近頃、米国経済がそろそろ失速するのではないか、というニュースを耳にすることが増えています。FRBがインフレを抑制するために異例のペースで金利を引き上げてきたことで、副作用として景気が減速しているというのが主な理由です。さらに、シリコンバレー銀行を発端とする複数の銀行破綻もあり、一時は「リーマンショックの再来」が懸念されるなど、直近でも金融不安が生じました。昔から日本では「米国がくしゃみをすると日本も風邪をひく」と言われていますが、これは現在の世界経済の状況下でも起こりうることなのでしょうか。今回は米国経済と日本経済の関係を中心にデータを見ていきたいと思います。

日本の貿易相手国は?

「米国がくしゃみをすると日本も風邪をひく」という言葉から分かる通り、日本は米国と経済的な関係が強く、米国経済が不調になると日本経済もつられて不調になってしまうということです。2ヶ国間の経済と聞くと、すぐに思い浮かぶのは貿易でしょう。財務省が発表している貿易統計を見てみると、1995年時点では日本の世界最大の貿易相手国は米国であることが分かります。

輸出先でも全体の27.3%のシェア、輸入先でも全体の22.4%のシェアを米国がもっていました。しかし、2021年のデータを見てみると、日本の世界最大の貿易相手国は米国から中国に代わっていることが分かります。輸出先のシェアは中国が21.6%、米国が17.8%。輸入先のシェアは中国が24.0%、米国が10.5%となっています。

依然として貿易における米国の存在感は強いものの、貿易という観点からは「中国がくしゃみをすると日本も風邪をひく」という表現をしたほうが正確なのかもしれません。

ちなみに、2021年時点で中国から最も輸入している品目は「通信機」、最も輸出している品目は「半導体製造装置」となっています。

注目すべきは日米の金融政策

それでは、日本経済における米国の影響度が多少は落ちたからといって、米国経済を軽視していいかと言えば、もちろんそのようなことはありません。足元で特に注意しなければならないのは日米の金融政策です。

米国労働省が4月12日に発表した3月の消費者物価指数は、前年同月比+5.0%となり、前月の同+6.0%から大幅に減速しました。FRBが重視するコアPCE(個人消費支出)デフレ-ターも、2月分の数字が前年同月比+4.6%と市場予想と前月実績を下回っており、異例のペースで金利を引き上げてきた効果が徐々に表れつつあります。利上げの影響は着実に出ているものの、平時から見ればインフレ関連の指標は依然として軒並み高い水準にあります。インフレ抑制を第一の目標に掲げるのであれば、まだ金融引き締めの手は緩められないと言えるでしょう。一方で、これ以上の金融引き締めは景気をオーバーキルしてしまう懸念もあり、FRBは今後のかじ取りが非常に難しくなっています。市場では夏頃から利上げをやめて、秋頃から利下げフェーズに突入するという見通しがコンセンサスになっています。

4月にこれまで10年間日銀総裁を務めてきた黒田東彦さんが退任し、植田和男さんが新しい総裁に就任しました。しばらくは黒田路線を引き継ぐとは思いますが、これまでの発言を見てみると異次元の金融緩和に対しては副作用もあると指摘しており、徐々に金融政策の修正を図るでしょう。そうなると、日米の金利差が縮小することになり、ドル円相場では円高傾向になる可能性が高まります。

日本経済に影響を与える金融不安

私が「米国がくしゃみをすると日本も風邪をひく」という言葉を実感したのは、2008年のリーマンショックでした。米国の住宅バブルが崩壊し、米国の投資銀行大手のリーマンブラザーズが経営破綻したことで、日本経済も不況に陥り、非正規労働者が解雇される「派遣切り」も横行しました。正確に言えば、リーマンショックの場合は「米国がくしゃみをすると世界も風邪をひく」かもしれません。

最近でも「リーマンショックの再来なるか?」と思ってしまうようなことが起きました。それがシリコンバレー銀行から始まった米国の複数銀行の経営破綻です。その影響は米国外におよび、クレディスイスがUBSに救済買収されるまでの事態となりました。しかし、米国当局がシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行両行の預金の全額保護を早々に発表したため、リーマンショックの再来とはならず、少なくとも現時点では局所的なショックで収まりました。

しかし、一連の銀行破綻を受けて、日本の銀行、なかでも地方銀行に対して同様の事象が起きないか不安になった方もいるでしょう。長期間にわたって低金利政策がとられている日本においては融資で稼ぐことが厳しく、日本の地方銀行はメガバンクのように海外で稼ぐという選択肢がとれません。そのため利回りが高い外国債券での運用をしていることから、昨今の米国金利上昇局面で含み損を抱えています。仮に米国で再び金融不安が生じた場合、日本の地方銀行も連鎖的に影響を受ける可能性は否定できません。

実は米国と中国の関係が重要

これまで見てきたように、貿易の観点では最大の相手国が中国に変わったものの、依然として金融面では米国の存在が大きいことが分かりました。しかし、これからの日本経済を考える上では、実は米国と中国の関係が重要だと考えています。

現在、太陽光パネルや半導体分野で米国が中国に対して厳しい貿易規制を行っており、中国もそれに対して対抗措置をとっています。米国は中国の脅威に対抗すべく、同盟国と協調して貿易を制限しようとしていますが、一方で、中国は米国と距離を取りたいロシアやグローバルサウス各国との関係を強化しています。また、同時に脱ドル化を進めています。

日本の場合は、これまで見てきたように、貿易面では中国との取引が最大である一方で、米国とは同盟関係にあり、板挟みの状態になっています。仮に米中両国間における貿易に関する規制が強化されてしまえば、極端なことを言えば日本は大きな貿易相手のうちの片方を失う可能性があるということです。

今後は米国がくしゃみをしたり、中国がくしゃみをしたりするたびに、日本はいままで以上に風邪をひきやすい状況に追い込まれていくと言えるかもしれません。外的要因に左右されないためにも、なるべく日本国内でエネルギーや食料を自給できる体制を整えるべきだと考えます。