プレジデント誌独自の大規模アンケートで見えた、50代、60代で早死にしてしまった人の死の兆候と生活習慣。楽しい老後を迎えるためにも、生活習慣を省みよう。「プレジデント」(2023年6月2日号)の特集「間違いだらけの健康常識100」より、記事の一部をお届けします――。
写真=iStock.com/andriano_cz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/andriano_cz

■50代・60代で早死にした人は、なぜ早死にしたのか?

元気そうに見えていた50代・60代の親族や友人が、体調を崩して急逝してしまった――。読者のみなさんにも、そのような経験はありませんか?

男性で81.5歳、女性で87.6歳という日本人の平均寿命を考慮すると、あまりにも早すぎる死の原因はいったい何だったのか。故人の死を悼む気持ちが強いほど、死の兆候や生活習慣の変化について気づいてあげられなかったことが、悔やんでも悔やみきれないでしょう。周囲で同じような悲劇を繰り返さないために、自分は何ができるのか。それは、故人の死から学ぶこと以外にありません。

「死人に口なし」なので、実際に早死にしそうな自覚が故人にあったかどうかはわかりません。しかし、家族や友人であれば、故人の生活習慣の乱れや外観の変化に何か気づいていたはずです。

今回、50代・60代の親族や友人を亡くした人を対象に、早死にの原因として心当たりのある兆候や生活習慣についてアンケートを取りました。データは雄弁に語ります。アンケートの結果をもとに早死にに繋がる兆候や生活習慣について一緒に見ていきましょう。

■「赤ら顔」は危険な死の兆候

まずは、早死にした故人に見られた「死の兆候」について見ていきます。

「赤ら顔」は血行が良い証しなどといわれ、健康の代名詞と考えられたりもしますが、実はそんなことはありません。赤ら顔の人は大抵手も赤いのですが、そういった状態を漢方医学では「瘀血(おけつ)」といい、これは血の流れが滞っているということを示しています。私が周囲で早死にした人のことを思い浮かべると、ほとんどの人は顔が赤かったのです。

瘀血は西洋医学的にいうと、血液中にコレステロールや中性脂肪などの栄養物質に加えて、尿素窒素、尿酸などの老廃物が溜まって血液がドロドロになっている状態です。瘀血になっていると血液中の栄養素が体中へ運ばれにくくなり、代償反応として血管が拡張します。赤ら顔の人は血管が拡張した結果として、顔が赤く見えるようになります。ちなみに、冷え性は血管が収縮して血液の流れが悪くなり、これもやがて血液がドロドロになって瘀血になります。

血の流れが滞って血行が悪くなった結果、行きつく先は脳梗塞や心筋梗塞、そしてがんです。

女性の場合、手のひらや顔が赤い人でも、すぐには心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしません。なぜなら、瘀血のサインとして生理不順や出血多量、子宮筋腫などの子宮卵巣系の病気が間に挟まってくるからです。つまり生理には、瘀血を外に捨てる浄血作用があるということなんですね。一方の男性は、瘀血と脳梗塞や心筋梗塞の間にワンクッションがないので、突然死んでしまうこともありえます。

周囲に赤ら顔の人がいれば、体調に異常がないか、体に不具合はないかを聞いてみてあげるといいでしょう。体の不調には、本人ほど無自覚ということもありえますからね。

■痛みや痺れを見逃すな、体の内なる声を聞こう

頭痛は早死にと関係があり、これも赤ら顔と同様瘀血によるものです。どんな痛みも発生するのは血行が悪いところです。先ほども言いましたが、血行が悪いところでは代償反応として血管が拡張します。その際にプロスタグランジンやブラジキニンといった、血管拡張作用と引き換えに発熱や痛みを引き起こす物質が合成されます。おそらく頭痛で悩んでいた人というのは、脳の血行が悪くなっていて最終的に脳出血や脳梗塞で亡くなったのだと思われます。胸のあたりや背中が痛い人は狭心症や心筋梗塞、大動脈瘤破裂、それから不整脈の可能性もありますね。

