチとマンツーマンで練習をすることになった。しかし、合同練習に参加するようになると、甘えられない状況に追い込まれてしまう。もともとメンタルが強いほうではなく、相談する同期もいない。毎日泣いて過ごした。

「でも、どうしても辞めたくはなかったので、思いきって先輩の長谷川美子さんにTwitterでDMを送ったんです。『どうやったら倒立ができるようになりますか?』って。そうしたら『よかったら一緒に練習しませんか?』と返事をくれて。2人でスポーツセンターに行って、倒立を教えてもらったんです。長谷川さんのお陰で踏ん張れました」

 そこからは、ガンジョ(ガンプロの女子部門)の先輩たちに、どんどん本音をさらけ出せるようになった。それとともに、より厳しく、より優しく、より熱い練習ができるようになった。

 2022年10月の大会で、リアラが練習生であることが発表された。しかし12月の後楽園ホール大会でも、デビューについての発表はなかった。「1年でデビューできなかったらクビ」と言われている。クビまでのカウントダウンが始まってしまった......。焦りが募り、家に帰って泣いた。

 しかし、その夜、YuuRIがこんなツイートをしてくれた。「ガンジョは6人でガンジョだから、リアラさんも早くデビューできるように頑張ろう」――。自分を気にかけてくれていることが嬉しくてたまらず、さらに涙が止まらなくなった。

【「あんたの人生は、もうあんたひとりのもんじゃないんだよ!」】

 4月1日、横浜ラジアントホール大会で、春日萌花とエキシビションマッチを行なった。ピンクのガンジョTシャツを着用し、入場曲はまだない。春日はリアラを容赦なく叩き潰した。リアラはやられっぱなしだったが、どれだけやられても立ち向かっていく姿は観客の胸を打った。

そして5月5日、ついに後楽園ホール大会でデビューすることが決まった。

 デビュー戦の3日前、春日と再びエキシビションマッチを行なった。「練習生」と書かれた黒いTシャツを着て、無音での地味な入場だった。しかし試合が始まると、リアラは攻めた。攻めて攻めて攻めまくり、前回のエキシビションから大きな成長を見せつけた。

 試合後、春日はマイクを取り、リアラに向かってこう言った。「あんたの人生は、もうあんたひとりのもんじゃないんだよ! 今こうやって見に来てくれているお客さんが、全部気持ちを乗せてくれているから、もうあんたの人生はあんただけのもんじゃないんだよ!」――。リアラは泣き崩れた。春日は重度の腎不全を患う姉に腎臓を提供するため、6月から欠場することが決まっていた。

「春日さんのあのマイクで、すべて辻褄が合った。腎臓の移植手術をする直前に2回もエキシビションをやるって、春日さんが『うん』って言わなきゃ実現しないじゃないですか。春日さんも私がデビューするのを手助けしてくれたんだなと思ったら、ブワァってなりましたね。

 それまで私は、早くデビューしたいとか、不安だとか、勝ちたいとか、自分本位だったんです。春日さんのマイクを聞いて、違う角度の見方ができた。ファンの人の気持ちも乗せた試合がしたいと思いました」

 そして迎えた、デビュー戦。対戦相手のYuuRIにコテンパンにやられた。しかし、テクニックが足りなくても、スタミナが切れても、泣き叫びながら立ち向かっていったリアラ。そんな彼女を、誰が笑えるだろう。子どもの頃からの夢を叶えるため、1年間、必死にもがき続けた彼女を、一体誰が笑えるだろう。最後に放ったヨロヨロのドロップキックは、彼女がこれまで身に着けてきたどんな宝石よりも輝いていた。

【「現役キャバ嬢レスラー」という唯一無二の存在に】

 練習生時代は、週3日練習、週3日キャバクラ勤務というスケジュールだった。今はキャバクラは予約制にしているが、出勤は続けている。「現役キャバ嬢レスラー」という唯一無二の存在として、プロレスの間口を広げたいとリアラは考えている。

「デビューしたてで言える口ではないんですけど、自分を知ってくれている人が『リアラちゃんってプロレスもやってるんだ』から入ってもいいですし、『リアラちゃんってキャバ嬢もやってるんだ』でもいいですし、とにかく私の周りから広がってほしいなと思っています。プロレスをもっとメジャーにするために、キャバクラで宣伝するでもいい。いろんな方法を使って広めたいですね」

 7月9日、ガンプロ年間最大のビッグマッチが開催される。会場は昨年に引き続き、2度目となる大田区総合体育館だ。リアラはポスターができ上がるまで、自分が出場できるのかどうか半信半疑だったというが、対戦相手はウナギ・サヤカに決定した。

「ずっと憧れだったウナギ・サヤカさん。ここにきて私に大きなチャンスがきました。
外の人にも見ていただけるチャンス。私が"ガンプロのリアラ"という爪痕を残して、ウナギ・サヤカ戦を飛躍の試合にしてみせます」

 子どもの頃に見ていたレジェンドたちとも、いつか闘ってみたいという。

「アジャコングさんとか、井上京子さん、井上貴子さん。『キッスの世界』(全日本女子プロレス所属のレスラー4人による、つんくプロデュースの歌手ユニット)が好きだったので、高橋奈七永さんとか。もちろん、技術が追いついたらですけど」

 4月のエキシビションマッチの時、ガンプロ代表の大家健に言われたという。「とにかく勝ちたい!っていう強い気持ちがあれば大丈夫」――。そう言われて、開き直れたと振り返る。華麗な技は出せない。だったらせめて気持ちを込めて、泥臭く闘おう。「華麗な技も似合いますよ」と筆者が言うと、照れ臭そうに笑った。

 父はまだ、娘がプロレスラーになったことを知らない。いつか「ベルトを獲った」「リアラは成功した」といったニュースで知ってほしいと思っている。

「いつかは絶対に試合を見に来てほしいですね。後楽園の特等席、ガンバレ☆シートで。私が自分のお金でチケットを買って、招待したいです」

 きっと、大丈夫。プロレスラーとしては新人だが、彼女にはトップを目指してがむしゃらに頑張ってきた経験がある。これからも、つらいこと、悔しいこと、悲しいこと、たくさんあるだろう。そうした思いを、すべてリングの上でぶつけてほしい。お父さんにも、思いはきっと伝わる。

 きっと、大丈夫だ。

【プロフィール】

●リアラ

1989年3月23日、宮城県栗原市生まれ。高校卒業後、地元のスーパーに就職するが、半年で退職。仙台市国分町のキャバクラに勤め始める。No.1を取った後、2011年に上京。歌舞伎町でもNo.1になり、1日最高29卓被り、バースデー月指名500組、3年連続シャンパンタワーを達成。「伝説のキャバ嬢」と呼ばれるようになるが、プロレスラーになる夢を諦めきれず、2022年6月、ガンバレ☆プロレスの練習生となる。2023年4月と5月、春日萌花とエキシビションマッチを行ない、5月5日、後楽園ホール大会でデビューした(対YuuRI)。155cm、49kg。Twitter:@puusan1580