ITS(高度交通情報システム)技術がついに自転車にも! 交差点での安全性向上に貢献
交通事故を防ぐ技術というと、近年は自動運転がクローズアップされることが多いですが、ITS(Intelligent Transport Systems)と呼ばれる高度交通情報システムも注目すべき技術のひとつ。「車車間通信」と呼ばれるクルマ同士の情報通信や、信号機など道路側のシステムとクルマとで行われる「路車間通信」によって、事故だけでなく渋滞や環境汚染の低減などに貢献するシステムです。
実は高速道路で使われているETCもITSのひとつ。近年は対応のカーナビで事故や渋滞を回避するための情報を受信できるものも増えています。ただ、このITSの取り組みを取材していても、これまでは自転車が視野に入っていないと感じることも少なくありませんでした。
その点で、パナソニックが京セラ、トヨタ自動車、豊田通商と連携し、3月に行った自転車とクルマの車車間通信を用いた実証実験は画期的だったといえます。その模様がメディアにも公開されたので、実際に体験してみたレポートをお届けします。
■ブラインドの交差点での安全性を向上
自転車が関連する事故に目を向けると、死傷者の約8割は対クルマの事故に起因するもの。そして、その46%は交差点内で起きています。自転車ユーザー向けの調査でも、約6割の人が「交差点で死角から接近するクルマの存在に気付かずに、事故に遭いそうになったことがある」と回答しているとのことです。
そうした事情を受けて、今回の実証実験も交差点での事故を防ぐことにフォーカスしています。
見通しの悪い交差点に向かって走行する電動アシスト自転車と、別方向から同じ交差点に向かうクルマの双方にITS対応無線機を搭載。お互いが接近していることを知らせることで、事故を未然に防ぎます。
これまで、自転車にITSが普及していなかったのは、通信を行ったりGNSSから信号を受信するアンテナなどのITS対応機器に電力を供給することが難しい、という事情もありました。ただ、電動アシスト自転車であれば電力の供給が可能。電動アシスト自転車の普及が進むことは、ITS対応自転車の可能性を広げることにもつながります。
実験に使われる電動アシスト自転車はパナソニックが用意。ITS対応無線機は京セラが、クルマ側の車車間通信機能についてはトヨタ自動車が提供しています。豊田通商は実証実験の運営を担っているとのこと。
パナソニック製の電動アシスト自転車には、自車位置を把握するためのGNSSアンテナと受信機、ITS用の通信機・アンテナなどが装備されており、電力はアシスト用のバッテリーから供給されます。ITS対応無線機からの情報は、スマホに表示される仕組みになっていました。
■警告の表示だけでなくお礼もできる
メディア向けに公開された実証実験のデモンストレーションでは、大型のトラックが止まっていて見通しの悪い交差点に自転車が差し掛かるシチュエーションが用意されていました。普段、街中で自転車に乗っていると、割とよくある状況です。クルマのほうは死角から接近してくるため、そのまま交差点に入れば衝突事故に発展してしまいます。
自転車とクルマに設置されたITS対応無線機は、それぞれGNSSからの信号を受信することで、自車位置と移動速度を計算。そのまま進むと衝突する危険があることがわかると、それぞれにお互いの接近が通知されます。自転車側には、スマホの画面に「クルマが接近」という表示が出るのに加えて音声でも通知されます。
クルマのほうが停止すると、自転車側のスマホ画面には「お先にどうぞ」という表示も。一般に、自転車で走っているとクルマ側のドライバーの意図は推測することしかできませんが、このように車車間通信を利用してメッセージが伝われば、誤解による事故などを回避することもできます。
また、交差点を横断後に自転車のライダーから乗用車のドライバーに対し感謝の意を伝える機能が実装されているのも面白いところ。お礼を伝えられたことで、ドライバーの次の行動のモチベーションに繋げることが狙いです。
デモンストレーションでは、交差点のかなり手前でライダーに対して通知が届き、減速することで事故を未然に防ぐだけでなく、ライダーとドライバーの意思疎通や感謝の意を伝えることが可能となる様子が公開されました。
また、ITS対応無線機を搭載した自転車にも乗らせてもらい(実際にクルマは接近していないが、擬似的に信号が届く)、走行する速度が速くなると危険を知らせる通知が届くタイミングも早くなることが体験できました。
現状の仕組みでは、この機能を利用するためには自転車側だけでなく、クルマの側もITS対応機器を搭載している必要がありますが、将来的には交差点にカメラやITS対応無線機を集約した「スマートボール」を設置し、それと自転車の間で通信する機能も視野に入れているとのこと。この仕組みであれば、ITS対応機器を搭載していないクルマや自転車の接近を通知することもできます。
走行時の安心感を高めてくれるITS対応の電動アシスト自転車。パナソニックによると製品化は2025年以降を見込んでいるとのことですが、期待して待ちたいところです。
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
【関連記事】
◆手軽な装着でドライバーをサポートしてくれる安全運転対策グッズ7選【プロが選んだ本当に良いカー用品ベストバイ】
◆立ちゴケしないバイクも実現!? 人とバイクの協調を目指すヤマハの安全に対する考え方とは
◆EV普及の鍵となるか!? パナソニックが充電のシェアリングサービス「everiwa」で狙うもの