痛みのほかには手足の痺れも危険な兆候です。手足で左右片方だけの痺れの場合は、脳から来ている場合が多く、脳梗塞や稀に脳腫瘍が原因です。両側が痺れる場合は、手先、足先の血行が悪いことが考えられます。ここでもやはり血行が重要です。

自分の血行が悪いところを調べたくても、健康診断ですべて網羅するのは難しいと思われがちです。しかし、今は脳ドックや循環器ドックという便利な検査がありますから、不安がある方は利用してみてください。一番よくないのは、痛みや痺れの発生後しばらくして症状が緩和した際に、「様子を見よう」と放置することです。頭痛や痺れという体が発するSOSのサインを見逃さず、早めに病院に行きましょう。

■筋トレで体の老化を遅らせる

「平坦な道でつまずくことが、早死にと関係あるの?」。そう思うのも無理はありません。しかしながら、実はこれも早死にと関係しています。

運動中枢は脳にあります。脳の血行が悪くなれば、脳は萎縮し、運動神経の機能が低下します。片足で立てない人は脳血栓や脳梗塞が起きている可能性が高いともいわれています。

また血行が悪くなっているほかに、筋力の低下がつまずく理由として挙げられます。平坦な道で転ぶということは、足の筋力が落ちて足を持ち上げられない、すなわちすり足になっているということです。

体の筋肉量は体重の40%を占めており、そのうち70%が下半身に集中しています。中でも一番大きな筋肉が臀部と大腿部の筋肉です。年をとってこれらの筋肉が細くなると、今まで支えていた体重が支えられなくなり、体重がそのまま膝や腰にかかりますから、膝痛や腰痛が発生しやすくなります。それと同時に糖尿病や高血圧、痛風も増えてくる傾向があります。筋肉は内臓の病気とも深く関わっているわけです。つまり老化というのは筋肉の衰えのことなのです。

では、どうしたら老化を遅らせることができるのか。答えは簡単です。筋肉を鍛えればよいのです。

筋肉を鍛えると、筋肉細胞からマイオカインというホルモンが分泌されます。マイオカインは血圧やコレステロール、中性脂肪、血糖の数値を下げ、また心臓を強くしてくれます。そしてがん細胞の増殖を抑えてくれることもわかっています。老化のサインが出てきたら筋肉を少しずつ鍛えましょう。

■AM0〜2時は睡眠のゴールデンタイム

次に、早死にした人の生活習慣について見ていきましょう。故人の早逝ともっとも関連があると思われている生活習慣は、日常的な喫煙でした。

タバコに含まれるニコチンは、全身の血管を縮めます。つまり、喫煙によって血流が悪くなり、瘀血の状態を引き起こします。加えて、タバコの煙というのは大気汚染の濃縮型のようなものですから、それを吸っていると考えれば体によくないのは当然です。

ただし、タバコも「百害あって一利なし」とは言い切れません。タバコは煙を吐くことによってリラックスを司る副交感神経がよく働き、緊張・戦いと呼応する交感神経を和らげます。喫煙者がタバコを吸う理由を、一様に「リラックスできるから」と言うのはこのためですね。ストレスフルな生活を送る現代人にとって、タバコが欠かせない存在というのもうなずけます。

しかし、タバコの喫煙はその一利のためだけに百害を伴っています。喫煙するのであれば、少なくとも運動やサウナなどで健康のレベルを上げつつ味わったほうがいいですね。

家庭内に不和を抱えていたり、不倫をしたりするのも死を早めます。家庭内で常に戦い・緊張を抱えているというのは、交感神経が常に働いている状態です。交感神経が活発だと血圧は上がり、血管は縮み、心臓には負担がかかり……。何もいいことがありません。家庭で穏やかに過ごせるのが、長生きの秘訣です。不倫については、言うまでもありませんね。体にも世間体にもよくないのでやめましょう。

