角田裕毅11位ノーポイントであってもキャリアベストの走り「本当に、本当に、いいレースだった」
「最初からペースがよくなかったですし、純粋にまったく速さが足りなかったということです。今週が厳しいだろうというのはわかっていましたけど、今季ここまででワーストの予選になってしまいました」
マイアミGPの予選を17位Q1敗退で終えて、角田裕毅は吐き捨てるように言った。
角田裕毅は予選17番手からどんな走りを見せたのか
予想していたとおり、前戦バクー(アゼルバイジャンGP)と違って中高速コーナーもあるマイアミではダウンフォースを極限まで削ることができず、それでもなんとかライバルたちと勝負のできる最高速を確保しようとすればダウンフォースが足りない。結果として、アルファタウリはまたしても全体のなかで9番手か10番手のマシンになってしまった。
路面にラバーが乗ってグリップが向上したことで、リアの挙動が安定する分だけアンダーステアになり、マシンは曲がっていかない。
「セットアップを大きく変えて臨んだんですけど、まぁ普通でした。スタビリティは少し改善されましたけど、問題はスタビリティだけではなくてローテーション(回頭性)も必要だったので......にしても、ここまで差が大きかったことには少し驚いています」
17番グリッドから臨む決勝は、定石とは逆のハードタイヤスタートを選択。レース前半にセーフティカーが出れば、自分たちだけタイヤ交換ができずに大きな不利を被るリスクはある。だが、同じ戦略で同じように走っても逆転の望みが極めて薄い以上、この戦略を採るのは当然のことだった。
スタートから積極的に攻めていき、1周目にターン14〜15のシケインから最終コーナーまで周冠宇(アルファロメオ)とサイドバイサイドのバトルでポジションを奪い取った。そこからバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)を先頭とするDRS(※)トレインのなかで、ルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)やニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)らとともに集団に遅れず、なおかつタイヤをいたわりながら走行を続けた。
※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。
ミディアムタイヤ勢が早々にピットインを余儀なくされ、30周目を過ぎると同じハードタイヤのヒュルケンベルグのペースも低下。そこを見逃さず、角田は抜き去ってポジションを上げた。
【勝負どころで全開プッシュ】アルファタウリは予選で大苦戦を強いられたが、前夜に雨が降ってラバーが流れ、土曜より10度も路面温度が下がった決勝では見違えるような好ペースを見せた。予選よりも大幅に決勝にフィットしたセットアップだったとも言える。
「予想以上によかったですね。ミディアムも含めて全体的にレースペースはよかったと思いますが、特にハードはよかったので、そこがこのレース展開につながったと思います」
たまらずピットインしたヒュルケンベルグに対し、「ここが勝負どころだ。全開でプッシュしろ」と指示を受けた角田は、3周ステイアウトして自己ベストタイムを連発。見事にヒュルケンベルグに対してポジションを守りつつ、第2スティントは3周フレッシュなミディアムを履いて戦えるアドバンテージを作った。
角田はタイヤマネージメントも完璧だった
第1スティントのタイヤマネージメントが、レース終盤のアドバンテージになる。レース序盤にタイヤ交換を済ませたドライバーたちに比べて20周もフレッシュなタイヤ、それもハード勢に対して角田はミディアム。この差を生かして、角田は猛攻を仕掛けた。
角田はとにかく前だけを見てレースをしていた。
「今日は行けるな、と思った瞬間は最後までありませんでした。そんなことを考える余裕はありませんでした。でも、ブレーキングには自信があったので、とにかくブレーキングで思いきって突っ込んで抜くことができました」
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)を抜き、ボッタスもパス。いずれも思いきりのいい飛び込みと、相手に反撃の余地を与えない絶妙なライン取りで、一発でオーバーテイクを決めた。
バトルが長引けば長引くほど、相手にはこちらの攻撃に対して学習の機会を与えることになる。そして、後方を走ってバトルを仕掛けることでタイヤを傷めてしまう。
だからこそ一発で仕留める、というのは極めて重要なことだ。その能力ゆえにマックス・フェルスタッペンが怒濤の追い上げで逆転優勝を果たすことができたのと同じように、角田もキレのある走りを見せた。
【すべてを出しきって悔いなし】あっという間に11位に浮上し、残り8周で10位のケビン・マグヌッセン(ハース)は5秒前方。さすがに追いつけないかと思われる距離だが、角田はあきらめなかった。うしろからは遥かにマシン性能に優るはずのアストンマーティンのランス・ストロールが追いかけてきたが、そんなことは気にしてもいなかったという。
「そんなに意識はしてなかったですね、前だけを見ていたので。最後の最後はストロールも迫ってきましたけど、10位が目の前にあったので、うしろよりも前だけを意識してレースをしていました」
タイヤをいたわりながら、攻めるべき時には鋭く攻め、ミスを犯さず、マシンのすべてを出しきる。計算上は届かないとわかっていても、目の前に見えた入賞の可能性に賭けて、最後まで全力でプッシュし続ける。
ドリンクボタンが機能せず、高温多湿のタフな環境だったにもかかわらず、最後まで気力を失うことなく攻め続けた。それは今季からトレーニングを強化し、肉体を進化させてきた結果でもある。
「そうですね、それ(ドリンクが飲めなかったこと)もけっこうきましたね。暑いし全体的につらかったですけど、今年トレーニングを強化してきたのが最後までパフォーマンスを維持するのに効いたと思います」
最後はマグヌッセンに1.364秒届かず11位。リザルトとしては1ポイントも得られなくても、角田は自分たちにできうるかぎりのレースはした。
「本当に、本当に、いいレースだった」
レースエンジニアのマッティア・スピニも、角田を讃えるように言った。
角田自身も、自分たちのすべてを出しきったのだから、悔いはなかった。
「自分自身としてはもうすべて出しきりましたし、しょうがないと思います。ドライバーとしてはマシンのパフォーマンスをすべて出しきる以上にできることはありませんし、今年はここまですべてのレースで自分の力を出しきれているなと思います。これ以上は特にないと思います」
結果はノーポイント11位でしかない。しかしドライビングの腕としても、最後まであきらめず攻め続けた精神力としても、間違いなく角田のキャリアベストのレースだった。