「少子化が深刻な韓国が日本より経済成長」のナゼ
韓国は日本より少子化が深刻なはずなのに経済は成長している。少子高齢化を停滞の理由に挙げる日本はどこが問題なのか(写真:ブルームバーグ)
日本株が好調だ。日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)は、5月に入ってから平成バブル崩壊後の最高値を更新。6月も7日にそろって再び更新した。
「日本株の復活」についての要因はさまざま挙げられるだろうが、TOPIXの年初来リターンは約18%(6月9日現在)であり、米国株の代表的な指標であるS&P500種指数(同約12%)を上回っている。年末まではまだ長いが、このままなら2022年に続いて2年連続で日本株が米国株をアウトパフォームする(上昇率で上回る)ことになる。
日本株好調の「真の要因」は何か
一方、ドイツ、韓国、台湾などの株価指数は2023年初から日本株に先行して上昇していた。実は日本株は4月まで出遅れており、5月半ばからの大幅高で、それらの国の株価にほぼ追いついた。米国株や中国株への投資資金が年初から米中以外にシフトする中で、5月に日本株にも本格的な投資資金が入ったとみられる。
ちなみに、韓国や台湾の1人当たりGDPはもはや日本とあまり変わらないのでほぼ先進国と位置づけられるが、経済規模が相対的に小さい。それゆえ、外国人投資家からの資金流入に対する株式市場の反応は、日本よりも早かったのかもしれない。
もちろん、日本株が選好されている要因としては、政治情勢の安定、東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率)基準の明示化、半導体など製造業の国内回帰、などが挙げられる。
だが、5月になってから、これらに目立った動きがあったとは言いがたい。やはり、ほとんどの国がインフレ制御に苦慮する中で、日本のインフレ率が2%を超えても日本銀行が金融緩和を続けていることが大きいといえそうだ。4月に日銀の植田和男総裁が金融政策変更に慎重な姿勢を明確にしたことが、5月からの日本株高のきっかけになったのだろう。
ところで、前述のように、韓国株は年初来騰落率において、4月まで日本株を大きくアウトパフォームしていた。
では、同国の経済状況は良好なのだろうか。韓国では、合計特殊出生率が1を大きく下回り、日本よりも少子化問題は深刻とされている。同国の生産年齢人口がピークに達したのは2019年である。日本で生産年齢人口がピークに達したのは1995年だったが、それ以降日本ではデフレと経済不況が起きて「失われた20年」が始まった。
なぜ生産年齢人口のピーク後も経済成長できているのか
ということは、韓国でも今後、経済が停滞するのだろうか。実は韓国では、生産年齢人口がピークに達して数年が経過、働き手の減少が続くという見通しは強まっているが、経済停滞が始まる兆しは見られない。
コロナ禍後の実質GDPの推移を見ると、コロナ禍前の2019年12月と比べて、2023年1〜3月の韓国GDPは5%増えており、先進国の中でも経済回復が早かったアメリカとほぼ同様の経済成長を実現した。少なくとも、ヨーロッパや日本よりもコロナ禍後の経済成長ペースは速い。
なお、韓国でも2022年以降、インフレ率は上昇している。インフレ率(コア)は2023年4月時点で前年同月比4.6%までに上昇している。それに対して中央銀行が2023年1月に政策金利を3.5%まで引き上げ、その後は政策金利を据え置いている。アメリカやヨーロッパと比べると高インフレ制御に成功しつつ、経済成長を保っている。ちなみに2023年4月の失業率は2.6%と、コロナ禍前よりも改善している。
同国では、生産年齢人口がピークに達したあとも、1990年代後半の日本が経験したように、経済成長停滞やデフレに陥る兆候はない。筆者は同国について普段あまりウォッチしていないので知見は限られているのだが、不動産価格の下落などの問題がまったくないわけではない。
それでも経済指標を見る限り、「コロナ禍」と「現役世代の人口減少」という相応の変化があっても、同国の経済は深刻な状況に直面していないように見える。
先述のように、日本では生産年齢人口がピークに達した1990年代後半以降、長年のデフレと低成長に直面した。そのため、「労働力減少や少子高齢化がデフレや経済停滞の主たる要因」との見方はいまだに根強い。
だが、筆者自身は、人口動態が経済成長率やインフレに及ぼす影響は決定的に大きくはなく、「人口減でデフレになる」「働き手が増えなければ経済成長は難しい」などは妥当ではない議論と考えている。そもそも人口が減っても、1人当たりGDPを増やすことで経済的な豊かさを高めることができるし、このため人口や働き手が減少してもデフレになるとは限らない。
最近の韓国経済の経験は、現役世代の人口が減少に転じても、マクロ安定化政策を間違えなければ経済成長は可能であることを示す、1つの証左になるかもしれない。
そうであれば、長期にわたりデフレに陥り、名目経済成長がほとんど増えなかったかつての日本経済の停滞は、人口動態が引き起こしたのではなく、当時の不十分な金融財政政策の帰結ということになるのだろう。だからこそ、安倍政権下での2013年の金融緩和転換で、デフレではない状況が到来した、ということになる。
岸田政権下でも名目3%程度の経済成長は可能
さて、岸田政権の経済政策では、当初看板とされた「新しい資本主義」の政策メニューの具体策は限られる中で、現在の経済政策の目玉は「少子化対策」に移ったようである。
具体的には、子育て世代への所得支援政策を中心として、「3兆円台」の規模で政策対応が実現する方向と報じられている。これが経済成長を押し上げる効果は限定的だろうが、現役世代に対する所得分配政策は少子化対策として悪くない対応だと筆者は考えている。
ただ、内閣府などが示しているような出生率の上昇の効果があるかは、しっかり検証されているようには見えない。そして、子育て現役世代への分配政策に加えて、経済成長を一段と高める政策が必要だろう。
「2%のインフレ持続」をしっかりコミットする(結果を約束する)ための金融政策は当然であるし、それと整合的な「機動的な財政政策」のポリシーミックスが必要になる(増税・社会保険料引き上げは、それに反する政策である)。
そのうえで、規制緩和政策などの効果が高まれば、ほかの先進国同様に、日本の名目経済成長を3%程度の安定的な成長軌道も可能と筆者は考えている。
こうした経済環境を整えながら現役世代の将来所得期待を高めることが、少子化を抑制する最も確実な政策対応と位置づけられる。そして、金融財政のポリシーミックスを岸田政権が間違えないことが、「日本株復活」が長期にわたり実現する必要不可欠な条件になるだろう。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
(村上 尚己 : エコノミスト)