夜型の生活もよくない生活習慣で、ホルモンバランスの乱れを起こします。

体の生命力を一番強くするホルモンに、副腎から分泌されるコルチゾールがあります。これは、分泌量に日内変動があり、朝から夜にかけてだんだんと分泌量が減っていきます。そしてもう1つ、免疫力を高めるリンパ球が関係しています。リンパ球が一番よく働くのは、寝ている間の午前0時から2時といわれています。その間に就寝していないと免疫力が上がらないので、昼夜逆転している人はあらゆる病気にかかりやすくなるというわけです。

同じ5時間寝るのであれば、午前2時に寝て7時に起きるのではなく、午後12時前には床について5時に起きるほうがずっといいです。昔からの知恵である「早起きは三文の得」は、まさにその通りということです。

■サウナ習慣と断食で体のバランスを整える

最近はサウナが大ブームになっていますね。サウナは心臓によくないとか、血圧が高い人はやめたほうがよいといった意見も聞きます。しかし、実際は適度なサウナ習慣が心不全の予防に寄与することがわかっています。

心臓の病気が最終段階になると、心臓は血液を送り出す力が弱くなります。そうすると腎血流が低下し、尿の生成量が減少した結果としてむくんだ状態になります。そうすると、利尿剤や強心剤を使って治療しますが、それだけで不十分な場合があります。そういったときに、65度(少し低め)のサウナに15分、週3回入ると状態が改善するという報告があります。これがいわゆる和温療法です。循環器以外の病気でも例えば線維筋痛症やムズムズ病などにも効果があるとされています。

人間は熱で生きています。日本人の体温は1957年に平均36.9度でした。今は、35.8度から36.4度ぐらいなので、65年前と比べて約1度低下しています。体温は1度下がると、免疫力がだいたい30%低下します。逆に1度体温を上げると、数時間は免疫力が4倍から5倍になります。フィンランドでサウナへ入る頻度が週1から週7の人まで調べたところ、頻度が高い人ほどあらゆる病気の罹患率が少ないことがわかりました。私も週に2回サウナに行くようにしています。

食べすぎもよくありません。2016年にノーベル賞を受賞された東京工業大学の大隅良典先生は、「オートファジー」について研究をされていました。オートファジーとは、空腹のときに細胞の中にある古いタンパク質やウイルスを細胞自身が消化する仕組みです。オートファジーが作用することで、細胞が若返ります。つまり空腹が細胞の若返りを促進するということですから、断食は理にかなっています。私自身も40年前から断食を実践していますし、一般の方から政界の方、スポーツ選手、芸能人まで多くの方が私の断食道場を訪れています。

■死の兆候として見られていたことの多くが「血行」と関係

ここまで50代・60代で早死にした方の原因として考えられることについて解説してきましたが、死の兆候として見られていたことの多くが「血行」と関係していました。体は血行が悪いことを伝えるサインを発しますから気づいてあげられるようにしましょう。

動物は病気になると、食べないか、あるいは熱を出します。空腹の時間は細胞の生まれ変わりを強化します。熱が出るというのは温めることで、体温が上がれば免疫も活性化します。自発的に温めたい場合は筋肉を動かすとよいでしょう。特に人間の体の中心であるお腹をハラマキなどで温めるのも重要です。

食べ物にも体を温める食べ物と冷やす食べ物があります。赤・黒・橙の食べ物は体を温め、青・白・緑の食べ物は体を冷やします。年とともに体温は下がりますから、体を温める食べ物、つまり、牛乳よりチーズ、うどんよりそば、白ワインより赤ワイン、緑茶よりも紅茶、というように選択するとよいでしょう。チョコレートなんかは万能の健康食品ですよ。

死の兆候を事前に察知して、何事も「ほどほど」を心がけて突然死を防止しましょう。

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石原 結實(いしはら・ゆうみ)
医学博士、イシハラクリニック院長
1948年、長崎県生まれ。長崎大学医学部卒業、同大学院博士課程修了。医学博士。年間365日休むことなく診察・講演・執筆・メディア対応を精力的に行っている。近著に『65歳からは、空腹が最高の薬です』(PHP新書)。
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(医学博士、イシハラクリニック院長 石原 結實 構成=田中彩瑛)